塚本晋也監督、戦争の恐ろしさ「体で実感してもらいたい」『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』で伝える若者への思い

塚本晋也監督が20日、kino cinema 新宿で行われた映画『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』凱旋舞台あいさつイベントに、映画ライターのISO氏と共に出席。塚本監督は、作品に込めた「反戦」への思いを語った。
本作は、ベトナム戦争に従軍したアレン・ネルソン氏によるノンフィクションや同氏の証言を基に『野火』『ほかげ』などの塚本晋也監督が、戦争の現実と戦争加害者の葛藤を描いた反戦ドラマ。18歳で入隊したアフリカ系アメリカ人のアレン・ネルソン(ロドニー・ヒックス)が帰還後も戦地での記憶に苦しむ日々を映し出す。
先日開催された第83回ベネチア国際映画祭コンペティション部門に正式出品され、ワールドプレミア上映では約8分間にわたるスタンディングオベーションを巻き起こしたほか、公式独立賞である「レオンチーノ・ドーロ賞(金の小獅子賞)」を日本作品として初めて受賞した。
塚本監督は、高校生たちに選ばれる「金の小獅子賞」について「本当にいろんな州から集まった20人の若い人が、何か月もかけて監督さんたちをお招きしたセミナーを兼ねて、みんなで討論をしてコンペティションの全作品の中から若い人の一等賞みたいなのを選んでいただいたんです」と笑みを浮かべる。
続けて「会場に行って、若い人たちを見た瞬間に、非常に大きな喜びがあふれました。若い人にどうしても観ていただきたいというのが、この映画を作る一番の目的。若い人に戦場に行ってもらいたくないということで、頭で考えるのではなく、体で戦争の恐ろしさを実感してもらいたいというつもりで作ったんです」と思いを述べる。
また、本作は現在開催中の第51回トロント国際映画祭スペシャル・プレゼンテーション部門へも出品され、アレンさんの妻・リンダさん、息子ショーンさん、さらにはアレンさんの妹さんに対面した。
塚本監督は「その3人に観ていただくというのは結構、自分の中でドキドキでした」とつぶやくと「映画を観終わった後にリンダさんを見たら、声を上げて『わーっ』と泣いていらして、よかったなと思いました。ショーンさんもすごく喜んでくださって、かなり情熱的に喋ってくださったんです」と回顧。
映像化する際、塚本監督は「なるべく原作に書いてあることをそのまま映画にしよう」と心掛けたというが、「(ベトナムで)村の人を殺してしまって、相手をおびき寄せるというこの映画で一番恐ろしいシーン。あの場面は、制作過程で『やめてくれ』と言われるかなと思っていたんです。でも、戦争の悲惨さを描く上では欠かせないという思いを、とても理解してくださって表現することができました。もう一つ、原作にはない(アレンをサポートする)リリー(・フランキー)さん演じる黒井の役も入れたいと思った部分でした。PTSDの世代間連鎖というものを描く必要があると思った」とこだわった一面も明かしていた。
最後に塚本監督は「今、世界中がきな臭いと言われていて、そして日本もそのきな臭さに呑み込まれるように心配が高まっています」と語ると「その心配を逆手に取って『日本がより武装をもっと固めて強くならなきゃいけないんじゃないか』という動きがあります。今年の暮れから来年あたりには憲法を改変するために、おそらくものすごい予算を広告費として使い『戦争ができる国になった方がいいのでは?』というふうに世論が動いていくのではないかと考えられます」と自身の意見を述べ「でも戦争に行くということは、若い人がこの映画のようなことを体験してしまうんだから……ということをまず前提に考えてから、その先の議論をしていただけたら」と作品に込めた思いを述べていた。(塚本晋也の「塚」は「豕」に点ありの旧字体が正式表記)(磯部正和)



