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新鋭・三澤拓哉監督、自ら道を切り拓く姿勢は大阪アジアン映画祭でも発揮

『ある殺人、落ち葉のころに』のワンシーン
『ある殺人、落ち葉のころに』のワンシーン - (C) Wong Fei Pang & Takuya Misawa

 『3泊4日、5時の鐘』(2014)で脚本・監督デビューした三澤拓哉監督が、長編2作目となる『ある殺人、落葉のころに』で、第15回大阪アジアン映画祭のJAPAN CUTS Awardを受賞した。同賞はインディ・フォーラム部門の日本映画を対象に、米国ニューヨーク市のジャパン・ソサエティー(日本映画祭「ジャパン・カッツ!」の主催団体)がエキサイティングかつ独創性にあふれると評価した作品に授与するもので、日本での劇場公開に向けて大きな弾みとなりそうだ。

 同作は神奈川・大磯を舞台に、土木建築会社で働く幼馴染み4人が主人公。一見、友好的な関係に見える彼らだが、リーダー格は父親が土木建築会社の社長である和也であり、父親は町の影の権力者でもあった。微妙なバランスで成立していた4人の関係が、彼らをつなぎ止めていた恩師の死をきっかけに崩れていく。山下敦弘監督の傑作『松ヶ根乱射事件』(2006)を彷彿とさせる、地方ならではの濃密な人間関係が生み出す愛憎劇をシニカルに描いている。

 茅ヶ崎周辺(寒川)出身の三澤監督は「大磯は伊藤博文や吉田茂ら歴代首相の別荘地として知られますが、(経済格差や若者の就職難など)日本社会の縮図的なことがここにも起こっている。自分自身を振り返っても、主人公たちのように男同志の関係の中で彼女を見下す発言をするなど、昨今の#MeToo運動にも通じる女性軽視があるのではないか。映画を作りながら自分を見つめ直して反省し、次への一歩となれば。そんな思いで制作しました」と言う。

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三澤拓哉
三澤拓哉監督(撮影:中山治美)

 映画祭がきっかけで生まれ、育まれた作品だ。三澤監督と共に共同プロデューサーを務めるのは香港映画『十年』(2015)の監督の一人であるウォン・フェイパン。2人は韓国・釜山国際映画祭が行っている若手映像作家人材育成プロジェクト「アジア・フィルム・アカデミー」で2015年に出会った。意気投合し、一緒に映画を作ろうと本企画をスタート。撮影は日本だが、スタッフは日本・香港の混成チームだった。彼らの存在は、三澤監督に多大なる刺激を与えたようだ。

 中でもウォンから繰り返しアドバイスされたのが「肝心な物語を見失わないように」。撮影前には登場人物の相関図を作成し、脚本上で関係性が築けている箇所を矢印で表記。ウォンと撮影のティムリウ・リウと共にその図を見ながら「この2人は関係性が構築できてないのではないか?」と指摘されると、三澤監督が脚本を加筆・修正する作業を繰り返し、物語を練り上げていったと言う。

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 三澤監督は「脚本を執筆する時に相関図を書くことはありますが、スタッフ皆で共有するのは初めての経験で新鮮でした。脚本も整理されていきますし、演出も明確になっていったと思います。何より皆で共通認識を持つことができたと思います」とその効果を語る。

 編集作業は、大手スタジオでのポストプロダクション(仕上げ作業)が行える助成プログラムを実施している映画祭を狙った。自主制作で予算が限られていることもあったが、「この作品はパソコン上での編集ではなく、スタジオできちんと仕上げたかった」(三澤監督)と言う。最初に応募したのはフランスのベルフォール国際映画祭が行っている「Films en cours」。最終選考の5本に残ったのだが、あえなく落選した。しかし最終面接でのアドバイスが役立ったと言う。

 「主人公4人の顔の区別がつきにくいという指摘もあったのですが、そもそものこちらの意図が全く伝わっていなかった。正直、『そこからかよ!』と(苦笑)。でもそこで頂いた課題を編集や追加撮影をして反映したものを、同じようにポスプロ助成を行っている釜山国際映画祭のアジアン・シネマ・ファンドに応募し、無事に助成を受けることができた。時間はかかったけれど、ベルフォールでの過程がなければ釜山国際映画祭にはつながらなかったと思います」(三澤監督)

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 完成した本作は、2019年の釜山国際映画祭でワールドプレミア上映された。この自分で動き、自分で道を切り拓くという三澤監督の姿勢は、今回の大阪アジアン映画祭でも発揮された。新型コロナウイルス感染拡大予防で舞台あいさつは中止となったが、上映後、出演俳優たちと一緒にインスタライブ機能を使ってトークライブを自主的に開催したのだ。日本での劇場公開は未定だが、また独自の方法で実現させてしまうに違いない。(取材・文:中山治美)

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