「ガス人間」小栗旬の扮装は「定型にはまらない刑事像意識」 人物デザイン監修・柘植伊佐夫が明かす

小栗旬演じる主人公の刑事・岡本賢治は、サスペンダーがポイント
小栗旬演じる主人公の刑事・岡本賢治は、サスペンダーがポイント

 小栗旬蒼井優ら出演のNetflixシリーズ「ガス人間」(配信中)でヘアメイクや衣装などをトータルで手掛ける、人物デザイン監修の柘植伊佐夫。東宝とNetflixが初タッグを組み、東宝の特撮映画『ガス人間第1号』(1960)をリブートする本作の小栗やヒロイン・蒼井の衣装の裏側を語った。

【画像】誰かわからない…!「ガス人間」激変のキャストたち

 本作は、『ゴジラ』『モスラ』『マタンゴ』など多くの名作特撮作品を手掛けた本多猪四郎三橋達也八千草薫土屋嘉男らを迎えた『ガス人間第1号』が原作。生放送番組に出演中の大学教授の身体が突如として膨張し、爆死する前代未聞の事件が発生。そんな矢先“ガス人間”(UTA)を名乗る男が連続殺人を予告し、刑事・岡本賢治(小栗)や報道記者・甲野京子(蒼井)らがその謎を追う。脚本は映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』(2016)などで知られるヨン・サンホ。監督を映画『さがす』(2021)、ドラマ「ガンニバル」シリーズ(2022・2025)などの片山慎三が務める。

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 それぞれのキャラクターの個性をデザインに反映するにあたり「第一に、「ガス人間以外の登場人物たちの風合い」をどのようにするべきかを考えた」という柘植。本作における根本的な考えについて、こう語る。

 「本作にはさまざまな個性あるキャラクターが跋扈するわけですけれども、ガス人間という虚構の存在に、映画的なリアリティーを与えるためには、周りを囲む人々の個性を、日常よりもわずかに強くする必要を感じました。それによって、作品に関わる人物デザインの印象の平均値を上げて、ガス人間そのものが、「こういう人もいるかもしれないな」と自然にあり得るような、素地を作るためでした。それでいて特殊な姿ばかりではなく、ごく普通な装いでいながら、それが俳優の役割にはまり込むことで強さを発揮するような、そのような存在のあり方も同時に模索しました」

 その先で撮影監督の池田直矢(『完全なる飼育 etude』(2020)、『雨の中の慾情』(2024)でタッグ)と話し合ったというのが、「警察署や刑事たちはどうあるべきか」ということ。その結果、「現代的な光と懐古的なくすみのバランス」を意識することとなった。

 「これは刑事や警官だけに関わるものではなく、本作の視覚的な世界観をどの方向にするかという課題を含んでいます。なぜなら、近代建築で光り輝くような警察署の感覚というのが、本作には似合わないように思えたからです。もちろん現代が舞台なので、ロケ場所によってそのような「輝きの要素」は混入しますが、むしろその逆側の、「くすんだ風合い」を増やす方がいいのではないかと考えていきました。それは本作が「ガス」を扱っている、フォグやスモーキーな、煙った世界がキーになっていることと無関係ではないと思います」

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岡本刑事のデザイン画

 人物の具体的なデザインイメージとして、岡本刑事は「刑事物の定型でもあるスーツ姿を当てはめないように考えた」そうで、髪型は演じる小栗本人と相談したうえで決めたと話す。

 「警察の規範からどこかはみ出しているという存在感を、視覚的にはっきりと打ち出す方が岡本の考え方や行動基準を感じさせられるように思えたからです。そこで古着の革ジャケットと厚手のシャツにニットタイのような、ヴィンテージなムードで固めています。髪型もボサボサです。これは小栗さんから、“柘植さん、髪は切る方がいいですか?”と直接相談を受けて、私は、扮装チェックをしていた時、少し伸びっぱなしでボサボサしている雰囲気が良いと感じて、“癖のある、そのままの雰囲気がいいと思いますよ”とお答えしました。大切なのはサスペンダーで、これも現代からすればしている人もあまりいないアイテムですが、ここに「父の記憶」があります。本作は、「個人史」が大切なテーマですので、そのキーアイテムとしました。そのような意味では、既にタバコを吸わない岡本がそれを吸うシーンも、父の記憶と重なるところがあります」

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芋生悠演じる後輩刑事・阿部美智子は黒のブルゾンを着用

 岡本と共にガス人間の事件を追う後輩刑事・阿部美智子は全身黒。映画『牛首村』(2021)、『バカンスは始まったばかり』(2026)、Netflixシリーズ「極悪女王」(2024)などの芋生悠が演じているが、阿部については「“身のこなしの切れ味が良い人”という印象を目指した」という。

 「事件に対して体を張るというイメージ、精神が真っ直ぐに感じられる。格闘に長じているという意味も含めて、「道(どう)」が感じられるルックにしたいと思いました。肉体的な攻撃力を感じさせても、芋生さんご自身が持ち合わせる透明感や知的さがあるので、単に暴力的には見えず、理性を以って状況に対処している見え方になるだろうと思いました。同時に、黒い革のブルゾンを纏わせて、精神が岡本刑事に寄り添っているというか、どこかにアウトローなムードも出したいと考えました。髪はできるだけフィットさせてジェンダーを超えた存在です」

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蒼井優演じる甲野記者は“肌を見せない”着こなし

 一方、岡本刑事とは異なる視点、立場でガス人間にかかわるのが蒼井優演じる記者・甲野京子。エピソード第1話の冒頭で、岡本と過去に複雑な関係があったことが示唆される。京子については職業を考慮しつつ、「あまり肌を見せない人物」としてデザインされた。
 
 「甲野京子は、記者という職業柄、基本はパンツスーツにするという考えはありました。オープニングの活動的なスタジオ入りやその後の動きを考えた時に、甲野記者を表すのに適切なスタイルだと思いました。一考したのは、「スーツの下に着ているのは何か」ということでした。私にとって彼女は、“どこか開かれていない人物”というように読み取れました。そこで「タートルネック」「ハイネック」によって首を隠す。あまり肌を見せない人物にしようと思いました。色彩的には、ベージュ系のセットアップに対して、インナーを黒っぽいハイネック。さらに、内向性を伴いながら活動的である彼女の造形は、髪を短いワンレングスに切ることで、時間経過や動きに力を与えました」

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酒向芳演じる小畑広紀のデザイン画

 さらに、京子が接触するのが酒向芳演じる小畑広紀。誰にも言えない秘密を抱えており、今は憩いの場「うみかぜ」施設長としてひっそり暮らしている。柘植は小畑を、「生きることに諦念を覚えている人」と解釈した。

 「小畑広紀を酒向芳さんが演じるとお聞きして、イメージがすぐに湧きました。脚本を読みながら、この心優しいけれども、弱い人間である小畑という人物をどのように視覚化するか。それは一種の、ヒッピームーブメントや学生運動など、1960年代に見る社会的な権力闘争を経て、生きることに諦念を覚えている人、ひるがえって、自然志向の雰囲気を出せるといいのではないかと考えました。そこであまり様式的ではない、ロングシャツに、それより丈の短いジレを着て、あご髭を伸ばす。特定の宗教ではありませんが、何か信仰を匂わせるような帽子。そんな「揺らぎのある風貌」を考えました。若い頃の小畑を演じる中島歩さんも、現在の老いた小畑の特徴をそのまま維持しています。眉毛の上にある大きなイボは監督のアイデアで、やはりここでも「整ったものを壊す」という原則が働いています」

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 そうして、登場人物の背景を模索したうえで構築された人物デザインは、説得力がありながらも細部にわたって目をこらしたくなる工夫、アクセントが施されている。(取材・文:編集部 石井百合子)

柘植伊佐夫プロフィール

 人物デザイナー、衣裳デザイナー、ビューティーディレクター。NHK大河ドラマ「龍馬伝」(2010)、「平清盛」(2012)、「どうする家康」(2023)で全俳優の扮装を統括し、映画『おくりびと』(2008)、『シン・ゴジラ』(2016)、『翔んで埼玉』シリーズ(2019・2023)、『はたらく細胞』(2024)、『10DANCE』(2025)、ドラマ・映画「岸辺露伴は動かない」シリーズ(2020~2026)、舞台「プルートゥ」(2015)、「舞台 エヴァンゲリオン・ビヨンド」(2023)、「リア王」(2026)などを手掛ける。第30回毎日ファッション大賞鯨岡阿美子賞受賞。著書に「さよならヴァニティー」「美人」など。

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