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井浦新、『ピンポン』から『岸辺露伴』まで漫画原作との向き合い方

井浦新
井浦新 - 写真:尾鷲陽介

 荒木飛呂彦の人気コミック「ジョジョの奇妙な冒険」のスピンオフ「岸辺露伴は動かない」を高橋一生主演で実写化する映画の第2弾『岸辺露伴は動かない 懺悔室』(公開中)で、シリーズ初出演となる井浦新。ベネチアを舞台にした本作で、井浦は主人公の漫画家・岸辺露伴(高橋)と対峙するキーパーソンを演じている。かねてから荒木飛呂彦、そして「岸辺露伴」実写シリーズの大ファンだという井浦が本作の裏側、漫画の実写化に対する賛否の受け止め方、そして自身のブレイクするきっかけとなった映画『ピンポン』(2002)の影響までを語った。

【動画】井浦新インタビューの様子

 近年も『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』『東京カウボーイ』『徒花 -ADABANA-』(いずれも2024)など主演映画が立て続けに公開され、大河ドラマ「光る君へ」「アンメット ある脳外科医の日記」(いずれも2024)などのテレビドラマもあり、多忙を極める井浦。そんな井浦が俳優としてブレイクするきっかけとなったのが、松本大洋の漫画を実写化した映画『ピンポン』。興行収入14億円(日本映画製作者連盟調べ)の大ヒットを記録した同作は公開から20年以上を経ても根強い人気を誇り、昨年12月よりリバイバル上映。井浦が窪塚洋介中村獅童らと共に舞台挨拶に登壇した回は即売り切れとなった。井浦は笑わないことから“スマイル”のあだ名で呼ばれる卓球部の高校生・月本誠がはまり役となり爆発的な人気を博したが、井浦は当時をこう振り返る。

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 「『ピンポン』は原作も大好きでした。撮影期間も本当に幸せで、仲間がたくさんできました。同世代の俳優さんたちとあんなにたくさん出会ったのは、俳優の仕事を始めて初めてだったと思います。あれだけ盛大にグッズができて、映画館がどんどん増えていって。メディアでもたくさん取り上げていただき、ありがたいと思うのと同時に、いろんなことが僕にとって初めてづくしだったので正直戸惑ってしまうところもありました」

 当時、世の熱狂に気持ちが追い付かなくなった井浦は、俳優業と距離を置く選択をした。そうした経験もまた現在の血肉になっているという。

 「当時はまだ俳優として意識が備わってない状態でした。スマイルのことが大好きですし、映画って夢があるんだなと実感もしていたのですが、いろんなメディアに出て作品を宣伝することも俳優の仕事だと全くわかっていなくて。ちょっと疲れてしまって、このままだときっと呼吸できなくなると思ったので、俳優の仕事と距離を置いた時期がありました。そうしたことにも気づかせてくれた作品なので、いろんな意味で『ピンポン』は僕にとって宝物です。あの作品でたくさんの方たちに知っていただけましたし、今も“『ピンポン』を観て卓球部に入りました”“『ピンポン』を観て俳優をやりたい、映画を作りたいと思いました”と言ってくださる方たちと出会うんです。ですから、本当の意味での作品の価値というのは、皆さんに届いてから生まれるものなんだということも教えてもらった気がします」

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 なお、漫画の実写化については原作の人気があればあるほど賛否あるのが常だ。そうした声をどう受け止めているのか。

 「どっちに転んでも僕は楽しめるタイプだと思います。叩かれたらガクンってなるはなるだろうけど。でも、どうでしょうね……せっかく思いを込めて成し遂げた一つの仕事が何も言われずにスルーされることが一番つらいので、批判であったとしても、観てくださる方に何らかのかたちで引っかかって評価をしていただけるのはありがたいことなんじゃないかと思います」

『岸辺露伴は動かない 懺悔室』より井浦新演じる田宮 (C) 2025「岸辺露伴は動かない 懺悔室」製作委員会 (C) LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社

 実写「岸辺露伴」シリーズは、連続ドラマが2020年から2024年にかけて全4期、計9エピソード放送。2023年5月にはドラマのチームが集結し、パリ・ルーヴル美術館を舞台にした映画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』が公開されるなど人気シリーズへと成長した。新作映画『懺悔室』でシリーズ初参加となる井浦は、原作への思い入れが強いゆえに当初プレッシャーもあったと話す。

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 「プレッシャーもありましたが、それが喜びに変わっていきました。2024年の11月が撮影の期間だったのですが、プレッシャーを力にして、その時にできる一番新しいことと、持てる全てをカラッカラになるまで作品に注ぎたいという思いに変換できていたように思います。そうすることで自分の敬意、愛を表したいと。ただ、目の前に一生くんが露伴として立った時に嬉しい気持ちが止まらなくてニヤニヤしちゃって(笑)。でも一生くんはブレずに緻密に露伴を演じ切っていますから、ファンとしての状態をどう切り捨てて田宮を演じるかがすごく大変でした。それは他の作品ではあまり味わえない感覚でした」

 原作となる「懺悔室」の魅力を問うと、筋金入りの荒木ファンゆえに目を輝かせて語り出す。

 「岸辺露伴は初め『ジョジョの奇妙な冒険』の第4部で登場し、のちに『岸辺露伴は動かない』としてスピンオフが始まったわけですが『懺悔室』はその1話目ですよね。ですから、きっと荒木先生の初期衝動が詰まっていると思うんです。荒木先生の主義、考え方、ストーリーの作り方。露伴の物語が動いていく1つの指針になっているのではないか。あとは実写シリーズには『ジョジョ』と違ってスタンドバトルが出てこず、人間ドラマになっている。奇妙な冒険にはなっているんですけれど、その奇妙さというのは人間の憎悪や恨み、業を具現化したものだったりする。僕が演じた田宮は人間の脆さを担うキャラクターですが、田宮の情けなさ、えげつなさが“こんなふうにはなりたくない”と反面教師になるのも嬉しいですし、もがきながら必死に生きているからこそ滑稽に見えて“なんか人間らしいな”と感じていただけたらいいなと思いながら演じていました」

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『岸辺露伴は動かない 懺悔室』より岸辺露伴(高橋一生)と田宮 (C) 2025「岸辺露伴は動かない 懺悔室」製作委員会 (C) LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社

 主演の高橋とはこれが初共演。かねてから「お会いしたかった俳優さん」というが、ベネチアで1か月間にわたって撮影を共にすることでその魅力を目の当たりにし、共演を満喫した様子。

 「いつも素敵なお芝居をされる方だなと思って観ていました。テクニックだけではなく、瞳の奥で語るお芝居とでもいいましょうか。今回、念願かなって初めてお芝居で対峙することになったわけですが、ヴェネツィアで朝支度から始まって移動、食事も共にして、芝居をして、また一緒に宿に戻って……と長い時間を共にしていると、一生くんの心の分厚さっていうものが、お芝居の厚みになっているんだなと感じました。とても好きな俳優さんであり、人としても好きです。きっと誰とでも仲良く話せるタイプではないと思うんです。いろんなことに目を配り気配りができる一方で、確固たる自分のリズムがあるから“無理なものは無理”となるときもある。そういうところを隠さないのも信頼できる。座長としての責任感で努力している部分が見え隠れするのも人間らしくてキュートです」

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 井浦演じる田宮が原作からかなり膨らんでいるところも映画の魅力であり、井浦は「荒木先生は常に苦しみの中から見えてくる喜びや生きがいを描かれていて、すべての作品が人間賛歌になっている。原作の『懺悔室』はとても悲痛な苦しい物語ですが、映画では人が絶望を受け入れたその先には何か光が見えるんじゃないかっていう小さな希望を感じられる物語になっていると思います」と自信をもってアピールした。(取材・文:編集部 石井百合子)

井浦新が語る原作への愛と敬意 映画『岸辺露伴は動かない 懺悔室』単独インタビュー » 動画の詳細
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