人生最悪の瞬間を極限再現…『シビル・ウォー』監督最新作『ウォーフェア』が目指した“本物の”戦争映画

日本でも大ヒットした映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』(2024)を手がけたアレックス・ガーランド監督が、最新作『ウォーフェア 戦地最前線』(1月16日全国公開)を引っ提げリモートインタビューに応じ、イラク戦争で“悪夢”を経験した元特殊部隊員レイ・メンドーサを共同監督に迎えて製作した戦争映画の裏側を語った。
【動画】イラク戦争のリアルを極限再現…『ウォーフェア 戦地最前線』本予告編
舞台は2006年、イラク。通信兵メンドーサらアメリカ軍特殊部隊の小隊8名は、ラマディでアルカイダ幹部の監視と狙撃の任務に就いていたが、彼らの動きを察知したアルカイダ側に完全包囲されてしまう。激しい攻撃を受けて負傷者が続出し、メンドーサは救助を呼ぼうとするが本部との通信が閉ざされてしまう。パニックに陥った指揮官のエリックは部隊へ指示を出すことを放棄し、狙撃手エリオットは爆撃に巻き込まれて意識を失い、小隊は絶体絶命の状況に追い込まれる。
ガーランド監督は、『シビル・ウォー』でメンドーサ監督とタッグを組んだことが企画の立ち上げにつながったと振り返る。「『シビル・ウォー』で兵士たちがホワイトハウスの廊下を進み、オフィスで戦闘する場面があります。そのシーンで兵士を演じていたほとんどが、本物の軍人でした。彼らの動き、コミュニケーションの取り方、廊下を進む際の戦術を目の当たりにして、『これは、映画が通常描く戦闘とはまったく違う』と刺激を受けたんです」
「そこから、映画が戦闘をどれほど微妙に歪めているかを考え始めました。音楽もその一つです。音楽は一種の“歪み”です。僕たちは普段、道を歩いているときにオーケストラが後ろで演奏しているわけではない。道路を渡る時、ハンバーガーを買う時だって音楽は流れないですよね」
「さらに、映画の編集では現実よりも出来事がずっと速く進みます。たとえば、映画でお茶を淹れる場面でも、やかんが沸くのを待ち、棚から茶葉を取り出し、ポットに入れてお湯を注ぐ、という全てを見せることはしません。もし、そうした“時間の圧縮”や音楽を省いて『その日、本当に起きたこと』を可能な限り忠実に再現したら、何が生まれるのかーー。それは、本物の戦争映画になるかもしれない。映画が誕生してから、戦争映画は数多く製作されていますが、実際の戦闘とは大きくかけ離れた描写がほとんどなのです」
ガーランド監督は、メンドーサ監督に1週間かけてヒアリングを行った後、彼の実体験に肉付けする形で、実際の軍人たちにも取材を敢行した。「出発点は、あくまでレイの記憶です。そこから、さらに多くの人に話を聞いていきました。戦場にいた軍人や民間人にもです。戦闘はトラウマを伴い、記憶が断片化されてしまう。意識を失うこともあります。レイ自身も意識を失ったことで、特定の期間に何が起きたか、覚えていませんでした。別の人の記憶と一致することもあれば、食い違うこともあります。それらを少しずつ積み重ねて、まるでジグソーパズルのように一つのストーリーを構築していきました」
逃げ場の戦場を可能な限り再現しようと、ガーランド監督は床や壁の血痕、弾痕に至るまで、戦闘直後に撮影された写真も確認した。「軍人たちにとって人生最悪の瞬間を、もう一度体験させることになるわけです。彼らの目の前で(戦場を)再現する行為は極めて過酷で、撮影現場にも異常な空気感が漂っていました」
撮影手法にもこだわり、IED(即席爆発装置)の爆風も砂や埃を被せた大量の爆薬で再現。兵士の装備についても「本物の武器を使い、何千発もの空砲を撃ちました」とガーランド監督は振り返る。「銃口炎も音も、反動で顔に当たる感覚も本物です。極めて危険なので、細心の注意が必要でした。俳優たちは、事前に3週間の訓練を受けており、全員が慎重に撮影していました」
『シビル・ウォー』を超える没入体験を目指したガーランド監督は、本作をなるべく音質がいい劇場で鑑賞することを推奨した。「いい音響設備がある劇場なら、どんなフォーマットでも観る意味があると思います。この映画はさまざまな点で非常に“異質”だからです。通常、映画には音楽がありますが、この作品で聞こえてくるのは、可能な限り正確に再現された戦闘音だけです。もし実際に機関銃の近くに立って、それが発砲されたら、ものすごく大きな音がしますし、空気の過圧が頬を叩くように感じることさえあります。優れた音響システムを備えた劇場であれば、戦闘音の体験をよりリアルに感じ取ることができる。ある意味で、この映画は“アンチ映画”と言ってもいいでしょう。観客を魅せるための映画的技法を、あえて使っていないのですから」(取材・文:編集部・倉本拓弥)


