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松村北斗“奇跡”の笑顔はこうして生まれた 実写『秒速5センチメートル』オリジナルシーンの裏側

メイキングより奥山由之監督、松村北斗
メイキングより奥山由之監督、松村北斗 - (C) 2025「秒速5センチメートル」製作委員会

 2007年に公開された新海誠監督のアニメーション映画を松村北斗SixTONES)主演で実写化した映画『秒速5センチメートル』(公開中)。本作の見どころの一つは、アニメ版の第3章にあたる「秒速5センチメートル」を大幅に膨らませた点で、主人公・遠野貴樹(松村)の社会人時代が丹念に描かれている。メガホンをとった奥山由之監督が、本作で初めてタッグを組んだ松村への演出を振り返った(※一部ネタバレあり)。

【画像】美しすぎる松村北斗の撮りおろし

社会人時代の遠野貴樹(松村北斗)

 本作は、小学時代にある少女と運命的な出会いを果たした主人公・遠野貴樹の18年間を幼少期、高校生、社会人の3つの時代で描いたストーリー。貴樹の幼少期を上田悠斗、高校時代を青木柚、社会人時代を松村北斗が、明里の幼少期を白山乃愛、社会人時代を高畑充希が演じている。アニメ版では貴樹と明里の小学・中学時代を描いた「桜花抄」、2人が離れ離れになってからの高校時代を別の人物の視点から描いた「コスモナウト」、現在の貴樹が過去を回想する「秒速5センチメートル」の3章で構成。アニメ版では第3章がほぼ映像のコラージュのみで構成されているのに対し、実写版ではシステムエンジニアとして忙殺されていた貴樹が会社を辞め、今も囚われている明里への想いに決着をつけようとする心の軌跡が紐解かれる。

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~以下、映画のネタバレを含みます~

貴樹(松村北斗)と上司の窪田(岡部たかし)

 松村の演技が特に光るシーンとして、貴樹が会社を辞めたのちかつての上司・窪田(岡部たかし)の計らいにより、心に劇的な変化が訪れる瞬間を切り取ったビルの屋上のエピソードがある。これは実写オリジナルのシーンで、奥山監督によると「貴樹が世界の豊かさに“出会い直す”シーン」だという。

 「松村さんには、貴樹が忙しなく働いていた会社を辞め、かつて幼少期に触れていた世界の豊かさに出会い直すシーンだと伝えました。順撮りではなかったこともあって場面設定を正確に把握するため、松村さんとはこのシーンに限らず撮影の前には必ずそれまでに貴樹に起きた出来事や感情を復習するようにしていました。“貴樹にこういうことがあって、それはこの間撮ってこういうシーンになりましたよね”と言った風に」

 ここでは窪田が会社を辞めた貴樹を心配して仕事を紹介。人当たりのいい窪田は「かき氷のシロップの原料はどの味も全部同じ」だといううん蓄で場を和ませつつ、心を閉ざし孤立する貴樹に風穴を開けようとする。そうした窪田の想いを汲み取ったのか、貴樹は窪田が縁日で買ってきてくれたたこ焼きをほおばると、笑みがこぼれる。この柔らかな笑みは、松村から自然に生まれたものだという。

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 「たこ焼きって、食べ物としては少し遊び心があるものだと思うし、おそらく貴樹はしばらく食べてきていないはずで。久々に口にしたときの“たこ焼きってこんなに大きかったっけ、こんな味だったっけ”といった心情は脚本にもあったことです。それをきっかけに世界ってこうだったよな、と思い返し、閉ざしていた感情、感覚を取り戻していく。だけど、表情に関しては僕は具体では言わないです。なので松村さんのお芝居の力ですよね。思わずカメラでぐっと寄りたくなりますし、言葉は何もいらない。あの表情で十分だと思わせてくれる」

 同時に撮影、照明、録音、制作部など各プロフェッショナルの賜物だとも。

 「撮影の今村(圭祐)さんの力もあると思います。前後のカットを想定した上で“貴樹の心情を表すにはこのぐらいの画角で捉えることが最善の撮り方である”と瞬間的に判断される今村さんの反射神経の凄さといいますか。光も照明部さんがライティングで作ってくださったものです。風も起こしているんですけど制作部の方が風を送風機で送ったり、エキストラの方々を束ねたり。このシーンは、そうしたスタッフの連携で生まれたものです」

 なお、本シーンでは「音」が重要で、貴樹に聞こえてくる子供たちの声にはある“仕掛け”がある。

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 「貴樹が勤めていたオフィスのシーンでは、貴樹がイヤホンをつけて音を遮断していましたが、本来近くにあったはずの世界の豊かさに触れ直すシーンなので、風の音や、シャボン玉で遊ぶ子供たちの声の中に、小学時代に貴樹と明里がシャボン玉で遊んでいたときの声を混在させました。あと別のシーンになりますが、大人時代の貴樹が再び岩舟の桜の木を見上げるシーンでは、振り向いた際に鼓動の音を少し忍ばせているのですが、それは中学時代の貴樹が同じ場所で明里と抱き合った時に聞こえる心音と同じものです。言われないと気づかないぐらいのことだとは思うのですが、きっと観てくださる方の無意識に作用すると思っていて。些細なことかもしれないけれど、そうした映像演出にも注目していただけたら嬉しいです」

 明里と離れ離れになって以来人と距離を置くようになり、孤独を選んできた貴樹が忘れていた「本来の自分」を取り戻す一瞬を捉えたカットは、おそらく二度と撮れないであろう輝きに満ちている。まさに実写でしか捉えられない演者、キャラクターの息遣いが感じられる奇跡的なシーンとなっている。(取材・文:編集部 石井百合子)

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