「スマホを使う金田一は違う」清水崇監督、現代版『八つ墓村』を描いた理由

尾上松也が演じる金田一耕助
尾上松也が演じる金田一耕助 - (C) 2026「八つ墓村」製作委員会 (C) Yokomizo Seishi / KADOKAWA

 横溝正史の名作ミステリーの映像化に再び挑んだ映画『八つ墓村』(公開中)。歴史の因果と連続殺人が交錯する極上のサスペンスはそのまま、現代に向けた再構築に挑んだのは、『呪怨』シリーズをはじめ数々のヒット作を手掛けてきた清水崇監督だ。Jホラーの巨匠は、なぜ不朽の名作に挑んだのか。令和の観客に向けたメッセージとともに語った。

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 「八つ墓村」は、不詳の言い伝えに由来を持つ、岡山県の山奥の村で起こる不可解な連続殺人事件と血塗られた村の因縁が交差するミステリー。名探偵・金田一耕助シリーズの一編としても知られ、これまで、松田定次(1951年)、野村芳太郎(1977年)、市川崑(1996年)ら名監督たちの手で映画化されてきた。

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 特に本作と同じく松竹が配給した1977年版は、設定を時代に合わせながら、閉鎖的な村で起こる因縁めいた事件を怪奇テイストたっぷりに描き出し、色褪せぬ名作として知られている。清水監督にとって、7月に公開されたホラー『口に関するアンケート』『だぁれかさんとアソぼ?』に続いて3作連続の松竹配給作品となるが、撮影は『八つ墓村』が最初だった。

 「『だぁれかさんとアソぼ?』の準備をしている時に、松竹の企画部長から『先にこれを撮ってもらえないか?』と提案をいただいて。最初は『えーっ!』と驚きました。柳田(裕介)プロデューサー発案の企画で、監督や方向性は定まらぬまま脚本の尾ヶ井慎太郎さんが長年にわたって書いていたらしいんです。ただ、僕にとっても野村監督版の印象は強烈なものでしたし、あの映画自体も原作から大きくアレンジされている。その中で『今、自分がやる意味があるのだろうか』『何が新しくできるのか』と悩み、すぐには即答できませんでした」

 そんな葛藤の中で、清水監督が令和に『八つ墓村』を描く決意を固めた最大の鍵は、原作が描く「集団心理の恐ろしさ」にあった。映画では、母親の死をきっかけに、自身のルーツである八つ墓村を訪れた大学生・井川辰弥(奥智哉)が、金田一(尾上松也)と共に不可解な連続殺人事件に巻き込まれていく。そして、原作と同じように、村人たちの誤った認識から辰弥への疑惑が深まり、二人に未曾有の危機が訪れる。

フリフリさん”誕生の理由(C) 2026「八つ墓村」製作委員会 (C) Yokomizo Seishi / KADOKAWA

 「これってまさに、現代のSNSで野放しにされている人間の怖さそのものですよね。無責任な匿名性や、人間の卑屈さがむき出しになる感じは、昭和よりも今の方がより露骨に出ているんじゃないか。このテーマを軸にするなら、令和に自分が作る意味があると思ったんです」

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 現代を舞台にする以上、戦後の混乱期を描いた原作通りに映像化するわけにはいかない部分も多い。清水監督は、現代の観客、とりわけ『八つ墓村』に初めて触れる若い世代が感情移入できる工夫を凝らしていた。「辰弥も、内定がとれない大学生という設定になっていますからね。その方が、初めて『八つ墓村』に触れる若い人たちが彼の視線から物語に入っていきやすい」

 「あと、劇中に“フリフリさん”という、原作の“濃茶の尼”にあたる登場人物がいるんですが、あれは、実際にあった現代の事件を基に作ったキャラクターです。過去の映像化作品には“濃茶の尼”の名前の由来や背景はほぼ描かれていなくて。濃茶の祠という場所に居座っている尼のおばあさんだから“濃茶の尼”ということなんですけど、当時はともかく、若い人はそう説明されてもわかりにくいと思った結果、呼び名も憶えやすく改変したキャラクターです」

辰弥(奥智哉)の設定も現代になっている(C) 2026「八つ墓村」製作委員会 (C) Yokomizo Seishi / KADOKAWA

 一方で、名探偵・金田一耕助のキャラクターについては、イメージを保つためにバランスにこだわった。「やっぱり現代だからといって、金田一がネット検索で事件を調べたりするのはキャラクター像とあわないんですよ(笑)。また現代だったら、八つ墓村で20数年前に惨劇が起きたことも、ネットですぐに調べられますよね。だから今回は、犠牲者の数もあえて特定せずに数字をボカしたり、金田一がスマホを取り出したりする要素もなくしました。探偵としての人間的な洞察力を活かせる世界観を守っています」

 作品の芯はそのままに、不朽の名作を大胆に再構築した令和版『八つ墓村』。清水監督は、本作を待つファンにこう呼びかける。「今まで『八つ墓村』や横溝正史作品に触れたことがない若い世代の皆さんにとって、この映画が原作や過去作品への入り口になったらありがたいです。まずはこの作品から観てもらって、過去の素晴らしい作品に触れてください。そのために令和に向けて作った『八つ墓村』なので」(編集部・入倉功一)

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