『Mr.ノーバディ2』監督、北野武作品の影響明かす ボブ・オデンカーク&ビートたけしに共通点
さえない中年オヤジが内に秘めた本性を覚醒させる大ヒットアクション映画の続編『Mr.ノーバディ2』(全国公開中)を手がけた、インドネシアの鬼才ティモ・ジャイヤント監督がリモートインタビューに応じ、自身が敬愛する北野武監督作品からの影響について語った。
【インタビュー動画】『Mr.ノーバディ3』は日本が舞台!?監督を直撃
前作『Mr.ノーバディ』(2020)は、地味で平凡な暮らしを送っていた“何者でもない”主人公ハッチ・マンセル(ボブ・オデンカーク)が、日頃の鬱憤が爆発したことで、内に秘めた本性(=超一流の殺し屋)を覚醒させるハードボイルド・アクション。続編は、前作でハッチがロシアのマフィアを壊滅させてから4年後を舞台に、ハッチがバカンス先で巨悪組織との全面戦争に巻き込まれてしまう。
前作のイリヤ・ナイシュラーから監督のバトンを受け取ったジャイヤント監督は、「学びを得たり、自分の欠点を受け入れたりするタイプのヒーローにすごく興味があります」と前作を観てハッチに強く惹かれたという。「ハッチが完璧ではない人間として描かれていたことが、最も魅力的な部分のひとつだと思っています」
「彼は日々のルーティンに退屈していて、『もう一度男としての誇りを取り戻したい』という衝動を抱えています。そこが面白い。でも今回は、逆に彼が自分の力を過信してしまうという方向に振れています。自分こそが最強の男だと思い込んでいるけれど、実際にはそうではない。結果的にボコボコにされ、事態はどんどん制御不能になっていく。その姿が面白いんです。私がこの作品で魅力を感じるのは、そういう部分です」

日本は毎年訪れるほど「特別な場所」だというジャイヤント監督は、日本のアニメやマンガが自身の作品に多大な影響を与えていると明かす。「どんなにファンタジックな物語でも、マンガには必ず人間らしさが描かれています。『Mr.ノーバディ2』では、ハッチがウォーターパークで大量の敵を倒すようなシーンでも、その裏にある人間的な物語は何か? を大事にしています」
さらに、『Mr.ノーバディ2』には北野監督作品の影響もあるそうで、「ビートたけしさんとボブ・オデンカークには共通点を感じるんです」と熱弁する。
「二人ともコメディー畑出身で、ユーモアを兼ね備えていて、非常にシリアスで寡黙な男を演じることができる。歳を重ねる度に、どんどん深みを増していくタイプの俳優でもあります。たけしさんもそうだし、ボブもまた表情の使い方がとても独特で、観ていて惹き込まれます」
ジャイヤント監督が特に好きだという作品は、北野監督が1997年に発表した『HANA-BI』。追われる身となった刑事とその妻の逃亡劇を、ジャイヤント監督の得意分野でもあるバイオレンスを織り交ぜながら描き出し、その年のべネチア国際映画祭で金獅子賞に輝いた傑作だ。「私にとって『HANA-BI』のビートたけしさんと、『Mr.ノーバディ2』のボブ・オデンカークは、どこか通じ合うキャラクターなんです」とも語っている。
『Mr.ノーバディ』シリーズの見どころでもあるアクションシーンには、マチェーテや釵(さい)といった武器や「シラット」と呼ばれるインドネシアの伝統武術を投入した。「シャロン・ストーンが演じる悪役・レンディーナの女性ボディガードには、インドネシア武術の動きを取り入れました。ハッチも優れた戦闘スキルを備えていますが、彼女たちのような達人には敵わない。しかも銃を失い、素手で戦うしかない状況です」とジャイヤント監督。「それでも必死に食らいつく。その等身大の戦いが魅力なんです。ハッチは確かに凄腕の殺し屋ですが、超人ではない。むしろ何度もボコボコにされる。それが彼のチャーミングな部分です」と笑顔で語っていた。(取材・文:編集部・倉本拓弥)


