【レビュー】『踊る大捜査線 N.E.W.』進化を遂げて再始動 室井との“約束”を胸に青島俊作が走り出す

社会現象を巻き起こした『踊る大捜査線』の主人公・青島俊作が、14年ぶりに帰ってきた。織田裕二が主演を務める映画『踊る大捜査線 N.E.W. メトロポリスを駆け抜けろ!』が、9月18日に公開初日を迎えた。1997年のテレビシリーズから始まり、2012年の『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』でいったん幕を下ろした『踊る』シリーズ。『室井慎次 敗れざる者』『室井慎次 生き続ける者』(2024)を経て、帰ってきた青島と『踊る』は、ぜんぜん変わっていないどころか、パワーアップしていた。最新作には、『踊る』が長年にわたって熟成してきた面白さが、濃密に詰め込まれていたのだ。
笑いと事件のDNA
『踊る』の大きな魅力に、脳のどこかをくすぐるような独特の笑いがある。激しいツッコミや極端なボケによって構成されるのではなく、その場全体を笑いでくるみこみ、言葉だけではなく俳優や小道具や音楽など、すべてを交えた絶妙な空気から生まれる笑いだ。それは爆笑を呼ぶというより、観た者の心に積み重なっていく栄養分。その上に多くの要素が芽生え、育ち、「面白かった!」という鑑賞後の満足感を実らせる。
それは最新作にもたっぷりと含まれていた。青島が疾走する幾多のシチュエーションには、映像のテンポやリズム感による、目まぐるしいほどのスピード感がある。お馴染みのキャラクターたちがそれぞれの役割を全うする姿も壮観だ。そのコミカルさには、かつてのテレビシリーズを思わせる軽やかさがあり、同時に、それをさらに加速させたような矢継ぎ早の展開もある。約30年という時間の中で変化したエンターテイメントの見せ方を取り入れながらも、“『踊る』らしさ”は失われていない。“今”に迎合したのではなく、“今”へとバージョンアップしているのだ。
その特徴は、よく「時代を切り取る」と表現される『踊る』が取り扱う事件にもいえる。ストーカーやプロファイリングなど、現代では一般的になった事象を、『踊る』はすでに29年前のテレビシリーズで描いている。サイトの書き込みから被疑者の動向をつかむ展開など、今ではむしろ当たり前の手法だ。今作では3Dプリンター拳銃なども登場し、劇場型犯罪や、独自すぎる思考回路による犯罪が描かれる。そこには、時代の変化を敏感にすくい取ってきた『踊る』のDNAが、確かに息づいている。
青島のブレない芯
そして、その世界を走る青島もまた、年を経ても変わっていなかった。彼はフラットで柔軟だ。老刑事が足で稼いだ情報も、若者がネットで拾ったうわさ話も、重要だと思えばきちんと対応する。自分が間違っていればすぐに修正する。懐の広さは尋常ではない。しかも好奇心が強く、深く考えない猪突猛進型だから、考えるよりも感じたことで動く。彼のすごいところは、その「感じ方」に芯があることだ。自分が信じること、正しいと思うことを、彼はブレずにやっていく。
青島はもともと、正義感が強かった。警察官になったのは、サラリーマンだった時に上層部の不正のもみ消しを甘んじて受け入れてしまう、組織のもたれあいが嫌だったからだ。その思いは警察でも失われず、立場の違いを超えて共鳴したキャリア官僚の室井慎次(柳葉敏郎)と、「それぞれの立場で正しいことをしよう」と“約束”を交わす。室井にとってそれは、現場の警察官たちの意思を生かした捜査ができる環境を作るという意味でもあった。
『室井慎次』2部作で室井が命を落とし、『踊る』の縦軸ともいえる青島と室井の“約束”が宙に浮いてしまうのかと思いきや、そうはならなかった。青島の胸の中には、しっかりと室井がいる。彼の行動基盤には今もあの“約束”が生きており、しかも、よりよく実現するために新たな形も模索している。
決して「絶対的に強いヒーロー」ではない青島。それでも、自分の立場で「正しいことをしよう」という思いに忠実に、事件に向かっていく。その姿は、室井との約束が、言葉だけではなく青島自身の血肉になっていることを感じさせる。
記憶の中に確かに刻まれた、湾岸署時代の時間
もちろん、青島の中に残っているのは室井との約束だけではない。かつて彼は、和久(和久平八郎/いかりや長介)やすみれ(恩田すみれ/深津絵里)、魚住(魚住二郎/佐戸井けん太)、真下(真下正義/ユースケ・サンタマリア)、雪乃(柏木《現・真下》雪乃/水野美紀)、緒方(緒方薫/甲本雅裕)、スリーアミーゴス(神田総一朗/北村総一朗、袴田健吾/小野武彦、秋山晴海/斉藤暁)らとともに、湾岸署で数多くの事件にあたっていた。それは彼の警察官としての人生の、大きな部分を占めているだろう。だが、彼はそれをことさら懐かしがったりはしない。今は亡き和久が刑事としての彼に大きな影響を与え、その佇まいに和久の面影が重なることもあるように、湾岸署で過ごした時間が、青島の中に確かな足跡を残しているからだ。
だからこそ、今作に湾岸署のかつてのメンバーが揃っていなくても、物足りなさにはつながらない。彼らと過ごした時間も、室井との約束も、青島の中にある。誰がそばにいるとかいないとか、誰が亡くなったとか、それはもう、青島の中では昇華されているのだろう。寂しく感じる瞬間は確かにあるだろうが、それは青島のさまたげにはならない。
一方で、今作の冒頭、捜査第一課にいる青島は、どこか身の置き所がなく、所在なげだ。刑事の花形であるはずの捜一は、アウトロー気質の彼の性にあわなかったのかもしれない。そして、そんな青島の前に現れるのが、趣里演じる芝田ひばり、白洲迅ふんする美浦秋ら、新しい世代の警察官たちだ。彼らのやり方や居方に触れた青島は、彼らを誘う。「一緒に行く? 世界を救いに」と。
青島は、新しい「エンジン」の芽を見つけたのだろう。無意識かもしれない。それでも、彼はまた走り出す。
これぞ究極のエンタメ!『踊る』の魅力ぜんぶ乗せ
冒頭で触れたバージョンアップには、もちろん新たな役者たちの力も加わっている。本広克行監督のもと、これまでの『踊る』をベースに育まれたテイストは、大幅にパワーアップしていた。
欠けたのではない。減ったのでもない。ぜんぶある。『踊る』の持つ面白さはなくなっていない。しかも、広く人気を博してきた『踊る』らしい味わいに、時間によって磨かれた技が加わり、円熟味も増している。そこから生まれるのは、よりコミカルで、とんでもなくスピーディーで、ものすごく楽しく、そして、とても心が熱くなる、究極のエンターテインメントだった。
青島は走る。過去を知っている人には懐かしく、知らない人でも巻き込まれていく、確かな未来へ。(文:早川あゆみ)
映画『踊る大捜査線 N.E.W. メトロポリスを駆け抜けろ!』は全国公開中



