ADVERTISEMENT

巨大な鼻の剣豪の恋…「シラノ・ド・ベルジュラック」の魅力を再発見!

今週のクローズアップ

シラノ
(C) 2021 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All Rights Reserved.

 『プライドと偏見』『つぐない』などのジョー・ライト監督によるミュージカル映画『シラノ』が2月25日より劇場日本公開。原作となっているのは、エドモン・ロスタンの戯曲「シラノ・ド・ベルジュラック」。初演時から驚異的なロングランヒットを記録したことでも知られており、その映像化作品はこれまで連綿と作られ続けてきました。巨大な鼻を持つ剣豪の物語がなぜ、これほどまでに愛されているのか? 映画作品を中心に、その魅力に改めて迫ります。(編集部・大内啓輔)

ADVERTISEMENT

世紀末の事件!異例のロングランヒットを記録した「シラノ」

 物語の主人公は、17世紀のフランスに実在した剣豪作家シラノ・ド・ベルジュラック。作品で描かれるシラノは剣術に長けた軍人にして、類いまれな才能を持つ詩人であるものの、巨大な鼻のせいで容姿に自信が持てず、美しきロクサーヌには密かに思いを寄せているだけ。従妹である彼女に、その本心を伝えられないのです。そんなシラノが文才を生かして、新たに青年隊に加わった見目麗しいクリスチャンを装い、ロクサーヌへの熱烈な恋文を代筆することになったことから動き出します。

シラノ
(C) 2021 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All Rights Reserved.

 従妹であるロクサーヌの兄代わりだったシラノは、クリスチャンと偽って手紙を書くことで彼女の心を掴んでいくことになりますが、その思いは複雑です。言葉でロクサーヌを感動させるという詩人としての力量を確かめると同時に、ロクサーヌからは兄のように慕われていても、恋人としての愛は受けられない。この物語が愛され続けているのは、この秘められた恋をめぐるジレンマにこそあるといえるでしょう。その人の本質は外見にあるのか、それとも……この問いは時代を超えてもなくならないものなのです。

シラノ
(C) 2021 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All Rights Reserved.

 作者エドモン・ロスタンが手掛けた原作戯曲は、1897年12月28日にポルト・サン=マルタン座にて初演されました。その年は残された4日で4回の公演が打たれると、その翌年には307回も上演されることになります。そして、ロングランはなんと1899年3月まで続くことになり、パリのみならず、ロンドンやベルリンで巡業が行われました(光文社古典新訳文庫版「シラノ・ド・ベルジュラック」渡辺守章の解題より)。そして現在、世界各国で上演され続けていることは周知の通り。この名作がエドモンの手によっていかに生み出されたのかを描くのが、近ごろ日本でも劇場公開された映画『シラノ・ド・ベルジュラックに会いたい!』(2018)です。

シラノ
Archive Photos / Getty Images

 わずか3週間で新作公演のための戯曲を書くことになってしまったエドモンの奔走ぶりが、ウイットにとんだドタバタ劇として展開していく同作。借金に追われる俳優や自分本位な女優たち、無理難題を吹っ掛ける支援者などが登場し、虚実をない交ぜにしながら、さながら戯曲の中のシラノのような体験をしていくエドモンの奮闘に、もしもこんなことがあったら……という想像が膨らみます。世紀末パリの街の風景や、当時の演劇界の状況なども大いに楽しむことができます。

ADVERTISEMENT

名優たちが演じるシラノ

 『シラノ・ド・ベルジュラックに会いたい!』のエンドクレジットでは、初代シラノを演じたコンスタン・コクランの姿(1900年に映画化された際にもコンスタンがシラノ役を務めました)をはじめ、歴代のシラノ俳優の演技を見ることができます。そのなかでも映画化作品としてよく知られているものとして、1950年のマイケル・ゴードン監督版をまず挙げることができるでしょう。シラノを演じたホセ・ファーラーは舞台を中心に活躍していた俳優で、本格的な映画デビューからまもないシラノ役では第23回アカデミー賞で主演男優賞に輝く名演を見せています。

シラノ
Orion Classics / Photofest

 また、最近騒がせ俳優としての話題も事欠かないフランスの名優ジェラール・ドパルデューの主演映画も高い評価を集めました。その風貌からも、まさにシラノのイメージにふさわしいジェラールですが、カンヌ国際映画祭男優賞を受賞したのも納得です。鼻を馬鹿にしてきた相手にユーモアたっぷりに啖呵を切るアクロバットや、闇夜でクリスチャンのふりをしてバルコニーにいるロクサーヌに愛の言葉を届けるシーンなど、シラノの声が物語を駆動させるだけに、シラノ役とは俳優にとってはまさに面目躍如ともいえるもの。ジェラールの堂々たる演技に舌を巻きます。

シラノ
Columbia Pictures / Photofest

 また、物語の舞台を現代に移した『愛しのロクサーヌ』(1987)は、タイトルにもあるようにヒロインのロクサーヌに焦点をあてた、よりロマンティック・コメディーの色合いを強めた作品です。シラノにあたるC・D・ベイルズを人気コメディー番組「サタデー・ナイト・ライブ」出身であるスティーヴ・マーティンが好演。C・Dは消防団長という設定になっており、剣士ではないものの、冒頭ではテニスラケットを器用に操ってならず者たちを撃退するという見事な“剣さばき”を披露しています。

 スティーヴ・マーティンといえば、その独特な動きがストリートダンスの基本ステップとして取り入れられている(その名も“スティーブマーティン”)ように、身体のリズム感は天下一品。この作品でも、その饒舌ぶりとともに見事なステップを楽しむことができます。ロクサーヌを演じたのは、『ブレードランナー』(1982)のプリス役や、『スプラッシュ』(1984)の人魚役で知られ、当時“ニューヨークの恋人”とも評された女優ダリル・ハンナ。この作品では、聡明な天文学者にふんしています。

ADVERTISEMENT

ミュージカルとしての輝き

 シラノの恋の物語は、ミュージカルとしても愛されてきました。日本でもさまざまな俳優がシラノ役を務めて上演を重ねてきましたが、2月25日より日本公開されるジョー・ライト監督版『シラノ』は、2018年に上演された舞台ミュージカルの映像化。舞台から引き続いてエリカ・シュミットが脚本を手掛け、その夫であるピーター・ディンクレイジがシラノ役を続投しています。ロクサーヌ役は『マグニフィセント・セブン』『Swallow/スワロウ』などのヘイリー・ベネットで、彼女はライト監督のパートナーでもあります。

シラノ
(C) 2021 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All Rights Reserved.

 本作の大きな特徴は、シラノのトレードマークである大きな鼻が封印されていること。それにより、シラノが抱えている悩みが大きな鼻ではなく、全身で表現されており、自己嫌悪や孤独感がより普遍的なものとなっています。また、顔はいいものの、頭は空っぽという戯画的なキャラクターとして描かれがちだったクリスチャン役に、『ルース・エドガー』『WAVES/ウェイブス』といった映画で複雑なキャラクターを演じてきたケルヴィン・ハリソン・Jrが起用されていることも、物語に深みを与えています。

シラノ
(C) 2021 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All Rights Reserved.

 劇中の音楽を手掛けているのは、ロックバンドのザ・ナショナル。ヘイリーの圧巻の歌唱力はもちろん、ドラマシリーズ「ゲーム・オブ・スローンズ」で脚光を浴びたピーターのバリトンボイスが生かされた歌声にも注目です。なかでも、シラノが姿を偽ってバルコニーにいるロクサーヌに愛の言葉を届けるシーンは、ミュージカルとして心震える感動のシーンへと生まれ変わっています。公開中の映画『ウエスト・サイド・ストーリー』と並ぶ、ミュージカル映画史上屈指のバルコニーでの逢瀬の場面として、感動を誘われるはずです。

シラノ
(C) 2021 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All Rights Reserved.

 最近では、ジェームズ・マカヴォイ主演の舞台がラップを取り入れるなど、新機軸を加えた演出が話題を呼んだことも記憶に新しい「シラノ・ド・ベルジュラック」。その普遍性を持った“忍ぶ恋”の物語は、ほかにも映画『好きと言えなくて』(1996)をはじめ、最近でも『シエラ・バージェスはルーザー』(2018)や『ハーフ・オブ・イット:面白いのはこれから』(2020)といった作品のように、直接の原作ではなくても、さまざまな作品に影響を与えています。初演から1世紀を経ても新たな想像力を掻き立てている名作の輝きを再発見してみてはいかがでしょうか。

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • ツイート
  • シェア
ADVERTISEMENT

おすすめ映画

ADVERTISEMENT

人気の記事

ADVERTISEMENT

話題の動画

ADVERTISEMENT

最新の映画短評

ADVERTISEMENT