『スター・ウォーズ』プリンセスがドロイドアーマー装着!メカ愛とロマンあふれるアニメ誕生の裏側

『スター・ウォーズ』シリーズの物語を、日本のアニメ-ションスタジオがそれぞれの“ビジョン”で映像化する「スター・ウォーズ:ビジョンズ」Volume3がディズニープラスで独占配信中。個性豊かな作品群のなかでも一際異彩を放つ、快活なプリンセスとメカたちが大暴れする一編「四枚羽の詩」を手掛けた、プロジェクトスタジオQの小林浩康監督が、ロマンを詰め込んだ本作について語った。
【画像】アニメ「スター・ウォーズ:ビジョンズ」Volume3:全9エピソード
「四枚羽の詩」は、雪の惑星“ジョエツ”を舞台に、活発なプリンセスが、小さな子どもを帝国軍から守るために戦う冒険譚。スピーダー・バイクを駆る若き戦士クラネと相棒のアストロメク・ドロイドのトーチュが、帝国軍の襲撃を受けた村で出会った、唯一の生存者である子供ウーパスを守るために、圧倒的な火力を持つ敵軍に戦いを挑む。
AT-ATなどシリーズを象徴する巨大なメカが大暴れし、4月に日本で開催された「スター・ウォーズ セレブレーション ジャパン 2025」では、クラネが分離したドロイドのトーチュを身にまとう“アーマード”シーンの映像が流され、世界中のファンが集まった会場から歓声が巻き起こった。
巨大メカを動かしたい!
Q:“雪とAT-AT”といえば『スター・ウォーズ/帝国の逆襲』(エピソード5)が思い出されます。小林監督も思い入れがあったのでしょうか。
小林監督:そうですね。今作では『スター・ウォーズ』の持つさまざまな魅力的な要素の中からメカニックにスポットを当てたいという思いが強く、特に『帝国の逆襲』には印象深い帝国軍のメカが数多く登場するので、その辺りを中心に描きたいと思っていました。
それと、僕自身が雪国出身ということもあって雪の描写には思い入れがあるんですが、四季があり雪も降る国ということで、日本らしい情景を見せることもできるんじゃないかと。家屋や村の描写でも日本っぽさを意識しました。
Q:主人公のクラネがプリンセスという設定は、どのように生まれたのでしょうか。
小林監督:メカを中心に描くのであれば、対比として女性の主人公の方が画になるのではないかと漠然と感じていたんです。そこから脚本の榎戸洋司さんと物語を構築していきました。
また、メカにフォーカスするため、ジェダイを登場させなかったので、よりプリンセスが頑張る物語がいいと考えました。『スター・ウォーズ』というとお姫様が活躍する物語でもありますよね。そういう意味ではレイア姫の存在も大きかったです。
Q:昔から『スター・ウォーズ』のメカに惹かれていたんですか?
ダース・ベイダーやトルーパーたちのようなマスクを着けているキャラクターももちろん好きなんですけど、やはり独特なデザインのメカニックが好きでした。特にジャワたちが使っているサンドクローラーが一番好きで、本作に“採掘用トランスポート”として登場させたんです。最初は、(監修した)ルーカスフィルムに「何でサンドクローラー?」とも言われたのですが、しっかりと理由を説明して、 OKをもらいました(笑)。あとはAT-ATという、この“二大巨大メカ”を緻密なディテールで、アニメーションとして表現できないか……という思いが中心でした。
Q:AT-ATの胴体が開いて砲台になったり、子供が「こうなったらいいな」と想像したことを実現してくれたような変形シーンが楽しかったです。
小林監督:ありがとうございます。本来は兵員輸送などに使われていると思うんですが、脚本でもただ「変形してすごい砲台になる」としていたので、メカデザインの高倉武史さんと「どう見せれば面白く目的の形に変えられるか?」を詰めてあの形になりました。
過去のレガシーを活かしつつ、驚きや新しい要素を追加したいと思っていたので、どのメカも大きくデザインは変えないようにしています。元の素晴らしいデザインに、少しだけエッセンスを足して新しいデザインにすることを大切にしました。クラネが乗るスピーダー・バイクも、基本のデザインから変えずにドロイド用のサイドカー的なパーツを加えたりしているのもそうです。
Q:新作映画『マンダロリアン・アンド・グローグー』(2026年5月22日日米同時公開)の予告編でも、AT-ATが登場しますね。マンダロリアンが爆破していますが。
小林監督:「スター・ウォーズ セレブレーション ジャパン 2025」で映像を見た時に、ああ、やっぱりAT-ATのあそこ(胴体)ってすごいロマンが詰まってるよなって思いました(笑)。
Q:戦闘シーンからも『スター・ウォーズ』愛が伝わります。クラネがAT-ATを攻撃する際にサーマル・デトネーターを使ったり、AT-ATからサイズミック・チャージで攻撃されたりと、細部もこだわりを感じました。
小林監督:サイズミック・チャージが爆発する時のあの音が大好きなので、いっぱい撃ちたかったんです(笑)。こんなことしたら怒られるかな? って思いながら、スカイウォーカー・サウンドにお願いしたら、快くあの音も沢山入れていただけました(笑)。そこは『スター・ウォーズ』好きとして、嬉しかったですね。
Q:まさに“やりたいことを詰め込んだ”という感じでしょうか。
小林監督:どのくらい受け入れてもらえるかはファンの皆さん次第ですが、僕なりの『スター・ウォーズ』愛を紡いで、面白いアニメができたと思っています。ネタを含めて喜んでもらえたら嬉しいです。
“メカ少女の活躍”は日本的要素
Q:本作の見せ場が、クラネが分離したドロイドをまとう“アーマード”のシーンです。「スター・ウォーズ セレブレーション ジャパン 2025」で予告が流れた時は、世界中のファンから歓声が上がりました。
小林監督:そうでしたね。1番のネタバレシーンが使われましたね(笑)。公開前は、怒られるかも? とも思っていたんですが、意外と皆さん“こういうのも好きなんだな”って(笑)。(今回の作品のなかでも)一番突飛なアイディアかと思っていたので、あの瞬間は「良かった」という思いはありました。
Q:クラネにドロイドを“着せよう”というコンセプトは最初から?
小林監督:当初、メカが主役という方向性でプレゼンした際に、企画自体はいいけれど、「誰が主役の話なのか、明確な物語として表現してほしい」というオーダーもあり、プリンセスを主人公にして物語性を強化しました。
その際、自分のフィールドに寄せて考えた時に、80年代から続く“メカ少女”的な文脈ってかなり日本的なんじゃないかと。そこで“じゃあクラネがXウイングになっちゃうのはどうだろう?”と考えたのが発端です。
メカ表現が得意なスタジオで作品を制作してきたということもありますが、“侍”や“忍者”的な和の要素は既に「The Duel」のような素晴らしい作品があるので、そのフィールドで勝負するよりは、“モビルスーツ少女”であったり、“変形合体ロボ”的な変身特撮要素だったり、かわいいキャラクターが登場するのが、現代の日本からの自分のアンサーになるのではないかと考えました。
Q:監修のルーカスフィルムからはどんな反応がありましたか?
小林監督:全然オッケーという感じでした。どういうデザインになるの? くらいの感じで、全体的に監修についてすごく苦労した記憶はないですね。先ほど言ったストーリーの肉付けに関する点くらいで、自由にやらせてくれた印象です。
豊崎愛生の声が世界に!
Q:かわいいキャラクターというと、クラネが保護するギゴーランの子供ウーパスはマスコット的なキャラクターですね。
小林監督:ウーパスの登場は最初からあって、やはりチューバッカのような人間ではないバディがいるのも『スター・ウォーズ』の良さ。その系譜として、日本的なキュートなキャラクターがほしかったんです。キャラクターデザイナーのミズノシンヤさんがとても良いデザインをしてくれて、さらにアニメーターのみんなが頑張って良い芝居をつけてくれたので、結果的にすごく良いキャラクターになりました。
Q:本当にかわいかったです。しかも、声を担当された豊崎愛生さんもバッチリはまってました。
小林監督:そうですね。豊崎さんも本当に良い仕事をしてくれてウーパスを魅力的にしてくれています。さらにすごいのが、英語版でもウーパスの声は豊崎さんのままなんです。これは言っておきたいですね(笑)。
Q:ウーパスの活躍を匂わせるラストでしたが、「The Duel: Payback」「The Ninth Jedi: Child of Hope」のような続編やシリーズ化の可能性はありますか?
小林監督:キャラクターの可能性を広げられるように、いろいろな要素を詰め込んだので、チャンスをいただければ嬉しいですね。ただ同時に、新しい仲間と出会い、勝利し、次の冒険に向かうという、1作目的な要素をぎゅっと短縮して作っているので、『スター・ウォーズ』作品の一本として十分楽しんでいただけるものになっていると思います。後は配信でどれだけファンの皆さんに観てもらえるかですかね。
アーマードの要素以外は、そんなに変わったことはしていないつもりで、僕も大好きなシリーズの遺産を大切に見据えながら新しい価値を作る作業だったので、ファンの皆さんにも愛していただけるかなと思っています。後、その方がおもちゃも出しやすい感じがしますし(笑)。
Q:登場したメカのおもちゃ、ほしいですね。サイドカー付きのスピーダー・バイクとかも。
小林監督:そうですよね。僕もほしいなと思っています(笑)。
Q:ちなみに、今後チャンスがあれば動かしたいメカなどはありますか?
小林監督:うーん……何でしょうね。『スター・ウォーズ』ってメカやジェダイに限らず、本当に懐が深いので、「イウォーク・アドベンチャー」のような、色々な種族が活躍する話なんかもいいですよね。それこそ今は実写ドラマシリーズなどでも良い作品がたくさん出てきているので、僕がやるのではなくても、『スター・ウォーズ』の世界がどんどんつながって広がっていってくれると、ファンとして嬉しいなと思います。
あ、でも今思い出しました。メカだとBウイングっていう戦闘機があるんですが、左右非対称ぽい十字型の独特な形状がすごく好きなんです。機会があればぜひ描きたいですね(笑)。


