片思い世界 (2025):映画短評
片思い世界 (2025)
ライター3人の平均評価: 3.3
他者の人生に想いを馳せる
主人公は、私たちの知る、理不尽に人生を断ち切られた人たちを彷彿とさせる。その後、彼女たちが歩むはずだった人生を、未来を、ドラマ「それでも、生きていく」で深く生と死を見つめた脚本家・坂元裕二が、鮮やかに物語の中で甦らせる。スクリーンで躍動する3人の姿は、”あの日”から時間が止まってしまったであろう誰かを、前に歩ませる力となるのではないか。同時に、私たちは突きつけられるのだ。日々残酷な事件を目にする中で、本作のようにその人の人生を想像するどころか、消費して終わってないかと。そう思わせるのは、リアルとファンタジーを絶妙にシームレスにし、地に足の付いた世界を構築した製作陣のチーム力に他ならない。
深く突っ込まないで、素直に主人公たちの気持ちになれば…
なぜ片思い? 本作の基本はネタバレ扱いも、映画が始まってすぐにわかる。その意味で、うまいタイトル。主演3人もキャラに沿った好演。
あるシーンで主人公たちの「どうしてもできないこと」で切実な状況が表現されるが、その直前、「では、あれはなぜできた?」と感じる描写があるなど、引っかかる点が多数。
映画ならではの作り物の世界は当然だが、その作り物としての設定が、紡がれる日常で無いがしろにされ過ぎてる印象。「ファーストキス〜」のタイムリープのように、そこを気にせず主題のみに感動できるなら問題ないかも。ただ映画を批評する立場としては重要で、「怪物」の少年同士の関係のように設定が安易に感動ツールにされ無念。
特別感の使い方
広瀬すず、杉咲花、清原果耶という朝ドラヒロイン3人を揃えた一本。脚本の坂元裕二と監督の土井裕泰の『花束みたいな恋をした』のコンビはどうしても”特別感”を感じざる得ないこの3人をその”特別感”をそのまま映画に焼き付けました。変な濁し方をするより、この方がよっぽど効果的で、映画自体を特別なものにしてくれています。メイン3人はキャラクター的に被る部分もあるかと思いましたが、巧みな位置取りでお互いを消し合うことなくむしろ引き立て合っている感もあります。3人の絆を知った上でもう一度映画を見るとまた違った映画になると思います。