自由だからこそ不自由な気持ちの伝え方問題
映画たて・よこ・ななめ見！
ジブリで宮崎駿監督の出待ちをしちゃうほど映画大好きな村本大輔と、映画に関しては素人同然の中川パラダイスが、あらゆる角度からブッ飛んだ視点で映画トーク。今回は、家族の中でたった1人健聴者である少女が自分の夢と出会い、人生を見つめ直す姿をユーモアたっぷりに描いた映画『コーダ あいのうた』。サンダンス映画祭史上最多4冠受賞し、ゴールデン・グローブ賞の作品賞を含む2部門にノミネートされた本作。いつもはスプラッタ映画にしか心が動かない中川パラダイスが、大感動して熱弁します！（取材・文：森田真帆）
今回の映画は、1月21日公開の『コーダ あいのうた』です。
耳の不自由な家族の中で唯一耳が聞こえる少女が歌の才能を認められたことをきっかけに、夢と現実のはざまで葛藤するドラマ。『エール！』のリメイクで、『タルーラ ～彼女たちの事情～』などのシアン・ヘダーが監督・脚本を務めた。主人公を『ゴーストランドの惨劇』などのエミリア・ジョーンズが演じ、『シング・ストリート 未来へのうた』などのフェルディア・ウォルシュ＝ピーロ、『愛は静けさの中に』などのマーリー・マトリンらが共演。
中川パラダイス、人間の感情を取り戻す！
中川パラダイス（以下、中川）：僕はこの映画、めちゃくちゃおもろかったわ。内容もそうなんやけど、映画の流れがすごく見やすくて、ヒロインにもヒロインの家族にも感情移入することがめっちゃできた！ 観客を置いてきぼりにせずに、めっちゃ丁寧に伝えている感じがした。家族の中でたった1人だけ耳が聞こえるっていうことが、どういうことなのかを知ることができたわ。
村本大輔（以下、村本）：ピノキオよりも人間から遠い中川が人間の感情を取り戻した！ お前が好きな映画は血だらけだけなのに！ オレはこれまで原発とかいろんな社会問題をしゃべりまくってきたけど、こいつはなかなか自分ごとに感じへんねん。でもこの映画でこいつがここまで自分ごとになれるって、めっちゃすごいことやわ。
中川：いやほんまにめっちゃすごい伝わった。それに音のない世界ってこんなに不安で、無なんやって感じられたんや。
村本：お前、音のない世界なんて、いっつもギャグがすべったときに体感しとるやんけ！
中川：そのときは心臓のバクバクしてる音がちゃんと聞こえてんねん！ あとな、なんか全然暗くなかったんも、めっちゃよかった。
村本：そうやな、こういうタブーみたいに扱われがちな話題を、こんなに明るく表現している映画ってすごいいいなって思う。日本はだいたいこういう映画作るとチープな感動を押し付ける映画にしがちやけど、この映画はまったくそういういやらしさがなくてよかった。
中川：お父さんがくだらない冗談を言うシーンも良かったな。人の気持ちに寄り添える映画よ。ほんまに。
村本：急にいいコメントして怖いんやけど。さてはお前、オレがアメリカに行って全部仕事なくなるから、シネマトゥデイの連載だけでも残そうとしてるんやろ！
手話で伝える言葉の豊かさを知る
村本：オレは観たときに、ある女性を思い出したん。その女性は沖縄で女芸人をしている大谷あゆみさんって人なんやけど、彼女は手話で新喜劇をしているのよ。大谷さんが公演するときは、沖縄中のろうあの人たちがやってきて満席になるって伝説になってるらしい。彼女もご両親がろうあの方で、彼女が家族とのエピソードをよく話してくれるんだけど、子供の頃はそんな両親のことが恥ずかしかったとか、共通するところがたくさんあったわ。たとえば、子供の頃から銀行の手続きとか、ほとんどやっていたから、親の財布事情を知っていたんやって。この映画でも高校生のヒロインが、漁師のおじちゃんたちを相手に大人みたいな対応していたのを見て、彼女のエピソードを思い出した。
中川：僕らは話したり電話したり、伝える手段がたくさんある。でも彼らは言葉を発せられないことや耳が聞こえないことで、伝える手段が限定されているやん。声で表現できないからこそ、自分たちの感情をぶつけられているでしょ。伝える手段が少ないからこそ嘘もなく、感情でちゃんとぶつかりあえている感じがしたな。僕らの方が自由ゆえに不自由になっている感じがして、本音をぶつけ合えることができるヒロインの家族がいいなって感じた。
村本：そうやな。どんだけ言葉を伝えても、なかなか理解してもらえなかったりするもんな。伝える手段が多いからこそなかなか伝えられないのはある。
中川：顔の表情がめっちゃ豊かで、話すよりもっと伝わる気がする。僕ら電話することが多いけど、相手の顔が見えないとやっぱり不安になること多いやん。嘘をついたり中途半端やったりすることなく、手話でストレートに感情を伝えているところがめっちゃうらやましいなって思った。好きって伝えることだって、手話で感情をストレートに表す姿が素敵やった。全員が真っ直ぐだから、作品の面白さもめっちゃストレートでよかったのかも。没入感がすごかったわー。
村本：前に漫才をもっとゆっくりしゃべってほしいっていう意見がきたとき、「てめえの難聴は知らんがな」ってTwitterで書いて大炎上したことがあったんや。オレ的には、別に難聴をバカにするわけではなくて、自分のスタイルを批判されてカッとなってしまったんや。でもそのことがきっかけで、難聴の方々のことや、ろうあの方々のことをたくさん勉強することになってさ。いつか手話で漫才の通訳をしてもらって……みたいなとか考えるんや。実はさっき話した沖縄の女性もそのことがきっかけで出会ったんやけどな。この映画もそうやけど、相手を知るって、めっちゃ大切なんやなって思ってん。
ニューヨークに行く夢を選択した村本の思い
中川：この映画のヒロインはさ、自分の夢と出会ったときに、家族は自分なしでは生きていけないんじゃないかってめっちゃ悩むやん。僕は今まで奥さんにも親にも、やりたいことをやらせてもらってきた方やから、映画の中で家族との間で揺れる彼女を見ると、自分は恵まれていて、幸せだなってめっちゃ思ったな。
村本：パラダイスはオレがニューヨークに行くって話をしたときも、そうなんやって感じで全然止めたりもせんかったもんな。理解あるとかちゃうねん。危機感ないだけちゃう？
中川：死ぬわけじゃないしって感覚なんやな。でも、2か月くらいたってから、やっぱり村本戻ってきてくれよってなるかもしれん（笑）。
村本：こないだある人が言ってた、命は大事、愛はそれよりももっと大事、でも自由のためなら全て手放すっていう言葉がすごく印象的やって。最近は、やっぱり窮屈ですごく自由になりたくて、アメリカに行くことを決めたところはある。
中川：この映画のヒロインやないけどさ、村本が行きたいんやったら、行けばええって思うよ。戻ってきてほしいってなったら電話するわ（笑）。
村本：でもオレは結婚していないから、自分が心配するのは親だけ。親が心配したり、さびしがるんちゃうかなってずっと感じてた。このヒロインも夢と親との間で葛藤するけれど、オレ自身もお客さんや吉本、中川に対して何も思ってないわけちゃうねん。ごめんなって思いながらアメリカに行くけど、そのことで自分がもっとよくなるって信じてるからさ。誰かのために夢をあきらめたら、いつかきっと誰かのせいにしちゃうと思うねん。挑戦せずに後悔している人間はたくさん見てきたけど、挑戦して後悔しているやつは見たことないねん。だから、めっちゃ挑戦していきたいねん。
※記事内容には個人の意見が含まれています。
『コーダ あいのうた』1月21日公開
映画『コーダ あいのうた』公式サイト
(C) 2020 VENDOME PICTURES LLC, PATHE FILMS
ウーマンラッシュアワー・プロフィール
2008年に結成された、村本大輔と中川パラダイスによるお笑いコンビ。2011年「ABCお笑い新人グランプリ」最優秀新人賞受賞、2012年「THE MANZAI 2012」決勝進出、2013年NHK上方漫才コンテスト優勝など数々の賞に輝き、4月に東京進出。「THE MANZAI 2013」で見事優勝し、3代目王者に輝いた。
村本大輔
1980年生まれ。福井県出身。自分でも「ネットに書き込まれるうわさはほとんどが事実です！」と認めている、自称・ゲス野郎芸人。だがその一方で、ジブリ作品やピクサーなどの心温まるアニメが大好きで、映画『あなたへ』で号泣するほどのピュアな一面も持ち合わせる大の映画好き。水産高校に通っていたため（中退）、お魚系や海洋ネタにも意外に詳しい。
中川パラダイス
1981年生まれ。大阪府出身。これまで10回もコンビ解散している村本と唯一トラブルもなくコンビを続けている広い心の持ち主。2012年に入籍し、現在1児の子育てを満喫中のイクメンパパでもある。映画に関しては、「王道なものしか観ない」というフツーレベル。
