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映画『国宝』なぜここまでヒット?興収100億目前、邦画実写歴代にどこまで迫るか

記録的ヒット!映画『国宝』
記録的ヒット!映画『国宝』 - (C)吉田修一/朝日新聞出版(C)2025映画「国宝」製作委員会

 映画『国宝』の勢いが止まらない。6月6日に公開され、約2か月が過ぎた8月12日の時点で興行収入が95億円を突破。100億円までカウントダウンとなった。実写の日本映画の100億円突破は過去に『南極物語』(1983/110億円※2時間23分)、『踊る大捜査線 THE MOVIE』(1998/101億円※1時間59分)、『踊る大捜査線 THE MOVIE2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』(2003/173.5億円※2時間18分)の3作しかなく、さらに上映時間が最長で、これは歴史的快挙と言える。近年、興収100億円超えはアニメが“常識”となっていた日本の映画興行で、なぜ『国宝』が人々を惹きつけ、ここまでの記録に至ったのか、改めて考えてみたい(※興行収入記録はすべて興行通信社調べ)。

【画像】『国宝』吉沢亮・横浜流星・渡辺謙・田中泯、圧巻の歌舞伎シーン<16枚>

 映画『国宝』は、極道の息子として生まれながらも歌舞伎の世界に飛び込み、芸の道に人生を捧げる喜久雄の50年を追うストーリー。稀代の女形となる主人公・喜久雄を吉沢亮、喜久雄のライバルとなる御曹司の俊介を横浜流星が演じている。

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 もともと『国宝』は、公開前から大きな期待が寄せられていた。ベストセラー作家の吉田修一が、実際に歌舞伎の黒衣(くろこ)として3年間かけて舞台裏を経験。そこから生まれた原作を、『フラガール』(2006)、『悪人』(2010)など妥協を許さない演出・撮影で知られる李相日監督が映画化。さらに吉沢亮、横浜流星という国民的人気俳優が女形を演じるにあたり、1年半もの時間をかけて歌舞伎の芸を習得……と、まったく“スキ”のない要素から、映画として傑作になることは予想されていた。ただし傑作が特大ヒットに結びつくとは限らないのも映画興行の宿命。そこをクリアしたからこそ、『国宝』のヒットは人々の関心をさらに集めることになった。

 6月6日に公開された『国宝』は、週末ランキングでは3位に初登場。その直前(5月18日)にカンヌ国際映画祭での上映がニュースとなり、“世界が認める”評価が初動の観客動員を後押しした。そこから週ごとに動員がアップするという異例の右肩上がりの興行を見せたのは口コミ効果と思われるが、歌舞伎の世界を描くということで、ある程度、観客の年齢層が高めに想定されつつ、その世代を夢中にさせ、評判が広まり、そこから幅広い世代にも関心が高まるという、『ボヘミアン・ラプソディ』(2018)や『トップガン マーヴェリック』(2022)の成功例を踏襲した。洋画も含め、日本における実写映画の社会現象的ヒットのパターンを『国宝』が実証したと言える。

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吉沢亮、横浜流星の歌舞伎シーン

 上映時間2時間55分という長さで濃密なドラマを展開し続け、映像や演技で陶酔させる。それが『国宝』の魅力なのだが、吉田修一の長大な原作は映画化に際し、かなり削られている。主人公・喜久雄の歌舞伎役者としての人生は、時間が急に飛ぶシーンもあり、3時間以内に収める苦心が見てとれる。シーンとシーンの間に起こったことや、喜久雄が任侠の出自であることの苦悩、最後まで歌舞伎の魔力から離れられない理由など、原作により深く書き込まれている部分も多い。映画ではバッサリ削除された重要なキャラクターもいるし、三浦貴大が演じる竹野(歌舞伎の興行を手掛ける三友の社員)と喜久雄の関係や、田中泯演じる人間国宝・万菊の行く末に至る心情など、原作の細やかな描写が感動を深めるのも事実。そんな細部を確認したいという声とともに、映画公開後、原作が異例の売れ行きを記録した。そして原作を読んだ人が、もう一度劇場に足を運ぶという相乗効果も、映画のヒットに貢献する。なお、シナリオ本(映画脚本の専門誌・月刊シナリオに掲載)も同様だ。

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 もちろん原作の隅々まで表現できればいいが、映画『国宝』は、物語の軸となる喜久雄と俊介の関係にフォーカスし、時間もどんどん進むことによって、意外なほどシンプルで観やすく、誰もが素直に感動できる仕上がりになった。3時間弱で大きなカタルシスをもたらす、映画ならではの全体構成が、重厚な後味を残したと考えられる。喜久雄を取り巻く女性キャラクターの描き方が物足りないという感想も聞くが、一本の映画としての取捨選択の判断であり、その結果、男性中心の歌舞伎の世界という“伝統”を実感させることにも繋がった。

 その伝統芸能という点では、今回の映画を通して歌舞伎に興味を持つ人が増え、歌舞伎自体の観客増にもつながったと言われる。本業の歌舞伎役者が『国宝』を観て、感心するというニュースも頻出し、もともとの歌舞伎ファンにとっても『国宝』は必見の作品となる。そして普段は客席からしか観られない歌舞伎の演目を、舞台の後方や、役者の目線、あるいはクローズアップなども多用した『国宝』の映像に、歌舞伎の新たな一面を発見し、感激している人も多い。撮影監督をチュニジア出身で、フランス映画『アデル、ブルーは熱い色』(2013)などで知られるソフィアン・エル・ファニが務め、これまで「シネマ歌舞伎」など映画館で歌舞伎に親しんだ従来の歌舞伎ファン、あるいは日本映画を観慣れた人たちに、新鮮な喜びを届けることにも成功。そしてもちろん、吉沢亮、横浜流星がどこまで本物の芸を身につけたのかは、歌舞伎に詳しい人/そうでもない人の両方にとって、『国宝』の最大の見どころであり……と、こうした多くの要素で感想を分かち合いたい人が、また誰かに魅力を伝えるというサイクルが、今も続いているようだ。

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 本記事も含め、公開から2か月以上経っても、このような興収の伸びや内容考察のニュースが途切れないのも、ロングランヒットを後押ししている要因。約3時間という長さ。しかも『鬼滅の刃』新作などその後に公開された話題作によって、シネコンでの上映時間も限定され、人気の時間は今も混雑、あるいは完売となっていることで、その分、「是が非でも観たい」という欲求をさらに刺激する『国宝』。このままのペースなら100億円超えはおろか、実写の日本映画の歴代2位まで行くのは確実。1位の『踊る大捜査線 THE MOVIE2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』の173.5億円にどこまで迫るかに注目していきたい。(文:斉藤博昭)

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