『ズートピア2』が完璧な続編と言える理由 世界中を虜にする「楽しさ」重視の世界観

ディズニー・アニメーション最新作『ズートピア2』(全国公開中)が、全世界を熱狂させている。人気映画の続編とあればヒットは期待されるものだが、業界の予測を大幅に上回る大成功なのだ。近年、ハリウッド映画の勢いが落ちている日本や中国でも首位デビューを果たしたのは、とりわけ注目すべき。国境を越えてこの映画が観客にアピールしたのは、なぜなのか?(文/猿渡由紀)
『ズートピア2』は、アメリカが感謝祭の連休に入る11月26日の週に、北米、中国を含む世界各国で公開。その週末までに5億5,600万ドルを売り上げ、アニメーション映画としては史上最高の全世界オープニング記録を打ち立てた。中国でも、その週末のチケット売り上げの95%を占め、ダントツの1位に。ハリウッド映画が中国で初日に1億ドル以上を売り上げたのは、史上初のことだ。1週間遅れで公開された日本でも、初週3日間で19億円弱を稼ぎ、洋画アニメーションのオープニング最高記録を達成した。
「これからは中国市場が鍵だ」とハリウッドがあの手この手でラブコールを送ったのはもはや昔話で、ここ数年、中国におけるハリウッド映画の存在感は大きく減っている。日本でも最近では圧倒的に邦画が強く、洋画は隅に押しやられている状況。そんな中、『ズートピア2』は、観客が求めるものを持つ作品であれば人は集まるのだということをあらためて証明した形だ。
では、勝因は何なのか? 最も基本的なことに、オリジナルの力がある。
2016年に公開された『ズートピア』は世界興収10億ドル超えの大ヒットで、中国でも当時、外国のアニメーション映画で史上最高の成績を打ち立てた。オスカーの長編アニメーション賞に輝いたことも示すように、クオリティーも抜群に高いこの作品は、その後もDVDや、2019年にサービス開始したディズニープラスで頻繁に人々の目に触れ続ける。つまり、愛すべきキャラクターは、忘れられるどころか、地道にファンを増やしてきたのだ。さらに、2023年には、上海ディズニーランドに世界唯一の『ズートピア』アトラクションが登場し、大好評を得た。そんなところへついに続編ができるとあれば、劇場に駆けつけたくなるのも納得である。
そして、これまた基本的かつ大事なことに、続編も出来が良かったのだ。
シネマスコア社の調査によれば、アメリカの観客の評価は「A」。中国のソーシャルメディア「Maoyan」でも、オリジナルの9.5ポイントを超える9.7ポイントを獲得している。これは、実はすごいこと。人気映画の続編が観客を満足させるのは、決して簡単ではない。たとえ作り手が誠意と情熱を持って挑んだとしても、しばしば「前の繰り返しだった」、あるいは逆に「全然違う方向に進んでしまった」と感じさせてしまうはめになるのが現実だ。それは誰もが経験しているだろう。
そんな中でなぜ『ズートピア2』は完璧な続編となったのだろうか。第一に挙げられるのは、オリジナルを知る人にとって意味をなすストーリーであることだ。
監督のジャレド・ブッシュは、公開前のインタビューで「観客は頭が良いので、続きはなくても良かったのだと知っています。ですが、僕たちは主人公のジュディとニックについてもっと語りたいことがありましたし、この世界が魅力的だったから、先を語りたかったのです。それはすでに世界の人々に愛されているキャラクターにとって意味がある話でなければならないと、僕たちは常に意識していました」と述べている。
正しいストーリーを作り上げるために、時間もかけた。オリジナルも手がけたブッシュとバイロン・ハワードの監督コンビは、1作目の製作中から続きについて考え、『ミラベルと魔法だらけの家』(2021)を製作する間にも、『ズートピア2』の可能性について話し合っていたという。「儲かったから熱が冷めないうちに」というのではなく、焦らず、じっくりと培っていったのだ。
初心者に優しいのも良かった。MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)にしろ、『スター・ウォーズ』にしろ、最近では配信ドラマも見ていないと入っていけない続編が増えた中、『ズートピア2』は誰でも楽しい体験ができる。一緒に行くグループにオリジナルを見ていない人が混じっていたとしても、問題はない。そして「楽しい」ことこそ、大きな鍵。オリジナルも続編も、『ズートピア』は観客を完全にエスケープさせてくれるのだ。
スクリーンに登場するのは、現実には存在しない、動物たちが住む世界。しかし、街のデザインにしろ、それぞれのキャラクターにしろ、ディテールまで実にしっかりと考えられていて、嘘っぽさがない。笑いもたっぷりある。アメリカでは観客が大きな声を上げて笑うので、「みんなで体験を共有できるのは特別。お金を払って映画館に来た意味があった」という満足感も与えてくれる。
続編にもオリジナルから継承されるメッセージがあり、それが意義のある映画にしているのだが、作り手が最大重視するのはあくまで観客に楽しんでもらうこと。だから、説教くさくはならない。多様性についてのメッセージが押し付けになり、受け手の一部に反発を感じさせて分断することになったら、それこそ逆効果だろう。この映画は、そこをしっかりと把握しているのだ。
もうひとつ、世界各国の観客に対して丁寧に対応していることも、ディズニーならではのポイントかもしれない。ズートピアの街には、看板などあらゆるところで現実社会にある社名やブランドをもじった言葉遊びや語呂合わせが多数出てくるが、それらはどこの国の観客が見てもピンと来るように、国によって変更されているのだという。ミュージカルアニメーション映画の歌も国ごとに歌詞を作ってきたのだから、その流れといえばそうなのだが、「英語圏の観客にわかるんだからそのままでいいでしょ?」という手抜き、あるいは上から目線の態度ではないのである。
そういう細かい気遣いも、観客はなんとなく感じるのではないだろうか。いや、必ずしもそうとも言えないか。前述したように、誠意と情熱を持って作っても、結果が伴わないことは多々あるのだから。そう思うと、『ズートピア2』は、まさに最高のマジックをやってみせたということ。クリスマス、お正月が控えるこれからの時期、この魔法に酔いしれる人は、ますます増える予感がする。


