「緊急取調室」苦楽を共にした12年 プロデューサーがキントリレギュラーへ贈る言葉

2014年から連続ドラマやスペシャルドラマで脈々と続いてきた人気シリーズ「緊急取調室」が、『劇場版「緊急取調室 THE FINAL」』(全国公開中)で完結を迎える。天海祐希演じるたたき上げの捜査官が、チームメンバーと共に特別な取調室で犯人と対峙する緻密な心理戦が描かれ、キャスト陣の巧みな芝居が高く評価されている同シリーズ。企画を立ち上げ、ドラマのエグゼクティブプロデューサーを務めてきた三輪祐見子(テレビ朝日)が、12年間を共に歩んだキャストたちについて語った。
【撮り下ろしカット】天海祐希、12年演じた真壁有希子と別れの時…
劇場版では、可視化設備の整った特別取調室で取調べを行う専門チーム「緊急事案対応取調班(通称・キントリ)」が、内閣総理大臣の取調べという前代未聞の事態に挑む。熟練の技を持つチームのメンバーは、主演の天海を筆頭にベテランかつ演技巧者ぞろいだ。俳優としての彼ら彼女らの実力を、三輪プロデューサーは12年間、見続けてきた。
主演の天海とは、今作が初仕事だった。「天海さんは唯一無二の俳優さんだと思います。絶対的なお芝居の力に裏付けされているのですが、厳しさも優しさも兼ね備えていて、周囲への配慮も素晴らしい。そして、根っこにすごく信念や正義があります。曲がったことをしないし、揺れないんです。彼女が演じる真壁有希子も、とことん自らの信じる道を貫く一本気な女性なので、最近は、有希子とご本人が重なり合う瞬間をかなり感じています。もちろん、ぜんぶが一緒ではなく、≒(ニアリーイコール)ですけど」
今作の企画の1つとして、リーダーシップをとる役が多かった天海をベテラン勢の中に入れ、若輩者の立場にしたいという思いがあったと三輪プロデューサーは言う。「ベテランのみなさんが一堂に会してくださって、当初からいい感じではありましたが、12年も経つと関係性がより深まります。ドラマの放送がない年も必ず年に2~3回はスタッフ&キャスト交えて食事会などで会っていたんです。盆とお正月に集まる親戚みたいな感覚です。ですから、関係値としてはゆるぎないものが出来上がっています」
当初からのレギュラーだった大杉漣が亡くなり、コロナ禍を経験するなど、12年間で大きな困難にも直面した。「公開が延期になったことも含め、悲しみも苦しさも、みんなで乗り越えた歴史があります。ですから、楽しさやうれしさも一緒に感じられるんです」とチーム全体を包む温かさを明かした。
そんな三輪プロデューサーが、苦楽を共にしたレギュラー陣について一人ずつ言葉を残した。まずは、キントリの管理官・梶山勝利役の田中哲司。「けっこう長いお付き合いがあるのもあって、いてくださるだけで安心できます。わたしたち制作側と俳優部は本来立ち位置が違うんですけど、制作側のことをわかってくださって、助け船を出してくださる。こちらから『いまこんなことで困ってる』と言えるし、向こうからも『どうなってんの?』と聞かれたりという関係性が、12年間でさらに遠慮のないものになっています。一番理解を示してくれる、頼もしい方です」とまさに梶山のような立ち位置だという。
キントリチームに協力する捜査一課の刑事・渡辺鉄次役の速水もこみちについては「メンバーで一番若いので、元気の良さとフットワークの軽さがあります。ご本人はジェントルマンで場の癒し。特に“もつなべ”でいると、とってもムードがよくなります」とコメント。“もつなべ”コンビとして動くことが多い監物大二郎役の鈴木浩介については、「鈴木さんは、もう本当にお芝居がお上手で。真剣な話が続く中でコメディー担当になっているんですが、説明もお上手だし、活舌もいいし、難しい言葉も引き受けてくださって、メンバーのおじさまたちは大助かり、みたいな(笑)。それはもこみちくんもですね」と速水とのコンビっぷりを高く評価した。
警視庁副総監・磐城和久を演じる大倉孝二は、ドラマではポイントでの出演だった。「磐城は登場のたびにスパイスみたいにピリッとさせてくださいます。でも、なんだかんだとキントリを守ってくれるいい関係性の存在ですよね。ご本人はとても面白い方で、みんな大倉さんが大好きなんですが、お忙しいのでなかなか出ていただけないんです」と笑った。
塚地武雅が演じる玉垣松夫は、「退職した形の中田(善次郎・大杉漣)さんの穴を埋める立場で、最初は難しかったと思います。芸人さんではありますが、俳優業もかなり力を入れてらして、今回久しぶりにお会いして『頼りがいのあるベテランの域に入られたな』と思いました。とってもありがたい存在です」と語る。ただし、塚地は衣装を作り直すほど「育ってます、この12年間で着実に(笑)」とのこと。それでも、劇場版は再撮影があり、2年以上年月が空いた映像が1本にまとまっているのだが、塚地はもちろん他キャストについてもあまり違いは感じられない。「撮り直し分が、もともとあった分とうまくつながるか難しいなと思っていましたが、意外に大丈夫だった様な。みなさんのお芝居に安定感があるからなのはもちろんなんですけど、大人の2年はさほど変わらないんだなと思いました(笑)」
元マル暴の菱本進を演じたのは、でんでんだ。「一見強面ですが、すごく愛らしい方で、スタッフもキャストもみんな、でんでんさんが大好きです。いつも楽しそうに現場にいてくださって、ありがたいなと思っています」と周囲がでんでんに魅了されていたという。「小日向(文世・小石川春夫役)さんといつもかみ合わない話をされていて。お2人に限らず、けっこうみなさん、言いたいことをそれぞれ話してますね(笑)」と三輪プロデューサーは証言。だからこそ、天海が年上の共演者たちを締める役割となっているのだろう。
その小日向文世については「本当にお芝居が素晴らしいうえに、ご本人のキャラクターが抜群にチャーミングなんです。わたしはもう、ずーっと一緒に仕事していたいと思うくらい、大好きです。ふだんののほほんとされている感じがとっても素敵で。それでいて、出てくるだけで画面が引き締まる。ギャップ萌えです(笑)。こんな俳優さん、なかなかいないと思います。ハルさん(小石川)のちょっとピリッとする感じも忘れずに入れてくださるんですよ。すごいなと思います」としみじみ。
彼らは出番の直前まで違う話をしていて、瞬時に役に入るのだという。「さっきまで違う話をしていたのにさすがだなと思うんですけど、とにかく同年代が多いから話題を選ばなくていいのかなと思います。ほかの作品だと“止め(クレジットの最後)”になるような俳優さんばかりで、そういう現場だと周りは若い俳優さんが多くて、ここでよく出る健康の話とかしても、ポカーンとされちゃうと思います(笑)」。三輪プロデューサーは、そんなふうに撮影された第5シーズンの現場を「みんなでロスタイムを楽しんでいる最中です」と表現した。彼らが楽しみつつ、個々の技と力を尽くした「キントリ」12年の集大成となる劇場版が、見ごたえだらけなのは当然だろう。(取材・文:早川あゆみ)


