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「べらぼう」源内巡る涙のシーンの裏側 肝は渡辺謙の受けと攻めの演じ分け

第16回より獄中の平賀源内(安田顕)と、秘密裏に会いにやってきた田沼意次(渡辺謙)
第16回より獄中の平賀源内(安田顕)と、秘密裏に会いにやってきた田沼意次(渡辺謙) - (C)NHK

 横浜流星主演の大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」(毎週日曜NHK総合よる8時~ほか)で主人公・蔦屋重三郎(横浜流星)の進む道に独特の叱咤激励で光を与え続けた平賀源内(安田顕)。視聴者に強い感情をもたらした第16回の裏側を、チーフ演出の大原拓が語った(※ネタバレあり。第16回の詳細に触れています)。

【画像】平賀源内(安田顕)の哀しい最期

平賀源内は「とにかく早口で適当に」

 本作は、江戸時代中期、貸本屋から身を興して書籍の編集・出版業を開始し、のちに江戸のメディア王として時代の寵児となった蔦屋重三郎の立身出世を描いた物語。脚本を大河ドラマ「おんな城主 直虎」、ドラマ10「大奥」(NHK)シリーズなどの森下佳子、語りを綾瀬はるかが務める。

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~以下、16回のネタバレを含みます~

 第16回「さらば源内、見立は蓬莱(ほうらい)」では、源内が静かなる最期を遂げた。安田が演じた源内は、本草家、戯作者、鉱山開発者、発明家……などさまざまな顔を持つ偉人であり、山師的な側面もある。物語序盤、自身の身の上を明かさずに蔦重と出会うと、“吉原”にがんじがらめになっている蔦重を明るい方向へ導く重要な役割を担っていた。

 大原ディレクターは、そんな源内を演じた安田に対して「とにかく早口で、そして適当であってください」というオーダーのみを伝えたという。その理由について「早口というのは、天才的な要素を表す表現、さらに物語全体のテンポを変える意味も含んでいます。また“適当に”というのは、いい加減でもあり“適している”“当たっている”という両面を持つ人物であるということ」と説明する。ある意味で大枠だけを投げ、それを安田なりに解釈し「べらぼう」の源内像が出来上がっていったという。「とにかく安田さんに、自由に源内というものを演じてほしかった。いつも現場でその面白さに驚かされていました」

獄中での源内と意次の圧倒的なシーン

 もともと“失敗しても当たり前”のような山師的なところがある源内。しかし、心血を注いだエレキテルの不評、さらには心から慕っていた田沼意次(渡辺謙)との不和から心が乱れてしまい、ついには殺人の容疑で投獄されてしまう。

 雪がちらつくような極寒の牢獄で、命の灯も消えようというほど追い詰められた源内の元にやってきた意次。柵越しに指を絡めるように接する源内と意次の、言葉では言い表せないような場面は、息を止めてしまうぐらい緊迫感に包まれていながら、非常にエモーショナルなシーンだった。

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 大原ディレクターは「台本のト書きには“触れる”と書いてあるのですが、どう触れるのかというのは書いていない。文字では牢屋の柵がどれほどの太さかもわからないし、牢の扉を開けて触れ合うのかどうか……というのも決まってはいなかったんです。僕としては、牢の扉は開けたくなかった。そこは伝えたのですが、あとは源内が意次をどう思っていたのか、また意次がいまの源内をどう捉えているのか。そこはお二人に任せるしかなかった」と安田、渡辺を信頼して託したという。

 その中で大原ディレクターが安田と話したことが「意次と話し、触れたことによって、これまで壊れかけていた源内が、再びこれまでの源内に戻るということ」だったと明かすと「源内の生きる目標は、意次の信頼であり『意次のために』ということ。その崩れかけていたものが、あそこで意次と触れ合うことで元に戻るんです」とシーンの意図を解説する。さらに「あの場面は、渡辺さんが仕掛けて、安田さんはなすがままという構図で進んでいきました」とも語った。

 その後、源内は牢獄のなかで、自らの指と指を絡ませながら「辞世の句」を読み、白湯の湯気が立ちゆく煙が映されるなかシーンは終わる。

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 大原ディレクターは「あのときの源内は、意次と再会してから1か月ぐらい経っているという裏設定がありました」と秘話を明かすと「あのシーンは台本にも書かれているのですが、意次と会って触れ合ったことが、源内の中でもとても大切なことだったという意味があります。そして白湯に関しては、あれに毒が入っていたのか、毒入りじゃなかったのかというのは分からないという設定です。温もりなのか、果たして違うのか……という意味合いがあります」と解釈を述べる。

受け攻め、渡辺謙の凄さ

 源内を救いたい一心で、蔦重や須原屋市兵衛(里見浩太朗)が意次の元を訪れるなか、源内が獄死したことが伝えられるが、その際、蔦重が意次を「忘八が!」となじるシーンがある。「とても大事にしていたシーンです」と大原ディレクターは明かすと「政権のトップの近くにいる権力者に、暴言を吐くなんて本来だったら絶対あり得ない。でもそうなってしまうぐらい蔦重は源内のことを思っているし、意次だからこそ言えたという部分もある。すべてが合致したからこそ、流星さんもあそこまで感情を持っていけたんだと思います」と語る。

 横浜の演技について「流星さんって、台本に書かれていない部分をしっかりと考えて埋めてくれる。だからこそ、あそこまで持っていくストロークにも無理がない。そこが横浜流星たるゆえんだなと思うんです。流星さんの魅力が出たシーンだと思います」と称賛する。

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 さらに大原ディレクターは「安田さんとのシーンでは(渡辺)謙さんが主導で安田さんを導き、流星さんとのシーンでは、しっかりと受けてくれた。だからこそ、流星さんもあそこまで感情をぶつけられた」とシーンや相手との関係によって変幻自在に芝居を変えられる渡辺の凄さに言及していた。

源内の骸を描かなかった理由

 第14回「蔦重瀬川夫婦道中」での瀬川(小芝風花)との別れ、そして第16回の源内と、蔦重にとって大切な人との別れが続いた。源内に思いを馳せ、涙する蔦重に感情移入する視聴者は多いだろう。それでも蔦重は「源内の本を出し続けること」で源内の意志を世に示そうと前を向く。

 大原ディレクターは「あそこのシーンが好きなんです」と笑顔を見せると「流星さんは内に入るお芝居がすごくお上手なんです。蔦重というのは、発散していく陽の部分が目立ちますが、あのシーンはこれまでの蔦重じゃない部分が表現されていたと思います」と絶賛する。

 さらに「蔦重は源内の死を受け止め切れない。でも須原屋さんが包み込んでくれることによって、もう一度自分なりに進まなければいけないとギアを上げる。このシーンはカット割りを含めて何回かトライしているのですが、撮影前から“ここは号泣になるよね”という話をしていたんです」と裏話を明かしていた。

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 また、源内の骸が映像として表現されなかったことについては「想像を膨らませてほしかった」と述べ、「史実でもいろいろな説があるので、何が正解なのかは分かりません。白湯の捉え方でも物語の膨らみ方が変わってくる」と説明。

 そのことで蔦重たちも「骸がないのだから、本当に死んでいるのか、いないのか分からない。それこそ生きていてほしい……という思いが、今後のよりどころになる。書としてずっと生き続けてもらうという思いに、さらに大きな希望が持てると思うんです」と、第16回は大切な人を亡くした回でもあり、次に進むための大きなきっかけになる物語であることを強調していた。(取材・文:磯部正和)

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