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実写『秒速5センチメートル』森七菜&青木柚、即興交えたカラオケシーンの裏側

実写映画『秒速5センチメートル』より。高校時代の貴樹(青木柚)と花苗(森七菜)
実写映画『秒速5センチメートル』より。高校時代の貴樹(青木柚)と花苗(森七菜) - (C)2025「秒速5センチメートル」製作委員会

 2007年に公開された新海誠監督のアニメーション映画を松村北斗SixTONES)主演で実写化した映画『秒速5センチメートル』(公開中)。アニメ版では第2章にあたる「コスモナウト」のパートで、主人公・遠野貴樹の高校時代を描いたシーンの裏側を、本作のメガホンをとった奥山由之監督が語った(※一部ネタバレあり)。

【画像】実写『秒速5センチメートル』メイキング

 本作は、小学時代にある少女と運命的な出会いを果たした主人公・遠野貴樹の18年間を幼少期、高校生、社会人の3つの時代で描いたストーリー。貴樹の幼少期を上田悠斗、高校時代を青木柚、社会人時代を松村北斗が、明里の幼少期を白山乃愛、社会人時代を高畑充希が演じている。監督を、「ポカリスエット」のCM映像や米津玄師星野源らのミュージックビデオを監督し、映画監督・写真家として国内外から注目を浴びる34歳の新鋭・奥山由之が務めた。

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~以下、映画のネタバレを含みます~

貴樹への想いを募らせる花苗(森七菜)

 アニメ版の「コスモナウト」のパートでは、明里が東京から栃木に引っ越したことで離れ離れになり、自身もまた鹿児島へ転居したことで明里との距離が広がっていく貴樹の苦しい時代が描かれている。そんな彼に片思いしているのが、同級生の花苗。実写映画では、森七菜演じる花苗が意を決して彼をカラオケデートに誘うシーンを追加。アニメ版でも使用されている山崎まさよしの名曲「One more time, One more chance」をBGMに、貴樹と花苗のもどかしい会話が繰り広げられる。鈴木史子が脚本を手掛けたこのシーンの印象について、奥山監督はこう語る。

 「この映画では別々の人生を歩んでいる貴樹と明里が、どこかでは繋がっていて、何かに反響して、今もなお連環していることを描いています。『One more time, One more chance』は、山崎まさよしさんの主演映画『月とキャベツ』(1996)の主題歌に起用された曲で、カラオケのシーンでは花苗が貴樹にその映画について話しています。彼女の姉・美鳥(宮崎あおい※崎=たつさき)が昔付き合っていた人と一緒に観た映画であり、別のシーンでは美鳥からその映画を勧められた明里(高畑充希)がDVDを手にしている。そうして何かのモチーフが時代を越えて人と人を繋げている巡り合わせや奇跡、ロマンチシズムを描いているのだと思います」

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高校時代の貴樹(青木柚)は弓道部に所属

 貴樹への思いを募らせ、ついに彼と二人きりになるチャンスをつかんだ花苗。花苗は JUDY AND MARY の「クラシック」を歌唱したのち、何を思ったのか「歌えない曲なんだけど……」と山崎まさよしの「One more time, One more chance」を流す。喜びと恥じらいが入り乱れ、胸を高鳴らせる花苗は、まさに「青春」そのものだ。

 「花苗の恥じらいをどう表現するのか。森さんには『クラシック』を1曲まるまる歌ってもらっているんですけど、“どこかのタイミングで貴樹と目を合わせてほしい”とお願いしました。目を合わせてからの演技についてはあえて何も伝えていません。目が合ったら多分恥ずかしくなって笑ってしまうだろうなと予想もしていたのですが、例えば僕が『笑ってください』と言ってしまうと無意識で表出した感情ではなくなってしまう気がしたので。一方、青木さんには“花苗を見てほしい”と伝えていないのでそのままだとカラオケの画面を見続けることになる。だからもし目が合わなくても、互いに意識している感じが伝わればいいかなと思っていたのですが、たまたま2人が向き合う瞬間があって。すごくいい瞬間が撮れました。」

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 脚本に追加された、「歌えないんだけど……」という花苗と、そんな彼女に対しての貴樹のリアクションは生々しく、これは奥山監督のポリシーに基づく演出の賜物だ。

 「 “歌えない曲を入れるってどういうことだろう?”と貴樹は“なんで?”とか聞くだろうなとも。さらに、聞いたときに『ん?』とか『え?』とか、言葉が重なり合うようなこともあるだろうなと想像して、森さんと青木さんにはセリフでは書かれていないことを現場で伝えました。そうすることで掛け合いのリズムに偶発性が宿ると思いますし、事前に伝えると準備してしまうと思ったので現場で初めて伝えるようにしていて、それはこのシーンに限らず各所で行っています」

 「One more time, One more chance」のメロディを聴きながら、花苗はかつて恋人と遠距離恋愛のすえ破局した姉を想い、「会えないと気持ちも離れちゃうのかな」と切なげな表情を見せる。本シーンは、貴樹と花苗のすれ違い、縮まらない距離を示す決定的なシーンともなっている。

 「花苗はお姉さんの話をしているけど貴樹はおそらく明里に思いを馳せている。その行き違いというか、カラオケボックスという密室空間で、花苗と貴樹の物理的な距離は近いのに、心の距離はなかなか縮まらない。対して、明里と貴樹は東京と岩舟、と距離は離れてしまったけれど、文通によって心理的には近くに感じているかもしれない。いつ誰がどこでどのように感じるかで時間、距離がいかに可変するのか、といったことは「秒速」の魅力的なテーマの1つだと思います」

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 また、アニメ版にもある、貴樹が告白しようとする花苗の空気を察するシーンでは、奥山監督がカメラワークにあるオーダーを出している。撮影は、『余命10年』『8番出口』などを手掛けた今村圭佑。奥山監督の長編監督デビュー作『アット・ザ・ベンチ』にも参加している。

 「あのコンビニ前でのシーンは、貴樹と花苗の関係が大きく揺らぎ始めることをイメージしていたので、画面を斜めにしているんです。アニメ版でもそう描かれているのですが、なんとか維持していた均衡が崩れ始める緊張感を重んじました。気持ちを伝えられなかった後では、おそらく普段の会話をしようとしてもできない。だから森さん、青木さんには言葉の淀み、2人の発話のタイミングが合わずに言葉が重なってしまうような演出は積極的に取り入れてみてほしいと伝えた記憶があります」

 単にアニメを実写に置き換えるのではなく、そうした奥山監督の緻密な設計やその意図を汲んだスタッフの努力、そして森と青木の演技力も相まって、実写「コスモナウト」のパートは「芝居」とは思えない切ない感情にあふれている。(編集部・石井百合子)

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