茨城県に生まれたばかりのミニシアター

ラジカル鈴木の味わい映画館探訪記

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あまや座

 北関東の探訪は続き茨城県へ。車窓の風景は秋、田んぼや畑の平野が広がっている。水戸芸術館現代美術センターへ数度来たが、水戸黄門様、納豆、深作欣二監督の出身地以外は知識なし。JR水戸駅から、さらに単線、一時間に1本のJR水郡線で北上。電子カードは使えなので切符を買い、瓜連(うりづら)という無人駅で下車。都心と建物の密度がまるで違う。散策するつもりが、店がまるで無い、コンビニも無い、こりゃまいった!

あまや座
水郡線路線図。瓜連は水戸から25分ほど

 本当にこの先に映画館があるの? 不安をつのらせ歩くこと6分……あった、ここだ~! 「スーパーあまや」の下に「座」の文字が足された看板。広い駐車場。様々な跡地の劇場に行ったが、ここは元スーパーマーケット、厳密には敷地内。

 駅名は残っているが「瓜連町」が2005年に那珂(なか)町と合併して那珂市となり無くなったので、館名で残そうという意図がある。水戸にあった1館が閉館して以来全滅だった、県内唯一のミニシアター。

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今月の名画座「あまや座」

 コンパクトな建物。受付にはパンフレット、映画監督でもある支配人が地元を舞台に撮った作品のDVD。飲み物、お菓子が少々。壁には、ここしばらく訪れた劇場と同様に支援者のたくさんの名が書かれた木札。座席数は31席。シートは昨年閉館したニュー八王子シネマのもの。2017年10月に開業したばかりで、間もなく10月14日に1周年を迎える。昨年末には高倉健特集をやった。周辺は健さん映画の最果ての地(ち)を、地(じ)でいく風景が広がり、あまりにも合い過ぎるロケーション。

あまや座
スーパーあまやの看板に"座”を付けた

 8月には広い駐車スペースで「瓜連ビアガーデン」を開催、世界的に評価の高い那珂市・木内酒造の常陸野ネストビールの生が飲めたり、地元の屋台、ラーメン屋、そしてスーパーあまやも出店し、大いに賑わった。「この辺りは、お酒を飲める店もあまり無いので、地元の人に楽しんでいただきました」と支配人。

 1周年記念のイベントが目白押し。9月22日にはミニシアターの重鎮、アップリンク代表・浅井隆さんと、シネマテークたかさき(先々月取材)の総支配人・志尾睦子さんのトーク、『顔たち、ところどころ』(2017)上映会を実施。

 商品棚やレジがそのまま残っているスーパーだった建物内には「AMAYA SPACE」通称アマスぺというスペースがあり、ライブや練習などに使用。昨年のオープン10月15日には地元の人気バンドが一同に会すSpecialライブ「アマ☆ソニック」を開催した。

あまや座
スーパーだった建物はライブスペースに

 10月13日からは、こけら落とし作品『八重子のハミング』(2016)の佐々部清監督の特集が。10月13日には監督と、『ゾウを撫でる』(2013)に出演の茨城出身の女優・羽田美智子さんが来館しトークする。監督の特集は1年に1回開催したいという。ちなみに、来場したゲストへのお土産には、木内酒造のお酒を差し上げている。

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街興し「カミスガプロジェクト」でも活躍中の支配人

あまや座
コンパクトなロビーにて、取材中

 「オープン前は計画が二転三転してしんどかったけど、今は徐々にお客さんも増え、1~2か月に1回ちゃんと集客出来る企画があります。茨城で上映されていない作品、上映が少ない作品を選んで、『万引き家族』(2018)のようなメジャーなものと、あまり知られていない良質のものを同時にやります。スタッフはわたしを含め2人、まだ経営は成り立っているとは言えず、わたしの給料は出ていませんが、長く続けていきたいので、何人か雇って回るようにしたいです」

 大内さんは1980年、埼玉県深谷市生まれ。都内の映像制作会社勤務ののち、婿入りし茨城県民に。3児のパパでもある。2011年発足の新興団体カミスガプロジェクトで、映像の発信を担当。茨城も東日本の震災で被害があった。水郡線で瓜連より2つ水戸寄りの上菅谷(かみすがや)という、行き先が2方向に別れる支点の駅で、さまざまな職種や年代の人が集まり、10年後に新しく商店街つくって盛り上げようと2か月に1回歩行者天国を実施し、毎回2万人くらい訪れ、そこから新しく店鋪が出来た。

 CMを作りYouTubeに上げたりしていたが、茨城発信の映画産業をとKFC カミスガフィルムクリエイトを結成し、映画5作品を製作し劇場公開した。「5本のうち最初の3本は、水郡線三部作と呼んでいます。上菅谷を中心とした3方向、常陸太田、大子、水戸を舞台にしたフィクションで、時系列を入れ替えたり、やりたいことをやり、満足のいく出来ですが、凝り過ぎたのか良く分らないという意見もありました(笑)。個人的にはヴィム・ヴェンダースの『パリ、テキサス』(1984)とか、小津安二郎の『東京物語』(1953)、ああいうトーンの作風が好きですね」

あまや座
支配人大内靖さん監督の作品のDVDも販売。左の"かんとりーどーろ"は瓜連が舞台

 映画館設立の経緯を訊く。「知り合ったスーパーあまやの社長さんから、閉店した店舗を使って役に立てないか、と持ちかけられ、かねてから映画館をやりたかったのと、映画好きだった社長さんと意気投合しました」。改装資金はクラウドファンディングで集まったが、建物が消防法などの制約でリフォームは不可と判明。考えた末、思い切って新たに建てることに。時間のロスはあったものの地元建築会社や設備会社の協力で着工から半年で完成。「色々な方々に助けていただきました」と大内さん。

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市民映画館の先駆、深谷シネマに学ぶ

 以前取材した深谷シネマの館長・竹石研二さんには、深谷市出身ということもあり、気にかけてもらっているという。「4年前に僕の映画を上映していただき、竹石さんは市民シアターの第一人者なので、町に対する想いや、具体的な銀行に提出する書類の作成、運営まで、本当に何でも教えていただきました。ご紹介も沢山、移動上映の第一人者の鈴木映画さんもそのお一人なのですが、鈴木さんには、映画会社や、シートを譲り受けた八王子の映画館、音響設備の方も教えていただきました。深谷シネマも最初は大変でしたが、見習って頑張ります」

 小さい子供を連れても安心な、足元が見える薄明かりで通常より小さめの音量で上映する、親子上映を時々実施。「子供の為の施設ではないけど、子供にも来てほしいです。近所のお店に子供無料券を置いたりもしました。いずれ観に来てくれるように育てるのも、町の映画館の役割かなと思います。若い人には、メジャーマイナーに関わらず、いろんなものに触れて、好きなものを導き出して欲しいですね。それぞれの心に残ったものこそ、名画です」

自慢の音響システム

あまや座
『顔たち、ところどころ』 ドキュメンタリー 監督;アニエス・ヴァルダ JR 2017年

 『バーフバリ』2部作のマサラ上映(歌い踊って観るイベント)は大いに盛り上がった。「茨城で初めての上映で、通常もお客が入り、今のところウチで動員数一番の作品です。その流れで10月5日まで『マガディーラ 勇者転生』(2009)をやってます。マサラ上映も盛り上がりました」

 スクリーンの手前にあまり見たことのない大きなJBLのスピーカーがズラリ並んでいる。200シリーズC211という、日本初導入の機種なのだそうだ。「ウチの音響は自慢の、かなり高性能なもので、喜んでいただいているものの一つです。先日のマサラ上映にいらした方は、お客さんが騒いで音響のクオリティがよく分からなかったので、後日もう一度音を聴きに来ました」

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不便さを楽しんでほしい

あまや座
4両、または2両のカラフルな電車

 「茨城は住みやすいし、恵まれた場所ですが、ゆえに飛び抜けたものがない。東京も近いから、映画館も出来づらいのかな。水戸にはかつて10館くらいあったらしいんですが、いまはシネコン2つのみです。劇場で映画を観る習慣が減っているのに、作品は同じものしかかからない。茨城はそれが露骨でちょっと淋しい状況です。でも、先日お話いただいたアップリンクの浅井さんは、今の時代をマイナスとは捉えていないんです、情報をネットで発信できるし、ミニシアターにメリットは沢山ある、と。大変励みになりました」

あまや座
瓜連駅。登り下り共にほぼ一時間に一本

 この場所でやる意味は?「寂しい場所ですよね。お食事の心配や、電車の時間のインフォメーションをしなければならなかったり(笑)。でも、地元の連係は強くて、皆さんの情は深く、僕のような地元出身でない人間に力を貸し、応援してくれます。集って休める場所がないので、ここがそうなると良いです。まず10年は頑張って『瓜連に映画館あり』と根付かせたいです」。ちなみに、茨城県はロケ誘致数は全国ナンバーワンなんだそうで、知らなかった!

 取材後タイミング良く上りの水郡線が来た。運転免許のない学生さんで賑わう車内。この中から次世代の映像作家、映画ファンが沢山生まれるよう、あまや座さんに頑張って欲しい、と心から思いました。

映画館情報

瓜連あまや座
〒319-2102 茨城県那珂市瓜連1243
TEL:029-212-7531
席数31、最大定員42人
Twitter:@AmayaZa_Urizura
Facebook:@AmayazaUrizura
HP

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ラジカル鈴木 プロフィール

イラストレーター。映画好きが高じて、絵つきのコラム執筆を複数媒体で続けている。

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