山崎努の“要蔵像”に尻込みも…滝藤賢一、清水崇版『八つ墓村』田治見要蔵を引き受けた覚悟

ホラーの巨匠・清水崇監督が完全新作として手掛けた映画『八つ墓村』で、狂気に満ちた重要人物・田治見要蔵という難役と田治見久弥の二役に挑んだ滝藤賢一。当初は、かつて同役を演じた先人の残像に尻込みもしたという滝藤が、伝説的なキャラクターを引き受けた覚悟や、現代の若者に向けて新たな作品を創り上げる意義、そして清水組の現場で確かな手応えを感じた瞬間について熱く語った。(以下、映画の内容に一部触れています)
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山崎努の「唯一無二」の残像に尻込み
原作は推理作家・横溝正史によるミステリーの金字塔。その小説を野村芳太郎監督が映画化し、1977年に公開された映画『八つ墓村』では、山崎努が(多治見)要蔵を怪演。頭に2本の懐中電灯をくくりつけ、日本刀と猟銃を手に桜吹雪の中を無表情で疾走するその異様なビジュアルは、観る者に強烈なトラウマと圧倒的な恐怖を植え付け、多くの人々の脳裏に焼き付いている。
日本映画界において、神格化されていると言っても過言ではない田治見要蔵というキャラクター。誰もが知る名優の圧倒的なパフォーマンスは、新たに役を担う者にとって巨大なプレッシャーとして重くのしかかったという。滝藤は「最初にお話をいただいた時は、正直なところ、やらない方がいいのではないかと思いました」とオファーを受けた当時の率直な心境を振り返る。
「触れてはいけない部分というか、やはり山崎さんの演じられた要蔵が素晴らしすぎて、あれ以上のものはないと思っています。私も過去に何度も観ていますが、恐ろしさはもちろんのこと、圧倒的にかっこいいんです。人を殺してかっこいいという表現はおかしいかもしれませんが、あのビジュアルや走り、そして表情は誰にも真似できない唯一無二のものですから。自分が演じるとなると、やはり山崎さんの印象が強すぎるだけに、尻込みしてしまった部分はありましたね(笑)」
松竹と清水監督の「覚悟」に共鳴
そんな巨大な重圧を抱えながらも出演を決断した背景には、作り手たちの熱い思いへの共鳴があった。滝藤は、時代を超えて名作を再構築するプロジェクトに加わることの意義を、独自の視点で見出していく。
「今の若い世代では、物語はもちろん、山崎さんの要蔵の凄まじさをどれくらいの方が知っているだろうかと考えたんです。彼らにとっての『八つ墓村』は、我々が清水組で作る今回の作品になるのではないかと。また、台本を読ませていただくと、原作から離れたオリジナリティあふれる部分もあり、清水監督や松竹さんの、現代の八つ墓村を作るという強い覚悟に触れ、その挑戦にぜひ参加したいと思ったのが大きなモチベーションになりました」
役づくりにおいては、要蔵が起こす事件のモデルとなったとされる「津山事件」の都井睦雄に関する資料も読み込んだという。一方で、現代版だからといって無理に要蔵像を変えようとはしなかった。むしろ滝藤が現代的なオリジナリティを感じたのは、要蔵の息子である久弥の描かれ方だった。
滝藤は「現代に合わせて要蔵を変えようとは思いませんでした。今の時代に私たちが演じれば、おのずと新しくなるはずですから。逆に久弥の方が、原作よりも人間味が強調されています。本作では親父と同じ道を歩みたくない、呪われたくないという彼の思いがしっかりと描かれており、これまでとは違うアプローチに面白さを感じました」と今作のポイントを挙げると「要蔵に関しては、監督からも細かい演出はなく、奇をてらわずに演じるという共通認識がありました。おかしく見せたり、怖く作ったりするのではなく、呪いや何かに取り憑かれたかのように引っ張られていく。あえて心情を説明しないことで、観客の皆様にさまざまな想像を膨らませていただけたのなら本望です」と語った。
一瞬のモニターチェックで払拭された不安
それでも、撮影序盤はプレッシャーを抱えていたという滝藤だが、ある瞬間にその迷いは完全に払拭される。スタッフの卓越した技術が、役者としてのスイッチを力強く押したのだ。
「普段、自分の芝居のモニターチェックをあまりしないのですが、クランクインしてすぐに撮影した鍾乳洞の屍蝋(しろう)状態のシーンで、一瞬だけ振り返るカットをたまたま見たんです。その時、『これはすごい映像だな』と直感しました。自分がやっている芝居以上に画面に映えていて、この清水組のスタッフを信じてやれば大丈夫だと、自分の中で何かがガラッと変わりました。それまでは『山崎さんの強い印象がある中で、本当に俺でいけるのか』と半信半疑でしたが、その瞬間に皆さんに助けられていると実感できたんです」。
不安が確信に変わった背景には、演出部や技術スタッフの並々ならぬこだわりがあった。また、清水監督のブレない姿勢が、過酷な現場を力強く牽引していたという。
「鍾乳洞の不気味な姿も、特殊メイクではなくホラー担当の演出部の方が丹精込めて作り上げてくれたものです。照明も絶妙で、実は担当していたのが私の高校の後輩だったのですが、本当に優秀だなと感心しました。清水監督は映画の世界で生きてこられた方だけあって、惹き込まれる画を作られます。細かいカット割りがあっても、求めている画がバシッと撮れたら他はいらないという潔さがある。夜中の撮影が多くて疲労が何倍にもなる環境下でも、決断が早いので予定より早く終わることが多く、心から信頼して身を委ねることができました」
名優の凄まじい演技に畏怖の念を抱きながらも、新時代の『八つ墓村』を創り上げようとするチームの熱意を受けて、現場に飛び込んだ滝藤。熟考された役へのアプローチと、プロフェッショナルなスタッフ陣との共鳴によって、かつての大きな存在を振り払い、滝藤自身の新たな田治見要蔵を誕生させた。(取材・文:磯部正和)



