Netflixで首位独走!『新幹線大爆破』リブート版、何が面白い?

Netflixで配信中の樋口真嗣監督、草なぎ剛(なぎ=弓へんに剪)主演の映画『新幹線大爆破』が大ヒット中だ。配信開始以来、国内の「今日の映画TOP10」では首位を快走し、「週間グローバルTOP10」においても3週連続でTOP10入り(非英語映画※5月11日時点)している。あらためて本作の魅力について考えてみたい。(文:大山くまお)
時速100キロを下回ると爆発する「はやぶさ60号」

原作は1975年に公開された佐藤純彌監督、高倉健主演の東映映画『新幹線大爆破』。速度を落とすと爆弾が爆発するというアイデアが、キアヌ・リーヴス主演の映画『スピード』(1994)に影響を与えたのではないかとも言われている(諸説あり)パニック映画の傑作だ。本作はリブート作品ということになる。
ストーリーに一部つながりがあるため続編とも言えるが、何よりも樋口監督は原作映画に深い愛情を持っており、本作でもさまざまなオマージュを捧げている。原作映画を観た上で本作を観れば楽しみは増すだろう。
ストーリーは爆弾の部分のみ原作映画を踏襲している。乗客乗員349名を乗せた新青森発、東京行きの「はやぶさ60号」に時速100キロを下回ると即座に爆発する爆弾が仕掛けられ、犯人からは爆弾解除料金として1,000億円が要求された。車掌の高市(草なぎ)、運転士の松本(のん)、総合指令所の総括指令長・笠置(斎藤工)らは一致団結して危機を回避しようとする。
アナログとデジタルを組み合わせたスペクタクル
本作の最大の見どころは、特撮監督出身の樋口監督によるリアリティーに満ちたスペクタクルシーンだ。
JR東日本の特別協力により、実際に新幹線を特別ダイヤで上野・新青森間を7往復走らせて撮影を敢行。あらゆるアングルで車両を撮影しているが、冒頭の車両をローアングルで映し出したシークエンスはその最たるもの。また、本物の新幹線と同じ素材を使って車両を再現したため、リアリティーに満ちた車両内部の撮影が可能になった。
新幹線が併走するシーン、車両爆破のシーンなどは、いずれも迫力満点。「どうすれば本物に見えるか」という樋口監督のこだわりが徹底的に貫かれており、爆破シーンは6分の1スケールという破格の大きさのミニチュアを製作して実際に爆破している。新幹線が併走するシーンもミニチュアを撮影してCG加工したものだ。当然、CGのみのシーンもある。これまで培ってきたアナログと最新のデジタルを巧みに組み合わせた特撮技術で、樋口監督は自らの「欲しい画」を次々と実現させた。
鉄道人たちのプロフェッショナリズム

メインキャストの熱演が光るが、わかりやすい「熱演」ではないのが面白い。車掌の高市、総括指令長の笠置、運転士の松本、いずれもパニック映画で見られがちな激しい感情の昂りを見せることはほとんどない。常に冷静沈着に行動し、事態の収拾に全力を尽くす。
彼らは極めて優秀な鉄道人だが、超人的な能力を発揮するわけではないし、独断によるスタンドプレーを行うこともない。常に各部署と連携してチームワークで異常事態に対処していく。それぞれ自分の仕事に思い入れはあるが、声高に語ることもない。そんなクールな仕事ぶりが心地良い。

現場を指揮する統括本部長の吉村(大場泰正)、運輸車両部マネージャーの山本(西野恵未)、アテンダントの二宮(大原優乃)らも同様である。便乗車掌の藤井(細田佳央太)も、未熟ながら懸命に職務を果たそうとしていた。名もなき現場の作業員たちの頑張りも描かれている。その一方、原作映画に登場していた鉄道会社や警察の上層部は姿を見せない。あくまで現場の映画なのだ。
「運行に関わっている人たちが働くかっこいい姿を見てほしい、そんな気持ちになりました」と樋口監督はシネマトゥデイのインタビューで語っている。原作映画が犯人側と鉄道・警察側の息詰まる攻防を描いた作品だとすると、本作は現場の鉄道人たちのプロフェッショナリズムを描いた作品だと言えるだろう。
原作映画との違い

原作映画は、高度経済成長を遂げていた社会からこぼれ落ちた者たちが、国の繁栄の象徴である新幹線を狙う物語だった。一方、今回は犯人の正体や背景は描かれるものの、重大な事件・事故が起こったとき、現場の乗務員や総括指令長たちが、どのように対応するかにより重点が置かれている。
樋口監督と『シン・ゴジラ』でもタッグを組んだエグゼクティブ・プロデューサーの佐藤善宏は、JR東日本の協力を得る中で、東日本大震災の災害対応を行った職員にも話を聞きつつ、実際にこのような事件が起きたらどのように対処するのかヒアリングを行った。脚本の中川和博は、さまざまな災害を念頭に起きつつ、人命をどうやって守るかという姿勢に力を入れており、多くの人を助けるためには1人を犠牲にできるのかを問う思考実験「トロッコ問題」を本作の中でやりたかったと「映画秘宝」のインタビュー(2025年6月号)で語っている。
「お客様を安全に目的地までお届けすること。それが俺たちがここにいる意味だ」
作中で語られる高市の言葉にあるように、新幹線の乗務員や現場のスタッフたちは、犯人にどのような思惑があろうと、どのような障害があろうと、懸命に職務を遂行して乗客を守ろうとする。彼らは誰であろうとも、決して最後まで犠牲にしようとしない。だから『新幹線大爆破』はスリリングで面白く、心に響く作品になったのだろう。