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東日本大震災後の10年、映画の力を信じ続けた人々【特集】(4/4)

映画で何ができるのか

1.映画館のない地域で無料上映会を続けること延べ900回
2.地元テレビ局の責任と使命を問い続ける
3.情報弱者を出さないために…耳のきこえない人たちから見た社会の変化
4.「作品」を通して、震災を語り継ぐ試み

4.「作品」を通して、震災を語り継ぐ試み

4人の旅人たち
陸前高田に身を置きながら自分の言葉であの日を語り継ぐことに挑んだ4人の“旅人”たち。『二重のまち/交代地のうたを編む』より - (C)KOMORI Haruka + SEO Natsumi

 映像作家・小森はるかと画家・作家の瀬尾夏美は、2011年当時、東京藝術大学美術学部先端芸術表現科で学ぶ「普通の美大生」(瀬尾)だったという。しかし東日本大震災の3週間後には現地に向かい、ボランティア活動に参加。それをきっかけにアートユニットを組み、2012年から3年間は岩手県陸前高田市、2015年からは宮城県仙台市を拠点としながら風景と人々のことばを記録することを軸に制作活動を続けている。

 「震災前の自分の世界は、大学と家族の中で完結していて、すごく狭かったと思います。それが震災が起きて、自分の生きている社会がガッと近づいてきてしまった。都市の構造とか社会の矛盾とか、そういうのが見えてしまった時に“こっちもやらなければいけなかったんだ”と気付かされてしまった。だから、他人の出来事というよりも、“やらなければいけないこと”のような気持ちでボランティアに参加したのだと思います」(瀬尾)。

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藝大で学んだことを被災地で

二重のまち
かさ上げ工事が進む陸前高田。瀬尾はもとの街とかさ上げ後の新しい街のあるこの地を“二重のまち”と表現した。『二重のまち/交代地のうたを編む』より - (C)KOMORI Haruka + SEO Natsumi

 震災後、現実を記録すべく現地に入った映像作家は多数いた。しかし2人は違った。当初は創作のことは念頭になかったという。きっかけは、避難所で出会ったおばあさんから「カメラを持っているなら、津波でやられたらしい自分のふるさとを代わりに撮ってきてほしい」と声をかけられたこと。自分たちが学んできたことが役立つかも? と思い始めたという。

 「むしろ、作品を作りにいくという目的じゃなかったからこそ被災地に行けたように思います。皆さん、思った以上にわたしたちを受け入れてくださって、食卓を囲んで一緒にご飯を食べたり、物資を持っていったにもかかわらず帰りにお土産を頂戴して帰ってくるみたいな。最初から、ある意味、生活しているところのすごい近いところに居させてくださった」(小森)

陸前高田市で出会った人たちの生の声

空に聞く
「陸前高田災害FM」のパーソナリティーを務めた阿部裕美さんの活動に寄り添ったドキュメンタリー映画『空に聞く』(2018)。 - (C)KOMORI HARUKA

 2人が暮らした陸前高田市は、人口の7.2%(2014年7月、陸前高田市調べ)が津波の犠牲となった、県内で最も被害が大きかった地域だ。街の人がどんな光景を見て、今もそれを抱えて生きているか。想像するだけで言葉を失う。その傷が癒えようが癒えまいが、復興は進み、街の風景は日に日に変わっていく。その中で2人は“旅人”というスタンスを保ちながら、出会った人たちから震災のこと、街の記憶、さらにはあの日以来置き去りにされている感情やそれでも前を向いて歩こうとする生命の輝きを丁寧にすくい取り、瀬尾は文章や絵で、小森は『息の跡』(2016)や『空に聞く』(2018)といった映像で形にした。

 それらの作品を携えて東京、神戸、広島などで展覧会を企画したり、上映会に参加などしたりし、震災の被体験者や同じように喪失を体験した人たちと作品を通して語り合う場を設けてきた。さらに2015年には仙台で一般社団法人NOOKを立ち上げた。活動の目的は“東北で活動する仲間とともに、記録を受け渡すための表現を作る”だ。「記録するということは、“目の前の問題をその場で答えを出さないでおく”という態度であると思うのです。目の前にあることを距離を持ったまなざしで考えて、撮っておく。それがすぐに誰かの役に立つかどうかはどちらでも良い。でもせっかく撮らせて頂いたのなら自分の中だけで咀嚼(そしゃく)していても仕方がないので、誰かに渡すための媒体として、自分の人生や生命がある。そういうイメージで活動しています」(瀬尾)

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復興の街を通して、今までの取り組みをワークショップで実現

古田春花
地元の高校生に震災や新しい街について話を聞く旅人の一人・新潟の古田春花さん(左)。『二重のまち/交代地のうたを編む』より - (C)KOMORI Haruka + SEO Natsumi

 2人の取り組みを代表するような作品が共同監督を務めたドキュメンタリー映画『二重のまち/交代地のうたを編む』(2019)だ。2人は2018年のかさ上げ工事が進む陸前高田に、他の地域に住む震災当時、子供だった4人を“旅人”として招き、15日間の滞在型ワークショップを実施した。

 4人が行ったのは、復興の進む街を歩き、街の人から話を聞き、それを自身の言葉で語り直すという試みだ。4人は迷い、戸惑う。当事者の核心に触れる話を聞いてもよいのか? 聞いた話を自分は正確に伝えているのか? そもそも自分は当事者の話を伝えるのに、相応しい人間なのかと。最後に4人は、瀬尾が2015年に執筆した、2031年の陸前高田の姿を想像してつづった物語「二重のまち」を街の人たちの前で朗読する。その声と表情からわたしたちは15日間の濃密な時間を想像し、そして語り継いでいくことの可能性をみるだろう。

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震災のことだけを伝えようとは思っていない

三浦碧至
ワークショップの最後に、街の人たちの前で「二重のまち」を朗読する山形生まれ、東京在住の旅人・三浦碧至。『二重のまち/交代地のうたを編む』より - (C)KOMORI Haruka + SEO Natsumi

 「10年を経て、新たな聞き手が生まれているのは重要なことだと思います。それこそ震災当時3歳だった子で、“あの時、保育所から逃げたんだよ”という話をお母さんから聞いて、“もっと街のことが知りたくなった”という人もいます。また関西など東北から遠く離れた人たちが、震災当時何もできなかった後悔を引きずりながら生きていて、だけど“東北に行っていいのかわからない”と語っていた人も。それは若い人だけじゃなく、多くの人たちがようやく話せるようになったことだと思います。今になって関心を持っている人がいたら大事にしたいし、手伝えることがあったらそうしたいと最近は思っています」(瀬尾)。

 「ただわたしたちの活動は、東日本大震災のことだけを伝えようとは思っていなくて。もちろん、震災がきっかけで観てくれる人も多いとは思いますが、個別の体験や、その人自身が持っている背景を重なり合わせて観てもらえたらいいなと思ってます。わたしたちが陸前高田で見たり、知って、聞いてきたことを誰かに受け渡す表現はどういうものなのか? を考えていきたい」(小森)

かげを拾う
仙台在住の美術作家・青野文昭さんの制作風景を追った小森はるか監督のドキュメンタリー『かげを拾う』。- (C)KOMORI HARUKA

 2人は東北に住む戦争体験者の話を聞く活動も行っている。震災だけではない、あらゆる事象の風化が危惧(きぐ)される中、彼女たちは独自の手法で“語り継ぐこと”の未来を切り拓いている。

映画『二重のまち/交代地のうたを編む』はポレポレ東中野、東京都写真美術館ホールほか全国順次公開。また特集上映「映像作家・小森はるか作品集 2011-2020」がポレポレ東中野ほか全国順次開催

小森はるか、瀬尾夏美が参加している企画展「3.11とアーティスト:10年目の想像」が水戸芸術館で5月9日まで開催

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まとめ

 筆者自身、映画の無料上映で東北を回った時に楽しみに待っていてくれる人たちに多数出会いました。映画『男はつらいよ』に昔の故郷の風景が映っていて、途端に笑顔になった人たち。映画のお供にとキャラメルポップコーンを配布したところ、「シネコンに行くとこの匂いが苦手だったけど、おいしいのね」とポップコーンをほお張りながら、津波で亡くなったお孫さんと映画を観に行った思い出を話してくれた女性もいました。

 そして映画は娯楽だけでなくわたしたちが今いる社会を改めて見つめ直させてくれる課題も映し出してくれます。しかし有事が起こると必ず文化・芸術不要不急論が巻き起こるのがわたしたちの社会です。今の殺伐とした社会を、孤立を強いられる個々人の人生を、より豊かにするには何が大切で、何が必要なのか。10年を契機に改めて考えたい。

1.映画館のない地域で無料上映会を続けること延べ900回
2.地元テレビ局の責任と使命を問い続ける
3.情報弱者を出さないために…耳のきこえない人たちから見た社会の変化
4.「作品」を通して、震災を語り継ぐ試み

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