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神出鬼没、世界が仕事場、その極意!イランの鬼才アミール・ナデリ

イラン出身のアミール・ナデリ監督がイタリアで撮影した映画『山〈モンテ〉』
イラン出身のアミール・ナデリ監督がイタリアで撮影した映画『山〈モンテ〉』

 イラン出身のアミール・ナデリ監督がイタリアで撮影した映画『山〈モンテ〉』が全国順次公開中だ。世界各国で映画を撮っては国際映画祭を飛び回り、公開中の劇場にもふと現れては即席サイン会を開催して観客との交流を人一倍楽しむ。神出鬼没、世界が仕事場のナデリ監督に、その極意を聞いた。

 ナデリ監督は1945年イランに生まれ。『駆ける少年』(1985)と『水、風、砂』(1989)と2作続けてフランス・ナント三大陸映画祭でグランプリを獲得し海外でも注目される存在となったが、それ以前にイランでは初期作品『ハーモニカ』(1974)が国民的映画になるなど、アッバス・キアロスタミ監督らと並んで巨匠と呼ばれる存在である。

 しかし『水、風、砂』以後は、アメリカを拠点に活動を続けている。以降、西島秀俊主演『CUT』(2011)を日本で撮影するなど放浪の旅を続けている。なぜイランを離れ、今も戻らないのか。詳細は語ろうとしない。ナデリ監督は「映画にはものすごく力があるんです。イランを出たのは特別なことではなく、映画の力に引っ張られて動いているだけなんです」と説明する。

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アミール・ナデリ
イランの鬼才アミール・ナデリ監督

 『山〈モンテ〉』も北イタリアのロケ地に引っ張られたという。舞台は中世後期の、岩山に太陽を遮られて食物が育たない寒村。村人がより良き土地へと次々と去っていく中、主人公のアゴスティーノはかたくなに村を離れることを拒み、最後は運命を変えるべく岩山と対峙する。当初は日本の江戸時代を想定して企画を練っていたが、理想とするはげ山が見つからなくて断念した。

 「日本では無理となった時は、本当に悲しかった。でもこれを作るのは難しかったと思う。実際に山を削らなければならず、日本の山の多くは国有地だから許可が得られなかったでしょう」

 イタリアでの撮影が実現したのは、ローマで映画製作を行っているプロデューサーからのオファーだったという。ベネチア国際映画祭に参加した際、彼らの方から「一緒に映画を作りましょう」と声をかけてきた。ナデリ監督は迷わず『山〈モンテ〉』の企画を提案したという。

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 「カメラを3台用意しなければならないし、ロケも大変ですよとあらかじめ説明しましたが、『とにかくお金を集めるので時間を下さい』と。その言葉通り、彼らは資金集めにロケ地交渉、撮影や衣装といったスタッフ集めなど、素晴らしい仕事をしてくれた。わたしはウェルカムの状態で現地へ入ることができました」

 ただし山の持ち主に、岩山を削る許可を得る説得をするのはナデリ監督の任務だった。日本同様イタリアでも山は聖なる存在だ。そもそもなぜこの映画を作るのかから、説明したという。

 「イタリアはある時代、山の陰になっていた国だった。でも誰かが山を削り、太陽の光を照らしたからこそ、ミケランジェロやダ・ビンチのような英雄を生んだ。でも今のイタリアの状況を見ると、経済的にも政治的にも再び、影で覆われているように思います。でもこういう映画を見て感化された若い子が、自分でも何かを変えることが出来るかもしれないと思ってくれるでしょう」

 巨匠と呼ばれる監督ほど“人たらし”の才能を持っているが、ナデリ監督もまたしかり。この説得が効いて実際に山を削る許可を得たのに加え、俳優陣には撮影の4か月間、ずっと同じ衣装を着させて洗濯はNGという難題も実現させてしまった。ナデリ監督の「良い映画を作りたい」という無垢な情熱が多くの人のやる気を焚き付けてしまうようだ。

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 「服を脱いじゃダメと言ったら、そのうち彼らはお風呂にも入らなくなって、劇中の姿は嘘でもなんでもなく、本当に汚れてました。でも最初のあいさつの時に、スタッフみんなに言ったのですよ。『映画作りではなく、今から戦いに行くから。帰るなら今のうちですよ』と。大変でしたけど、みんな、最後まで残ってくれました」

 最新作『マジック・ランタン』(2018)はアメリカ・ロサンゼルスで撮影を行っている。どこへ行ってもまず大事にしているのが「信用を築くこと」だという。

 「実は日本が一番それが難しい。日本人は心を開いてくれるまでが時間がかかって、一度開くと、全幅の信頼を寄せてくれるんですけどね」

 そしてどこへ行くにも持ち歩いているのが、好きな映画のDVDとDVDプレイヤー。このインタビューの時にも、黒いビニール袋の中にDVDが10枚ほど入っていた。

 「日本には300枚くらい持って来たかな。溝口(健二)さんの作品は全部。それから清水宏さん、黒澤(明)さん、小津(安二郎)さん、(アンドレイ・)タルコフスキー、ジョン・フォード。いつも何か持ち歩いてますね。寝る時には、枕元にDVDプレイヤーを2台セットして朝まで映像を流しながら寝ています。映画が僕を守ってくれるんです。映画にはすごい力があるんですよ」

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 ナデリ監督の映画好きと日本映画へのリスペクトは広く知られるところだが、ここまでとは驚きだ。ただもしかしたら、母国を離れ、家族ともなかなか会えないナデリ監督にとって、名作が最も信頼できるものであり、裏切らない存在なのかもしれない。

 ちなみにいまだに変えられないイランの習慣などがあるか? と尋ねると、脚本を書くときはまずペルシャ語で考えて執筆することだという。そしてもう一つ、「人を好きになること」という答えが返って来た。

 「人が好きだし、年配者を尊敬するし、謙遜する心を忘れない。これだけはイラン人的な考えなので、一生忘れないと思います」

 3月24日は広島・横川シネマ、4月13日は長野・上田映劇にて舞台あいさつを行う予定。(取材・文:中山治美)

『山〈モンテ〉』は全国順次公開中

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