福山雅治とガリレオ先生の15年 劇場版で「愛」を巡って変化
天才物理学者のガリレオ先生こと湯川学が、『沈黙のパレード』(9月16日公開)で9年ぶりにスクリーンに帰ってくる。湯川を演じるのは、シンガーソングライターとして確固たるキャリアを築きながら、俳優としても国内外の名匠たちとタッグを組み、常に進化し続けている福山雅治。2007年放送の月9ドラマ「ガリレオ」(第1シーズン)以来の付き合いとなるキャラクターは、この15年間でどう変わったのか。「純粋に自分が好きだと思える作品と、人生の中の長い期間を過ごせているのは、とてもラッキーでありがたいこと」だという福山が、自身の感じる主人公・湯川の内面の変化について明かした。
原作は、東野圭吾の累計1,500万部を超える人気小説「ガリレオ」シリーズ9弾の「沈黙のパレード」。物語は、町中の人々に愛されていた女子学生が、行方不明になってから数年後、遺体となって発見されるところから幕を開ける。容疑者は、かつて別の少女殺害事件で完全黙秘を貫き、無罪となった男。だが、今回も男は同様に完全黙秘を遂行し、釈放されてしまう。町全体を憎悪の空気が覆う中、夏祭りのパレード当日に男は死亡。物理学者・湯川学が、警視庁捜査一課の刑事・内海薫(柴咲コウ)や、湯川の親友でもある刑事・草薙俊平(北村一輝)から相談を受け、“沈黙”に隠された難事件に挑む。
「ガリレオ」シリーズの劇場版は、これまでに第1作『容疑者xの献身』(2008)が興行収入49.2億円、第2作『真夏の方程式』(2013)が33.1億円のヒットを記録。『沈黙のパレード』は3作目となる。冒頭、湯川と内海との会話で、帝都大学の准教授だった湯川が、このたび教授に昇進したことがさらりと語られる。昇進の詳しい経緯については描かれていないが、実は『真夏の方程式』の公開後、福山は原作者の東野に会った際に「湯川先生はいつになったら教授になるんですかね」と尋ねたことがあったという。「『これだけ天才と言われている人が、ずっと准教授のままというのも不思議な気がするので、教授になっていただいた方が自然だと思っています』というリクエストをさせていただきました」と笑いながら振り返る。
『真夏の方程式』以来、9年ぶりに湯川を演じるにあたって、福山が「まず一番大事にしたい」と気を引き締めたのは、撮影の前に行われる衣装合わせだ。「衣装合わせには、ほぼオールスタッフが揃うんです。衣装を着て、スタッフさん達の前に登場したときに、全員に『あぁ、湯川先生だな』と感じてもらえるかどうか。待ってました湯川先生! みたいな空気感にしなきゃいけないなと思っていました」。そのための準備として、福山は「衣装合わせに先がけて、スタイリストさんやヘアメイクさんと一緒に何度もテストをしました」と話す。どこか時を超越したような湯川の若々しい雰囲気を体現する、福山の役に向き合うストイックな姿勢がさすがだ。
変わらぬ湯川の魅力を意識する一方で、同じ役を長く演じ続けてきたからこそ、「カメラには映らない湯川の内側の変化も感じている」という。劇場版第1作『容疑者xの献身』の冒頭には、その変化を鮮やかに際立たせるシーンがある。
「柴咲コウさん演じる内海と湯川が“愛”について語るんです。愛とは、数式では解けない、科学では証明できないもの。だから湯川は、そういう曖昧なものを信じるとか、大事にするというのはどうなのだ? というような持論を展開するんですね。全否定はしないまでも、愛がすべて、というタイプの人間ではまったくない。それが、あの作品では、湯川が天才と認める人物が、愛という感情によって、その才能を完全犯罪に使ってしまう。そこに狼狽するわけです」。愛によって、人間はそこまでのことをしてしまうのか、という湯川の驚きと深い傷は、劇場版第2作の『真夏の方程式』でも続いていく。
「『真夏の方程式』で描かれる事件も、やはり湯川が宿泊していた民宿を経営する一家の家族愛によって起こったもので。人を愛するがゆえに、大切に思うがゆえに犯してしまった過ちですよね。そして『沈黙のパレード』も“愛ゆえに”がキーワードになっている。湯川としては、やはり『容疑者xの献身』の事件が忘れられず、ああいう真実の追求の仕方で良かったのか、という自責の念をずっと抱えていたと思うんです」。謎を解いて真実にたどり着いた結果、「誰も幸せにならない」ことを、すでに湯川は重々知っている。
本作で、事件解決に近づいた終盤、湯川と草薙が対峙する迫真のシーンは原作では描かれていない映画ならではの見どころだ。「関係者みなの傷が最も少なくてすむ“ストーリー”で捜査を終えようとする草薙を、湯川は“それでいいのか、草薙?”と揺さぶる。あれは草薙に向けているのと同時に、湯川自身にも問いかけている」と福山は考察する。「湯川さんはもともと情に厚い人ではあると思うんですが、数々の事件を通して、愛情や友情、人が人を想い、想われるということ、愛と真実の難しさについて、より深く考えるようになったのかなと感じています。それが湯川さんの変化なのかなと」
湯川は常に冷静でマイペース。少々偏屈な性格もおかしくて憎めないキャラクターだが、共演の柴咲には「細かいところが似ている」と言われた、と福山は苦笑する。「僕は自分のことを細かいと思っていないので。もちろん、モノづくりにおいても、生活においても、微に入り細に入り、いろんなことを気にはしますけれども、それはその場を快適な状態にするためにそうしているだけであって。細かいのではなく、気になるか、気にならないかの違いなので……」と、淡々とした調子で語る様子はまさに湯川のキャラと重なって見える。
「東野先生も『プライベートで会っているときの感じも含め普段から福山さんをイメージして書いているので、どうしても福山さんそのものになっていくんですよね』と言ってくださっていて。だとするなら、僕が自覚していない部分もふくめ、そう見えているんだなと」と福山。インスパイアと相互作用によって、役者の素顔もキャラクター造形に影響を与え、作品がより立体的になっていく面白さ。「それはもう本当に幸せなことで。東野先生には、できればこれからも『ガリレオ』シリーズを書いていただきたい。准教授から教授になったので、次は何でしょうね。湯川先生のさらなる未来の姿も見てみたいです」と、期待と意欲をのぞかせた。(取材・文:石塚圭子)