大統領のケーキ (2025):映画短評
ライター3人の平均評価: 5
イラクから届いた新鋭監督の一閃
独裁者フセインの肖像が街を覆う1990年代イラク。その圧政の下で、理不尽な“ミッション”を受けた少女の冒険は、次第に微かな光として息づく。イラン映画『友だちのうちはどこ?』を思わせるが、ここに漂うのはより深い陰影──ユーモアと痛切なざらつきが同居する複雑な味わいだ。戦争と欠乏の只中で任務へ向かう小さな歩幅が、抑圧の感情を静かに掬い上げる。自国で撮影された貴重/希少なイラク映画として、その生々しい質感は代替不能だ。
演技未経験の子供たちが放つ素朴な強度。監督はこれが長編デビュー作となる新鋭ハサン・ハーディ。自身の体験をもとに本作を紡いだ彼は、過去の傷と現在の息づかいを同じフレームに流し込む。
ほのぼのしているだけじゃない物語
9歳の少女が親友の男の子と一緒に、大統領に捧げるためのケーキの材料を求めて奔走する。こう書くと、ほのぼのした物語だと思うかもしれないが、けっしてそれだけじゃない。独裁政権の下、教師をはじめとする大人たちのほとんどは冷酷で、子どもたちを食い物にして、搾取しようとする。それでも子どもたちは夢中で独裁者を賛辞して、街には爆弾が降り注ぐ。苦しい社会では、弱い子どもたちにしわ寄せがいくのだろう。戦時中の日本もこんな感じだったに違いない。独裁者を生み出してはいけないし、戦争は避けなければいけないのだ。エンディングは思わず声が出てしまった。演者は誰もがイキイキしていて、撮影がとても美しい。
過酷さと人間味に満ちた、リアルで胸を打つ冒険物語
個人的には2025年に見た最高の映画のひとつ。監督は今作でデビューする新人、キャストもほとんど素人ながら、そこから来る正直さがあり、最初から最後まで心をつかんで離さない。登場するのはフセイン独裁政権下の過酷な世で生活する普通の人々。これは、罪のない少女が、とてつもなく不条理でばかげた、しかし彼女の人生を左右する重い任務を果たそうとする冒険映画。その道中、彼女はさまざまなモチベーションを持った大人たちに出会う。ハサン・ハーディ監督は、過剰にドラマチックにすることなく、冷静かつヒューマニティに満ちた目でその状況を見つめつつ、政治的なメッセージもしっかりと盛り込んだ。ぜひ見るべき1作。





















