映画作りに夢を賭ける若者を描く「ハリウッド」 知っておきたい実際のエピソード

ハリウッド
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 Netflixで今年5月から配信がスタートしたばかりのドラマ「ハリウッド」。黄金期といわれた1940年代のハリウッドを舞台に、映画作りに夢を賭ける若者たちの奮闘を描く。映画愛に満ちたストーリーは、まさに映画好きなら必見の作品と言えるだろう。全7話のミニシリーズのため、サクサク進むスピード感も心地よい。

 とはいえ、製作総指揮を務めたのは人気テレビシリーズ「Glee」のライアン・マーフィーなので、キラキラした夢物語をイメージすると1話目から腰を抜かすことになる。「ハリウッド」は同性愛者や有色人種や女性など、映画の都で虐げられていたマイノリティーたちが反旗を翻し、自分たちの「映画の夢」を掴もうとするサクセスストーリーなのだ。

 「ハリウッド」は事実とフィクションがないまぜになっており、随所に実在の俳優や監督たちのエピソードが登場するので、当時のハリウッドについて知っていればいるほど面白いし、作者たちの問いかけが深く心に響く。ここではさまざまな実際のエピソードとともに作品の見どころを紹介していきたい。

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ガソリンスタンドで組織的売春?

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 シリーズ前半の主人公は、退役軍人で俳優を夢見てハリウッドにやってきたジャック(「ザ・ポリティシャン」のデヴィッド・コレンスウェット)。イケメンだが俳優になる糸口を掴めないジャックを、アーニー(「ザ・プラクティス/ボストン弁護士ファイル」などのディラン・マクダーモット)という初老の紳士がスカウトする。

 アーニーが経営するガソリンスタンドではハリウッドで夢をつかもうとする若者たちが働いていた。しかし、彼らが売っていたのはガソリンだけではなかった。ハリウッドの上客たちに性的なサービスも一緒に売っていたのだ!

 そもそもこのドラマのアイデアは、ハリウッドの売春斡旋人として知られたスコッティ・バウアーズの自伝がもとになっている。アーニーのモデルはこの人物だ。彼はハリウッドにやってきた多くの若い男性を雇い、女性だけでなく男性の有力者にも派遣していた。まだ同性愛が完全にタブーの時代のことである。派遣される側は、お金を得ると同時にコネも掴む。いわば組織的な売春であり、「枕営業」でもあった。

 客として一瞬だけ登場するのがコール・ポーター。「エニシング・ゴーズ」など数多くのミュージカルや映画音楽などで知られるアメリカを代表する作曲家だが、同性愛者としても知られており、彼の伝記映画『五線譜のラブレター』(2004)でも彼の同性愛と妻との関係が描かれていた。

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1940年代ハリウッドの同性愛者たち

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 ジャックは給油所の仕事を通してハリウッドで夢を抱く若者たちと知り合っていく。脚本家のアーチー(ジェレミー・ポープ)もその一人。人種差別が堂々と幅をきかせていた時代、黒人で同性愛者のアーチーは苦しい立場を強いられていた。そんなアーチーと惹かれ合うのがロイ・フィッツジェラルドという若者(ジェイク・ピッキング)。俳優を志す彼は、大物マネージャーのヘンリー・ウィルソン(「ビッグバン★セオリー ギークなボクらの恋愛法則」のジム・パーソンズ)からロック・ハドソンという名を与えられる。

 ロック・ハドソンはジェームズ・ディーンと共演した『ジャイアンツ』(1956)でアカデミー賞にノミネートされた実在の俳優。長身かつハンサムなルックスを生かし、アメリカの典型的なタフガイ、あるいはロマンティックアイドルとして一世を風靡した。1985年にAIDSであることを公表し、その後、同性愛者であることを告白して世界中を驚かせた。世界で初めてAIDS患者であることを公にした著名人としても知られている。

 ドラマの中でロック・ハドソンに激しいセクシュアルハラスメントとパワーハラスメントを行い続ける傲慢なマネージャー、ヘンリー・ウィルソンも実在の人物。「ハリウッド」では権力を持つ男性が若い男性を性的に搾取する様子が繰り返し描かれるが、まさしくハリウッドの闇の部分である(当然ながら女性も数多くの被害に遭っている)。

 ジャックたちが派遣されたジョージ・キューカーダニエル・ロンドン)の邸宅での食事会にはヴィヴィアン・リー(ドラマ「スノーピアサー」のケイティ・マクギネス)らがいたが、女性たちが帰宅した後は大規模な同性愛者のためのパーティーが開かれていた。

 ジョージ・キューカーは『スタア誕生』(1954)、『マイ・フェア・レディ』(1964)などで知られる女性映画の巨匠。『風と共に去りぬ』(1939)にも携わっており、ヴィヴィアン・リーをはじめとする女優陣を指導したのは彼だった。同性愛者であることは公然の秘密であり、大規模なパーティーを開いていたのも事実である。

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不遇だった2人の女優

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 アーチーの脚本を見出すのが、才能にあふれた若手映画監督のレイモンド(「Glee」のダレン・クリス)。フィリピン人の母を持つアジア系の彼は、不遇をかこっている中国系アメリカ人女優、アンナ・メイ・ウォンミシェル・クルージック)の復権を願っていた。

 アンナ・メイ・ウォンは実在の女優で、10代の頃からミステリアスな東洋人女性を次々と演じて注目されたが、東洋人への偏見から彼女が演じるのはいずれも脇役の悪女役ばかりだった。パール・バック原作の大作『大地』(1937)では主人公の中国人女性を演じる寸前だったが、結局はオーストリア人のルイーゼ・ライナーが東洋人風のメイクで演じてアカデミー賞主演女優賞を獲得。アンナは失意のうちに56歳で死去した。ドラマの中で、彼女がどのように“復権”を果たしたか注目してほしい。

 レイモンドは黒人の新人女優、カミール(『スパイダーマン:ホームカミング』のローラ・ハリアー)と付き合っていた。彼女は才能あふれる女優だったが、映画では道化のようなメイドしか演じる役がなかった。その後、大役を射止めたカミールをベテラン黒人女優のハティ・マクダニエルクイーン・ラティファ)が激励する。

 ハティ・マクダニエルは『風と共に去りぬ』のメイド役で黒人として初めてオスカーを受賞した実在の女優。アカデミー賞の式典が行われたアンバサダー・ホテルは普段は黒人の出入りは厳禁で、ノミネートされていたハティはこの日だけ特別に入場を許されたが、ヴィヴィアン・リーらと同じテーブルにつくことは許されず、壁際のテーブルで式典を見守った。なお、ドラマの中で批判されるディズニーが制作した映画『南部の唄』(1946)にも彼女は出演している。雇い主の白人たちのために喜んで働く黒人たちの姿が描かれたこの映画は、1986年以降一度も再上映されていない。東京ディズニーランドのスプラッシュ・マウンテンはこの映画が元ネタである。

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ハリウッドの挫折の象徴・ペグ

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 アーチーが脚本を書き、レイモンドが監督しようとする映画のタイトルが『ペグ』。有名なランドマーク、ハリウッドサインから飛び降りて自殺した24歳の実在のイギリス人女優、ペグ・エントウィスルの人生をモチーフにした物語だ。

 ペグ・エントウィスルはブロードウェイで女優としてキャリアを積み、1932年にハリウッドにやってきて映画出演を果たすが、出演シーンはカットされてしまった。彼女はその年の9月にハリウッドサインの「H」の文字から飛び降りて自殺する。その後、ペグの存在は、有名になることを夢見てハリウッドにやってきた若者の挫折の象徴として扱われるようになった。

 ジャック、アーチー、レイモンド、カミール、ロック・ハドソンたちは、ハリウッドに夢を見てやってきた若者たちだ。彼らは自分たちを買ってくれる誠実な大人たちと手を組み、さまざまな偏見や差別、性的搾取などの「ハリウッドの闇」と戦いながら、『ペグ』を作り上げていく。6話、7話あたりの高揚感は格別だ。

 「ハリウッド」には史実と異なるラストが用意された。そこにはライアン・マーフィーら製作陣が「こうだったら良かったのに」と思うハリウッドが映し出されている。観た後、それが現実とどう違ってしまっているのかを考えることが、きっとこのドラマが発しているメッセージだろう。(大山くまお)

Netflixオリジナルシリーズ『ハリウッド』独占配信中

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