心をえぐるヒリヒリとした諜報戦

『シュリ』が情緒過多な演歌に聞こえ、『ミッション:インポッシブル』が無意識過剰なトムのグラムロックに思えてくるほど、『ベルリンファイル』は辛酸を舐めた者にしか分からない、心をえぐられるようなヒリヒリとしたジャズだ。
ストーリーは込み入っている。詳細を理解しようと思えば、1度目の鑑賞では取り残されるだろう。主人公は北朝鮮のスパイ。南北朝鮮の分断が生んだ緊張に、アメリカ、ロシアのみならず、アラブとイスラエルの思惑も絡まり合い、ベクトルが錯綜する。冷戦以降のインターナショナルな諜報活動のリアルが、ここにある。
舞台はかつての分断都市ベルリン。観光映画に堕することなく、ぶっきらぼうに切り取る。ハ・ジョンウの面構えが不敵でいい。銃撃戦も格闘戦も切迫度が高く、北朝鮮の格闘術「撃術」はキレ味満点。裏切り者は誰か。身近な者ほど信頼出来ず、こちらまで情緒不安定に陥りそうになる。チョン・ジヒョンの疑心暗鬼な表情は、もっと評価されるべきだ。