「鬼滅の刃」櫻井孝宏、冨岡義勇は“努力の人” 『無限城編』で辿り着いた柱としての境地

吾峠呼世晴による人気漫画を原作とした『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』が公開となり、日本中を熱狂の渦に巻き込んでいる。主人公・竈門炭治郎ら「鬼殺隊」と鬼舞辻無惨率いる「鬼」の戦いは、最終局面に突入。水柱・冨岡義勇役の櫻井孝宏は、「ここまで来た」と本作に挑む際に感じた興奮を回想。物語のはじまりで炭治郎と義勇が共闘を果たすことに、「とても感慨深かった」と目を細める。櫻井が、炭治郎と義勇は「よく似ている」と感じる理由、そんな2人が対峙する上弦の鬼・猗窩座(あかざ)を演じる石田彰のすごみについて語った。(以下、本編の内容に触れています)
【動画インタビュー】『鬼滅の刃』櫻井孝宏が明かす冨岡義勇への思い
櫻井孝宏が目撃!猗窩座役・石田彰のすごみ
家族を鬼に殺された炭治郎が、鬼に変貌した妹・禰豆子を人間に戻すため、鬼を狩る「鬼殺隊」へ入隊し、仲間たちと共に戦う姿を描く本作。「無限城編」では、鬼の根城である「無限城」を舞台に、炭治郎たちの最終決戦の火蓋が切られる。
鬼の始祖・鬼舞辻無惨の手によって「無限城」へと落下した炭治郎は、水柱の義勇と共に、圧倒的強さを誇る上弦の参・猗窩座と壮絶な激闘を繰り広げる。鬼たちの存在も鮮やかに描かれる本シリーズだが、猗窩座も観る者を惹きつけてやまない魅力を持っている。櫻井は「石田さんがキャスティングされるということは、そういうことなのかなと」と複雑で深みのあるキャラクターだからこそ、石田に白羽の矢が立ったと想像し、「己の肉体で戦い、いまだに強さの果てを求めているようなキャラクター」と猗窩座について分析。アフレコでは、「石田さんが持っている空気感、圧力はすばらしかったですね。その空気をビリビリと感じて、炭治郎が義勇を『すごい』という目で見ているように、櫻井孝宏が石田彰を『すごい』という目で見ていました」と石田の熱演にシビれるような思いがしたと振り返る。
櫻井が感じる、石田の声優としてのすごみとはどのようなものだろうか。「引き算がすごい」と切り出した櫻井は、「我々の職業病のようなもので、いろいろなことを表現したいあまり、『こういう可能性もある』『こういうこともやりたい』『こういう思いも乗せたい』など、どうしても過剰になってしまうことがあるんですね。でも石田さんは、どんな時でもスッと引くことができる。するとこちらは、そのキャラクターをグッと追いかけたくなる。そういった引き算のお芝居が本当にすばらしい」と惚れ惚れ。
そんな石田が演じたからこそ一層、猗窩座は観客にとっても忘れ難いキャラクターとなっているはずだ。櫻井は「猗窩座の強さを求める感情が、あまりにも純粋すぎて。石田さんが作り上げた猗窩座には、美しさや儚さがある」と引き算の芝居の先に、まぶしいほどの純粋さを見たと話す。
炭治郎&義勇の共闘に感無量
炭治郎と義勇の出会いは、単行本1巻、テレビアニメ第一話にさかのぼる。義勇は、家族を鬼に殺され、禰豆子を背負って雪山を歩いていた炭治郎に道標を与えた。つまり物語のはじまりから、炭治郎の成長を見つめてきたのが義勇だと言えるが、櫻井はそんな2人がついに共闘を果たすことに感無量の面持ちを見せる。
「鬼殺隊」をまとめるお館様から、「どうしても独りで後ろを向いてしまう」と評されていた義勇について、櫻井は「錆兎との出来事があってから、義勇は自責の念に駆られていろいろなものをシャットアウトしてきた。自分のことも認められず、『俺は柱ではない』と言うような人だった」と自身と同じく鱗滝の門下生であった錆兎を失ってから、孤独に生きてきた人だと説明。「そういったことから解放されるきっかけをくれたのが、炭治郎です。解放されてからの義勇は『不死川(実弥)におはぎをあげよう』と言ったりするんですね。そういった発想は、炭治郎と近くて。コイツら、似ているなと思います」と楽しそうに笑い、「物語の冒頭で、義勇は炭治郎に手を差し伸べたわけですが、それは結果として義勇自身を救うことになった。そして炭治郎は、義勇とともに戦えるようになるまでに強くなった。そう考えるととても感慨深いです」としみじみと語る。
炭治郎と義勇は、呼吸を合わせ、連携して戦い、そして猗窩座にも立ち向かう。櫻井は、「2人はお互いへの理解を深めてきた。彼らが響き合うように戦っていけるのは、きっとその関係性があるからこそ」だと彼らの歴史に思いを馳せ、「戦いの中でも、兄弟子、弟弟子のような関係性があるからこそというものがあったと思います。そして炭治郎と一緒にいると、義勇の本音を伝えていると感じます。それくらい義勇にとって、炭治郎は特別な存在なのだと思います。長い年月をかけて、お互いに歩み寄ったがゆえの戦いができていると思いました」と彼らについて言及した。
正解やゴールのない世界で、常にもがいている
芝居というのは到達点のないもののように感じるが、唯一無二の声優として数々の代表作を生み出し続けている櫻井にとって、目指す芝居とは?
「デビューしたての頃は、お芝居というものが難しすぎて、この仕事を楽しいとは思えなくて。30歳を超えたくらいから、ようやく楽しいと思えるようになりました。そんな中、先輩方からは『お芝居というのは、やればやるほどよくわからなくなる』という話をよく聞いていました。今まさに、それを味わい始めています」と微笑んだ櫻井。「『このセリフはうまくいったな』『この作品をやれて楽しいな』という楽しさはわかりますが、『演技が面白い』という域にはまだ達していないような気もして。それこそ、石田さんの演技を見て憧れる気持ちもあれば、絶望するような気持ちを味わったりもします。もちろん好きで続けていますが、そういった気持ちを日々繰り返しているので、なかなかの仕事を選んだのかなと思っています」と正解やゴールのない世界で、常にもがいていると告白。「不死川役の関(智一)さんは、肩の力が抜けているようなところがあってとてもステキなんです。ああいうふうになれたらいいなと感じています」と語る。
櫻井は、義勇を「努力の人」だといい、そんな彼から力をもらうこともあるという。「義勇は、衝撃的な経験をしたことで『自分は柱ではない』『俺はおまえらとは違う』と線を引いてしまう。私は、それを弱さや甘えだとは思いません。しんどかった彼の気持ちも、理解できるような気がします」と共感を寄せながら、「義勇は出ずっぱりではなく、シリーズにおいて飛び石的に登場するキャラクター。作品が動いている中で、どのように身を置いていったらいいのかとチューニングをしたり、キャラクターをどのように成長させていったらいいのかと考えたり、義勇を通してたくさんのことを学んでいます」と自身にとって大切なキャラクターとなったことを明かしていた。(取材・文:成田おり枝)
『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』は全国公開中
※禰豆子の「禰」は「ネ+爾」が正式表記、鬼舞辻無惨の「辻」は点一つのしんにょうが正しい表記


