主演俳優をなぜオーディションで?映画『轢き逃げ』

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轢き逃げ

 水谷豊が映画監督としての一歩を踏み出した『TAP -THE LAST SHOW-』から約2年。新たに脚本執筆にも挑戦(しかもオリジナル!)した監督2作目『轢き逃げ 最高の最悪な日』が5月10日に公開される。ある轢き逃げ事件をきっかけに、運命に翻弄(ほんろう)される人々が紡ぐ奥深い人間ドラマ。「人間に興味を持ち続けてきた」という水谷監督が、この映画に込めた思いとは?

映画監督・水谷豊のモノづくりへのこだわりとは

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 「他人には見せることのない、人間の奥底にあるものを描いてみたい」

 水谷監督が初めて脚本の執筆を決意したのは、そんな理由からだった。若い頃から人間にずっと興味を持ち続けている。

 「時に人は常識では考えられない行動を取る事があります。このような時に人間はどうするのか、興味は尽きません」

 日常の中で、人生を根底から覆す事件に遭遇したごく普通の人間は、その瞬間にどう行動するのか? それを表現するために執筆に挑戦しこの作品を作り上げた。

 物語はタイトル通り、“轢き逃げ”から始まる。輝く未来を約束するはずの結婚を間近に控えたエリート会社員の秀一が思いもかけない事件を起こし、助手席にいた親友の輝も共犯者に。平穏な日常から、否応なしに事件に巻き込まれてしまった人々の人生が複雑に絡まり合うさまを描いている。

 脚本の執筆を終えた水谷は描きたい事柄が映像として浮かび、監督としてのアイデアが自然と湧き出し膨らんでいった。「僕の場合は脚本執筆と監督が地続きになっている」と実感したという。

 主演の二人をオーディションで選んだのも、「ドキュメンタリーのようなリアルな映像が必要」と考えたから。全国公開されるオリジナル脚本による映画の主役、しかもフレッシュさが大きな意味を持つ十代ではなく、オーディション当時、30代を目前にした役者を選ぶのは珍しいこと。それはキャストの知名度ではなく、映画の中身で勝負したい! という水谷監督のモノづくりへの強いこだわりの証に他ならない。

 こうして有名無名を問わず、さまざまな可能性を考慮した結果、秀一役に中山麻聖、輝役に石田法嗣という配役が実現した。

俳優一人ひとりと対峙した緻密で繊細な演出

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 水谷監督の描く世界観に染まれる、余計な色のついていない俳優を——中山麻聖と石田法嗣は、そんな意図にぴたりとハマる二人だった。

 エリート会社員の秀一を演じる中山は、2004年に映画『機関車先生』で俳優デビュー。ミュージカル「テニスの王子様」等の舞台や数多くのテレビドラマで経験を積んできた。それだけに映画の中心にいて華やかさをもたらす存在感がありながら、物語を的確に表現する術を知るようにも見える。 

 秀一の親友で気のいい輝を演じる石田も、映画『カナリア』やスペシャルドラマ「火垂るの墓」等で着実にキャリアを重ねてきた俳優だ。子役時代からどこか陰のある、大人びた演技で注目された存在だからこそ、振り幅のある役をナチュラルに体現できたといえる。

 そんな二人を、水谷監督は独特の演出方法で導いた。全体の本読みとは別に監督と本読みをする場が設けられた中山は当時を振り返る。

 「まず監督と話ができて、自ら一度演じてくださる。それは監督の思いを知るだけでなく、正解をもらえるということでもありました」

 それは俳優として長らく第一線に身を置いてきた水谷ならではの演出を最も身近に体感したからではないだろうか。瞬きの回数にもこだわる繊細な演出では、整理しながらその都度感情をコントロールして本番に向かう。瞬発力が問われた撮影現場は、中山にとって刺激的だったに違いない。

 一方の石田も、「初めて監督と本読みをしたとき、自分が作っていった輝が監督の求めているものとずいぶん違っていた」と明かす。「2度3度と本読みを重ねてようやく輝にたどり着いたのですが、何度か立ち直れないほど心が折れたことも」と俳優としての試練を味わったことを隠さない。そのたびに中山と励まし合い(翌日にはまた二人とも撃沈することもあったそうだが)、この複雑な奥行きを持つ人間ドラマを紡いでいったのだ。

若手と演技派俳優の間に起こる化学反応!

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 主演の二人だけでなく、この映画の配役は独特のこだわりが感じられる。可憐なお嬢様である秀一の婚約者の早苗に小林涼子、事件を追う若手刑事の前田に毎熊克哉と、知名度やキャリアなどを優先させず水谷の作り上げたキャラクターに合う俳優を配している。

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 小林は映画『大人ドロップ』『ピンクとグレー』で新鮮な演技を見せた注目株で、毎熊は映画『止められるか、俺たちを』やドラマ「まんぷく」等、勢いを感じさせる個性派。小林演じる早苗が観客の心を捉えるに充分なほどチャーミングだからこそ、至福の日々から厳しい現実と向き合わざるを得なくなる展開に引き込まれるし、毎熊演じる前田とその上司(“相棒”?)であるベテラン刑事の柳を演じる岸部一徳とのやりとりがクスッと笑えるからこそ、この物語の行く末に目が離せなくなる。

 小林もまた、「感情の流れに加え、どう気持ちを盛り上げればその演技が出来るか? そう見えるか? 役者の先輩だからこそ教えて下さっていると感動しました」と水谷監督による演出を吸収していった。毎熊は前田役への監督の愛情を強く感じたそうで「思っていたよりダイナミックな演出もあり、ここまでやっていいのか! と猪突猛進で演じさせていただきました」と、臨機応変な演出があればこその演技と明かす。

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 そんな彼らに加え、水谷監督の前作に続いての出演となる岸部をはじめ、被害者の母に檀ふみ、父には俳優として水谷豊と実力派の役者も参加している。檀は「4人の若い役者さんには的確な演出をなさるんです。そのひとつひとつが面白く、場面にパッと色がつき、その人物が物語の中で浮かび上がるさまは見事でした。私にももうちょっと言ってくださったら……と今でも思っています」と水谷監督の演出の妙を目の当たりにしたからこその嘆きではないだろうか。

 岸部も「監督は若い頃に映画からたくさんエネルギーをもらったせいか、それをたくさん現場に込めて、みんなで作品を仕上げようとする。だから皆が楽しいし、やってやろう! と思える現場になるのだと思います」と監督としての吸引力に全幅の信頼を寄せる。

 型にハマらない配役、俳優の個性と向き合った演出、そして現場を牽引する映画への圧倒的愛情、そのすべてが化学反応を起こしている——『轢き逃げ 最高の最悪な日』は水谷豊監督の思いが隅々まで充満した映画で、単なる人間ドラマとは一線を画す奥深い作品に仕上がっている。(文:先山しょうこ)

映画『轢き逃げ 最高の最悪な日』は5月10日公開
映画『轢き逃げ 最高の最悪な日』オフィシャルサイト
(C) 2019映画「轢き逃げ」製作委員会

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