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95年の歴史を誇る兵庫・豊岡劇場8月末で休館、継続の道を模索

1927年(昭和2年)建築の外観はそのままに、内部をリノベーションした豊岡劇場。1階にはハンバーグ専門店「ビアドリッド」がある。(撮影:中山治美)
1927年(昭和2年)建築の外観はそのままに、内部をリノベーションした豊岡劇場。1階にはハンバーグ専門店「ビアドリッド」がある。(撮影:中山治美)

 兵庫・但馬地方唯一の映画館・豊岡劇場が8月末をもって休館することとなった。コロナ禍による経営悪化を鑑みてミニシアターを救済しようとクラウドファンディング「ミニシアター・エイド基金」などの動きもあったが、パンデミックが長期戦となったことでアップリンク渋谷、岩波ホールと閉館が相次いでいる。多様な文化を育んできた場所がこのまま失われていってもいいのだろうか? 関係者の試行錯誤は続いている。

 3月下旬の休日に豊岡劇場を訪れると、ロビーは多くの観客でにぎわっていた。大ホールは濱口竜介監督『ドライブ・マイ・カー』、小ホールは松本潤主演『99.9-刑事専門弁護士- THE MOVIE』の話題作を上映中。観客の対応に追われるスタッフを見て、休館が決まったことが一層悔やまれた。しかし同館の石橋秀彦代表は「アカデミー賞効果と、ニュースで休館を知って来て下さったのかも。平日の動員は厳しいものがあります」と言う。

劇場ロビー
『ドライブ・マイ・カー』の上映でにぎわう劇場ロビー。(撮影:中山治美)

 豊岡劇場は1927年(昭和2年)に芝居小屋として開業した、95年の歴史を誇る劇場である。しかし映画がフィルム上映からデジタルへと切り替わるタイミングで、新機材導入費用を減少傾向の観客動員では回収できないと判断し、2012年3月31日に閉館。その劇場をリノベーションし、再び地域に文化の拠点を作り上げたいと2014年12月に再オープンさせたのが、地元で事業を営む石橋代表だった。

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大ホール
148席の大ホール。(撮影:中山治美)

 “豊劇新生プロジェクト”と銘打って活動の指針としたのは、劇場が映画の上映だけでなく、地域コミュニティーの場及び国内外のクリエーターが交流と制作を行える拠点としての役割だ。昭和レトロな劇場のロビーを解放してWiFiを完備し、交流やワーキングスペースとしても使用可能に。1階に併設したハンバーグ専門店は評判となり、大阪に支店も出した。劇場の防寒対策として苦肉の策で設置した「こたつ席」は、いまや冬の風物詩。配信では得られぬ体験がここにはある。

こたつ席
豊劇冬の名物・こたつ席。こたつに入って『スパイダーマン』や『007』シリーズを鑑賞できるのは世界でここだけ!(撮影:中山治美)

 年数を重ねるごとに映画会社からの信頼も得て、スティーヴン・スピルバーグ監督の『ウエスト・サイド・ストーリー』のような大作も、都心の映画館と変わらぬタイミングで上映している。同劇場の存在は但馬地方だけでなく映画館の少ない山陰地方の映画ファンの心のよりどころとなり、鳥取など遠方からの来館者もいる。さらに2020年には劇作家・演出家の平田オリザ氏率いる劇団青年団が拠点を豊岡に移し、大規模な演劇祭も開催されるようになり、文化の街として注目されはじめたばかりだ。

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平田オリザ、石橋秀彦、田名部真理
劇作家・演出家の平田オリザ(写真右端)に呼ばれ、ラジオ関西「平田オリザの舞台は但馬」に緊急出演した豊岡劇場の石橋秀彦代表(写真中央)と番組パーソナリティーの田名部真理。(撮影:中山治美)

 石橋代表は「会社(石橋設計)は不動産、飲食業、劇場経営の3つの事業を行っているが、劇場経営は毎年多額の赤字が続き、一民間企業が経営するには厳しい状態が続いていました。そこにコロナ禍が到来し、客足はこれまでの半分に。配信事業も始めましたが、思うような数字には表れませんでした。このままでは会社存続の危機に。民間企業なので、劇場経営を断念するという一つの決断をさせていただきました」と苦渋の決断だったことを明かした。

江原湖畔劇場
劇団「青年団」(平田オリザ主宰)の新たな拠点・江原湖畔劇場は、旧豊岡市商工会館をリノベーションした。(撮影:中山治美)

 休館のニュースは地元に衝撃を与え、3月21日には平田氏がパーソナリティーを務めるラジオ関西の番組「平田オリザの舞台は但馬」に石橋代表が緊急出演(3月24日放送)し、事の経緯について“事情聴取”を受けた。平田氏はもちろん、豊岡に移住した劇団員にとっても街に映画館があり、文化に触れる機会があることを非常に喜んでいたのだという。

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王様席
昔の映画館にはよくあった立見席スペースには、今、通称“王様席”があり、セレブ気分で鑑賞も可能。(撮影:中山治美)

 演劇界もコロナ禍で大打撃を受けているだけに、平田氏も今、文化活動を続けていくことの難しさに理解を示しつつ「地方では民間単独で劇場を運営していくのは難しい。だからと言って官がやると制約も出てくる。うまく公的資金を入れながら、民間の自由さを楽しむのが大きな課題だと思います。映画館があるというのは、その街の文化度を表すバロメーター。今回は再生のための休業だと思っています」とエールを送った。

豊劇ロビー
豊劇ロビーには昔のフィルム倉庫や上映機材、ポスターなどが展示されており、映画館まるごと映画ミュージアムのよう。(撮影:中山治美)

 現在、石橋代表は経営母体を引き継いでくれる個人・団体と話し合いを続け、継続の道を模索している。石橋代表は「土地と建物の権利は石橋設計が持っているので、経営は次の方に任せ、劇場を見守っていく形になります。なんとか地元の方が喜んでくれるような仕組みを作っていけたら」と語った。

 豊岡劇場はあと5年で100周年を迎える。これはもう立派な文化遺産である。(取材・文:中山治美)

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