道枝駿佑、有言実行の進化「努力の賜物」 三木孝浩監督『セカコイ』から4年ぶり再タッグで目撃

道枝駿佑(なにわ男子)が主演、『今夜、世界からこの恋が消えても』(2022/以下『セカコイ』)チームが再集結した映画『君が最後に遺した歌』。歌を奏でる男女の10年にわたる恋模様を描く同作のメガホンを取った三木孝浩監督がインタビューに応じ、『セカコイ』以来4年ぶりの再タッグとなった道枝の演技について語った。
“受けの芝居”で進化を証明
三木監督は、今作のプロデューサーからの「『セカコイ』チームでまた映画を作りたい」という話に、二つ返事で応じた。「僕の中で『セカコイ』は、スタッフもキャストもいろいろなものが奇跡的に合致して、とてもいい作品ができたという手応えがありました。物語は別ですが、まとう空気など共通する部分もあったので、『セカコイ』で作ったトーンみたいなものを活かして、同じ座組でもう一度ご一緒したいと思いました」
物語は、道枝演じる水嶋春人(みずしま・はると)の高校時代からはじまる。クラスメイトの遠坂綾音(とおさか・あやね/生見愛瑠)から自分の曲に詞を書いてほしいと頼まれた春人は、彼女が文字の読み書きが難しい“発達性ディスレクシア”という症状を抱えていることを知った。文字のない綾音と、夢のない春人。ともに楽曲を作るうちに2人は徐々に心を寄せ合っていく
道枝は作品に入る前、「前回よりも進化した僕を見せます!」と三木監督に宣言した。「自分でハードルを上げていますから、大きく出たなと思いました(笑)。でも有言実行で、本当にそこを乗り越えてきた。素晴らしかったです」と三木監督は道枝を絶賛する。「『セカコイ』ではどこか聖人的なキャラクターだったのですが、春人は迷いもあるし、もどかしさも表現しないといけない等身大の役。しかもそのほぼ全部が“受けの芝居”です。前回とはぜんぜん違うものを求められていましたが、台詞じゃなくて表情の揺らぎ、特に目のお芝居でしっかり伝えてくれました。何もしゃべってなくても、春人が今何を感じているのかがわかるんです。それは道枝くんの努力の賜物だと思うし、宣言通り、進化したところを見せていただいたと思います」
三木監督からは、その時々の感情の揺らぎや綾音への気持ちの在り方だけを説明し、具体的な芝居の形を提示することはなかった。綾音とどのくらいの距離感で接しているのかは話し合ったが、それも「春人だったらどこの位置でしゃべる?」と常に道枝に問いかけていたという。
「春人の感情をどういうふうに表現するのかは、道枝くんの技術の部分。彼は、期待を超えるものを出してきました。しかも、順撮りではないですからね」。撮影では、劇中時間の流れ通りではなく、同じシチュエーションをまとめて撮ることが多い。「1日で、高校生と10年後の社会人を演じてもらったりしました。年齢による違いも、しっかり表現してくれました。声のトーンや口調を『社会人の時はちょっと落ち着いて』と提案したりはしましたが、基本的には彼のプランニングです」
春人は、最初から寂し気な佇まいを見せる。「道枝くんの魅力の1つに、諦めを受け入れている人の強さを自然に演じられるというところがあります。あの年(23歳)で諦念の空気をまとえるのは、彼の芝居力の高さ。普段の気さくな感じからすると意外なくらい、いつもはなかなか見えない“映える”部分です」と明かす。「春人は特に、ちょっとした嫉妬心や、自分の才能を見限らなきゃいけないもどかしさ、悔しさといった、ネガを持ったキャラクターです。自分の気持ちを押し殺して、綾音に別れを告げて背中を押しますし、いろいろな矛盾した感情を抱えている。その複雑さを、とてもうまく演じてくれたなと思っています」
三木監督は道枝に「音楽のような芝居をしてほしい」というリクエストをした。道枝は、それについての細かいやりとりはなかったと語っていたが、三木監督の本意はどこにあったのだろう。「春人は詩を紡ぐ人で、綾音はメロディーを作って歌う人。2人の言葉のやりとりがリズムを意識した会話に聞こえるといいなと思ったんです。最初はぎこちないけど、だんだんハーモニーを奏でていく感じが、日常的な会話にも感じられたらと。僕の直観です。2人のやりとりについては、リアルよりリズムを意識したところがあります」
アイドルスイッチのオンとオフ
道枝は、史上初の京セラドーム大阪6日連続公演を大成功させた大人気アイドルグループ「なにわ男子」の一員だ。三木監督は、現場での春人としての佇まいが見事である分、アイドルとしての道枝のギャップに底知れない凄さを感じていた。
「あんな大きなステージでみんなの注目を集めるアイドルなのに、教室の片隅で存在感薄く春人としていられること自体がすごいんです。社会人のシーンも等身大で、普通に仕事しているように見えますから。リアルに考えたら目立ってしょうがないはずですよね?」と笑う。「もっとも、役に入っていない時も気さくで接しやすい方ですから、アイドルスイッチがすごいのかもしれない。きっとオーラのオンオフができるんです」
2作目となった道枝とのタッグだが、もし3作目があったとしたらどんな道枝が見たいのかと問うと「関西弁のキャラです」と即答。なにわ男子の名前の通り、道枝は大阪府出身だ。「これは本人にも言ったのですが、関西弁をしゃべる道枝くんの魅力を、お芝居ではまだそんなに見てない気がするんです。関西弁だと、どうしてもコメディー要素が出ると思いますが、しっかりとしたヒューマンドラマ、人柄が出る感じのお芝居を見たいです」と“この先”への期待を寄せた。
「僕の作品は、2人がすれ違ってもお互いの想いを認め合い一緒になって終わるものが多いのですが、うまくいってもいかなくても、人生には“その先”があります」と続けた三木監督。本作でも、春人の人生には“その先”があるはずだ。「物語には延長戦があって、点ではなく線で物語を感じてほしい。それは観てくださる方の人生にも繋がると思うんですけど、ここで終わりじゃない、もっと先があるんだと感じられる作品になっていると思うので、そのあたりも楽しんでほしいです」(取材・文:早川あゆみ)


