ある個人ではなく、組織というものを描く

有名な冤罪事件が題材だが、それをある人物のドラマとして描くのではなく、組織というものに生じてしまう腐敗について、人間が抱いてしまう偏った意識についてのドラマとして描く。なぜ冤罪が生じたのか、そして、証拠があるにも関わらず、なぜその冤罪が長年に渡って覆されなかったのかが詳細に描かれていき、現在に繋がる物語になる。
そんなメッセージ性の強い物語を描きつつ、映像は質感も色調もあくまでも豊潤。冷えた大気に漂う靄、石畳の硬い感触。室内の使い込まれた木材が、窓からの弱い光に鈍く反射するさま。撮影は『戦場のピアニスト』以来この監督と組んでいるパヴェル・エデルマン。映像の密度が最後まで保たれる。