しあわせな選択 (2025):映画短評
ライター6人の平均評価: 3.8
物語の着地点に感じる、強烈な毒気と意外性
あまり見たことのない口ひげ姿のイ・ビョンホンをとらえた冒頭にまず驚き、ラストではさらにビックリ。パク・チャヌク監督の前作『別れる決心』の着地点にも仰天したが、本作はそれ以上だ。
基本的には毒気の強いドタバタ喜劇。風刺はとにかく強烈で、パク監督作品らしく衝撃的な局面になる度に、重い“何か”を落としていく。企業社会の激変、家父長制の崩壊、さらには環境破壊まで、本作から受け止められるメッセージは多彩だ。
結局のところ、人間は愚かになる一方なのでは!? 『JSA』以来のパク作品への出演となるビョンホンが体現するダメ男ぶりを目の当たりにすると、そんなことが頭をよぎる。
今なおタイムリー。ラストは考えさせる
原作小説は30年近く前に書かれ、2005年にも一度映画化されたにもかかわらず、今なおタイムリー。「妻子を養うのが男の甲斐性」という文化が残る韓国が舞台なのは、今語る上でより説得力と切実さを増したと言える。主人公がじわじわと希望とプライドを奪われ、人生の転落に直面していく映画の前半は、感情面のリアリティもたっぷり。追い詰められた彼が極端な行動に出ていくあたりから映画のトーンが変わるのだが、スラップスティック的コメディも入ってくるその部分を魅力と思うかバランスが不自然と思うかは見る人次第。映画のなかばのこのあたりは、個人的にややだらけると感じた。しかし、ラストは考えさせるし、演技はすばらしい。
資本主義と家父長制の不条理を風刺する痛烈なブラック・コメディ
愛する家族と広い持ち家に恵まれた中年のエリート・サラリーマン。突然のリストラで「理想の人生」を奪われた彼は、以前の暮らしを取り戻すべく就活に励むも、しかし希望通りの募集は僅かだし競争も激しい。男たるもの妻や子供に贅沢をさせねば、夫としても父親としても面目が立たん!切羽詰まった彼が思いついた究極の秘策。それは、就活で邪魔になるライバルを文字通り「消し去る」ことだった…!という、生き馬の目を抜く資本主義社会の非人間性を風刺した痛烈なブラック・コメディ。特に、現代韓国社会の病理とも言える過酷な生存競争と完璧主義、さらには「男の生きづらさ」の根源となる家父長制的な価値観へ向ける批判は鋭い。
人生の転落に斬新なアプローチで迫った、監督「らしい」一本
絵に描いたような幸せな家族の光景。この監督なので当然ここから破滅や暗転を期待して見つめていると、予想以上のドス黒い展開が用意され、ある意味、満足。衝撃描写や漂う不穏さも「らしい」。
前半のテンポの良さに乗ってしまうと急激な下り坂もブレーキが効かなくなる。そんな魔力も持つ。チャヌク監督作でも最も構成が計算されているのでは?
面接を受ける際、差し込む光で見えない面接官の顔。それが象徴するのは、もはや顔のある人間が不要になりつつある社会システムへの警鐘か。
主人公の計画は、はっきり言って非現実的で無謀。映画的には面白いと感じるが、突拍子なさすぎて置いてきぼり喰らう人もいるだろう。私もその一人だった。
パク・チャヌクブラックコメディの最新形
新作が来るとなるとやはり飛びついてしまう監督の一人であるパク・チャヌクの最新作。『JSA』以来となるイ・ビョンホンとのタッグというのも嬉しい組み合わせです。イケメン枠の人だったイ・ビョンホンも気が付けば何でもできる実力派曲者俳優となってくれましたね。パク・チャヌク作品はバイオレンスと笑いのバランスの良さにいつも唸らせてくれますが、今回も見事でした。しかも今回は”誰でも一度は考えたことがあるであろう思考”を実際に行動に移す物語ということで、思わず感情移入してしまう人も多いでしょう。笑って、驚いて、少し考えさせる映画でした。
ポスト『パラサイト 半地下の家族』として本命級
ウェストレイクの小説『斧』を大胆に換骨奪胎した、現代社会に響くブラックコメディ。コスタ=ガヴラスの2005年版は原作に相当忠実だったが、パク・チャヌク監督はノワール性を踏まえつつポップでカラフルな“過剰の美学”へと振り切る。作風は「復讐三部作」の延長にあり、リュ・ソンヒの美術も貢献が大きい。
郊外の中産階級像はかつて『アメリカン・ビューティー』等が描いた病理を思わせるが、やがてさらなる世界構造の変化がもたらす皮肉が浮かび上がる。イ・ビョンホン(最高)の演技はキートンとも比較されるが、内実はチャップリンの『モダン・タイムス』的風刺が21世紀に反響。自由競争社会の残酷さを二重のレベルで照射する。

























