完結編がまさかの赤字…『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』賛否のワケ

ハリソン・フォードが主演を務める映画『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』(2023)が17日、日本テレビ系「金曜ロードショー」で初放送される。シリーズ5作目にして最終章となるこの映画は、公開当時81歳の誕生日を目の前にしていたフォードがインディとして復帰することに、大きな期待が寄せられていた。実際、彼は立派に暴れ回ったのだが、評価は予想を下回ることに。果たして何がいけなかったのか?(文/猿渡由紀)
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2023年6月30日に北米公開された『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』の製作費は3億8,700万ドル(約580億円)と、今日のハリウッドの基準にしても非常に高額。パンデミック中に撮影したこと、フォードをデジタルで若返らせるために画期的なテクノロジーが使用されたこと、監督の交代や脚本の書き直しなどで製作準備にも長い時間がかかったことなど、理由は複数ある。
ここまでコストが上がってしまった段階で、黒字にするのはすでにハードルが高かった。そんなところへ、これまたお金のかかるカンヌ国際映画祭でプレミアを行うと、反応はいまひとつ。もっとも、カンヌに来る批評家、業界人と一般人では受け止め方が大きく違うというのはよくあることで、勝負は決まりではなかったのだが、残念ながら巻き返すことはなく、世界興収は3億8,300万ドル(約574億円)にとどまり、大赤字となった。
これは1981年公開の1作目『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』の3億8,900万ドル(約583億円/インフレ調整なし)をも下回る。この40年間に物価がどれほど上がったかは考えるまでもない。シリーズ最高記録をもつ2008年公開の4作目『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』の7億9,000万ドル(約1,185億円)の半分でもある。(1ドル150円計算)
批評家のレビューを集計する大手サイト「Rotten Tomatoes」によれば、好意的な批評はシリーズ最低の71%。シネマスコア社による観客感想調査の結果は「B+」『クリスタル・スカルの王国』の「B」よりはやや良かった。しかし、1981年のオリジナルは「A+」だ。それだけ観客に愛されたインディが戻ってきたのに、なぜ観客は興奮しなかったのか。その前の年には、オリジナルから36年を経て公開された『トップガン』続編映画『トップガン マーヴェリック』が、爆発的にヒットしたのにもかかわらずである。
『トップガン マーヴェリック』は、オリジナルをリアルタイムで見た中高年層のノスタルジアにアピールすると同時に、オリジナルを知らない若い層を取り込むことにも成功した。トム・クルーズ以外の主要キャラクターは若く、新しいキャラクターで、1作目を知らなくてもストーリーに入っていけたのだ。一方で『インディ・ジョーンズ』シリーズの場合、『クリスタル・スカルの王国』のウケが良くなく(前述の通り、観客調査の結果はシリーズ最低だった)、長年のファンの間でも、また続きができることに疑問の声が聞かれていた。そもそも、このシリーズは、3作目『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』で一度終わってもいるのだ。『運命のダイヤル』に「今度こそしっかりと終わらせる」というミッションがあったのは明白で、そこは感動ポイントでもあったのだが、過去作を見ていない、あるいはよく覚えていない若い層には響かない。
若い頃のインディをフォード本人に演じさせるという意気込みも、空回りしたと思われる。製作側のこだわりも、激しいアクションを見事にこなしたフォードの意気込みもすばらしいのだが、CGに頼りすぎた映像に違和感、抵抗感を覚えた人は少なくなかった。あるいは、恐怖。AIに取って代わられることを危惧した全米俳優組合(SAG-AFTRA)が、このことも争点に盛り込んでストライキを起こしたのは、この映画の公開直後である。『最後の聖戦』ではリヴァー・フェニックスが青年時代のインディを演じて好評だったのだし、別の俳優でも問題なかったのではないか。
さらに、製作側にはどうにもならない事情もあった。この年の夏は大作が目白押しで、『運命のダイヤル』の前には『ワイルド・スピード/ファイヤーブースト』『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』『ザ・フラッシュ』など、直後には『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』『オッペンハイマー』『バービー』などがびっしりとラインナップされていたのだ。チケットが値上がりする中、観客は吟味するし、「ちょっと待てばすぐ配信で見られる」とも知っている。実際「バーベンハイマー」現象(同じ週末に『オッペンハイマー』『バービー』を観ようというソーシャルメディアで自然に起きた動き)で盛り上がった2作は大ヒットだったが、『ワイルド・スピード』『ザ・フラッシュ』『ミッション:インポッシブル』の成績は期待外れに終わっている。
この冴えない結果は、フォードにとっても、ジェームズ・マンゴールド監督にとっても、もちろん残念だった。作り手としては、愛するキャラクターのために最大の努力を注いだのだから、当然だろう。
パンデミックが起きて『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』の製作が中断していた時、フォード、スティーヴン・スピルバーグ、キャスリーン・ケネディから監督を引き継ぐことを打診されたマンゴールドは、『運命のダイヤル』の製作経験が「喜びに満ちていた」だけに、「心が傷ついた」と業界サイト「Deadline」のインタビューで振り返っている。「僕はハリソンを愛しているし、観客にも今のままのハリソンを愛し、受け入れて欲しかった。終わりが来る、それが人生なのだということも、この映画が語るところなのだから」
フォードは、「The Wall Street Journal」のインタビューで「嫌なことは起きるものさ」と受け入れつつ、この最終章を製作したことに後悔はないとも明かした。「まだ語るべきストーリーがあると感じたのは、僕自身だ。これまでの結果として今の人生を生きている彼が、お尻の汚れを叩き払ってまた外に出て行く様子を、もう一度見たかったのさ」
そんな彼らの情熱は、たしかに作品から伝わってくる。この最終章には、アクション、コメディー、ラブストーリーなど、このシリーズの要素がてんこ盛りなのだ。インディ・ジョーンズの活躍を見てきたなら、やはり最後を見届けないわけにはいかない。どんな感想を抱くことになるのであれ、劇場公開時に見逃していた人は、ぜひこの機会を見逃さないでほしい。


