『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』をもっと楽しめる!意外と知らないトリビア10選

映画『アバター』シリーズ最新作『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』の公開を記念して、シリーズ第2作『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』が29日よる7時より、フジテレビ系列にて本編ノーカット&地上波初放送される。ここでは、放送をより楽しむためのトリビアを10個紹介。映画史上かつてないスケールで製作されている本シリーズだけに、その舞台裏にも驚きが詰まっている。(文:神武団四郎)
1:第2作と第3作はひとつの物語だった
『ウェイ・オブ・ウォーター』のタイムラインは、第1作の約10年後。すでに主人公・ジェイク(サム・ワーシントン)とナヴィのネイティリ(ゾーイ・サルダナ)は4人の子供の親になっている。続く最新作『ファイヤー・アンド・アッシュ』は、本作の直後から幕を開ける。実は当初、ジェームズ・キャメロン監督は『ウェイ・オブ・ウォーター』と『ファイヤー・アンド・アッシュ』を1つの作品として考えていた。しかし、物語が長くなりすぎ、キャラクターを掘り下げることができないと判断し、2本に分割したのだ。最新作を観る前に本作を復習することで、映画の解像度も高まるだろう。
ちなみに、当初キャメロンが想定していた第2作は『ウェイ・オブ・ウォーター』とはまったく違う物語だった。この“幻の第2作”の一部は、グラフィックノベル「Avatar: The High Ground」として出版されている。
2:オファーを断った大物俳優
第1作を観て感銘を受けた俳優の1人、エドワード・ノートンはキャメロン監督から直接『ウェイ・オブ・ウォーター』のオファーを受けたが、最終的に出演を見合わせることにした。キャメロン監督はノートンを人間のキャラクターで起用するつもりだったが、ノートンはナヴィ役での出演を切望していたのだ。そこでキャメロン監督は、プロデュース作『アリータ:バトル・エンジェル』でノートンを黒幕ノヴァ役に起用した。一方、『アベンジャーズ』シリーズでサノスを演じたジョシュ・ブローリンは「興味を持てない」という理由で本作のオファーを断り、キャメロン監督を怒らせたと明かした。ちなみに第1作では、ジェイク役でマット・デイモンがオファーされたが、『ボーン・アルティメイタム』とスケジュールが重なったため辞退。選考段階で落とされた俳優に、クリス・エヴァンスやチャニング・テイタムがいる。
3:リアルな海の表現
水中シーンは撮影や演技をする上での制約が多いため、スタジオで俳優をワイヤーなどで吊って撮影し、視覚効果を使って水中に見せる手法が主流だ。しかし、リアルな描写を求めたキャメロン監督は、スタジオ内に340万リットルの巨大水槽を作り水中撮影を行った。かつて『アビス』でも巨大なタンクで海底シーンを撮ったキャメロン監督らしいチョイスといえる。最終的に、俳優はモーションキャプチャでCGに置き換えられてしまうのだが、キャメロンは水の抵抗など些細な動きにも本物らしさを求めたためだった。
4:進化したパフォーマンスキャプチャ
CGであることを感じさせないリアルなナヴィは、俳優の体の動き(モーションキャプチャ)と表情(フェイシャルキャプチャ)をそのままデジタルキャラクターに変換する、パフォーマンスキャプチャで描かれた。モーションキャプチャは、マーカーが付いたスーツを着た俳優の芝居を赤外線照射カメラで取り込むが、水は赤外線を吸収する性質を持つため、水中では使えない。そこで本作では、赤外線に比べ水に吸収されにくい紫外線に変更。キャプチャの精度を上げるため、プールには白いボールを敷き詰めて水面の反射を防止した。フェイシャルキャプチャはヘッドマイク型の小型カメラで取り込むが、今作ではカメラを1台から2台に増設。俳優の筋肉や毛穴の収縮までキャプチャ可能になった。なおナヴィには俳優の表情のほか耳の動きも反映されているので、特に感情をあらわにするシーンでは彼らの長い耳に注目するのも面白い。
5:トム・クルーズのスタント記録を更新
水中で泡が発生すると紫外線センサーの妨げになるため、俳優やスタッフはダイビングの装備類を使えなかった。メンバーは数か月にわたりフリーダイビング(素潜り)の専門家によるトレーニングを受講。浮力に抗いながら泡を発生させずに演じるという厳しい撮影に挑んだ。ネイティリ役のゾーイ・サルダナは水泳が得意でなかったため、後に取材で死ぬかもしれないと思ったこともあったと明かした。一方で才能を発揮したのは、『タイタニック』での過酷な沈没シーンの撮影に「もう懲りごり」と発言していたロナル役のケイト・ウィンスレット。彼女は約7分間も水中にとどまり、トム・クルーズが『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』撮影時に打ち立てたハリウッドでの最長水中記録(約6分半)を更新した。ちなみに、撮影当時72歳だったシガーニー・ウィーヴァー(キリ役)も、クルーズに並ぶ約6分半を達成!
6:別撮りされたナヴィとスパイダーの共演シーン
ナヴィたちの身長は約3メートル。ジェイク一家と人間の少年スパイダー(ジャック・チャンピオン)の共演は、本作でもっとも困難な撮影のひとつだった。撮影にあたって、俳優たちは全員一緒にリハーサルを行い、まずジェイク役のサム・ワーシントンらナヴィ組はスパイダーに見立てたミゼット俳優とモーションキャプチャを撮影。それが終わると、スパイダー役のジャックはナヴィ俳優の演技に合わせスタントマンを相手に芝居をし、最終的に両者が合成された。タイミングが重要な会話シーンは、パフォーマンスキャプチャ用に撮った俳優の顔の映像を、ナヴィの顔の高さに配置した小型モニターに映しながら撮影。取っ組み合いなど複雑な絡み合いはチャンピオンの動きをもとにCGで作成するなど、カットごとに最適な手法が使い分けられた。
7:子役に合わせた撮影スケジュール
現在は第5作までの脚本が書き上がっている『アバター』シリーズ。すでに、2029年公開予定の第4作の一部まで撮影が終了している。その理由が、スパイダーを演じたジャックの存在だった。彼は現在21歳の青年だが、『ウェイ・オブ・ウォーター』にオファーされたのは12歳の時。子役の成長がキャラクターに影響するストレンジャー・シングス効果を考慮したキャメロン監督は、本作と『ファイヤー・アンド・アッシュ』、第4作のスパイダー登場シーンを一緒に撮影したのだ。人間であるスパイダー以外の子役は、CGキャラクターになるため成長を考慮する必要がない。そもそも14歳のキリを演じているのも、実年齢と約60歳も違うシガーニー・ウィーヴァーなのだから。
8:ことばへのこだわり
第1作の製作にあたり、ナヴィの設定を言語レベルで作り上げたキャメロン監督。『ウェイ・オブ・ウォーター』には新たに海の部族メトカイナ族が登場するが、彼らの言葉はジェイクたちオマティカヤ族(森の部族)と発音や文法が微妙に異なり、海中で会話をさせるための手話まで考案された。キャメロン監督は『ベイビー・ドライバー』で聴覚障害者を演じ、実際にこの障害を持つ俳優CJ・ジョーンズにナヴィ手話の開発とトレーニングを依頼。ジョーンズは約2年がかりで300を超える手話を作成しキャストに指導、さらにメトカイナ族の通訳者役で出演もしている。
9:撮影現場にも取り入れられた作品のテーマ
環境保護を『アバター』シリーズのテーマに据えたキャメロン監督。理由のひとつに、少年時代の遊び場だった森が再開発で破壊された時のショックをあげ、その悲しみを具現化したのが第1作のホームツリー襲撃シーンだったと明かしている。『ウェイ・オブ・ウォーター』の撮影にあたってキャメロン監督は、畜産業が排出するメタンガスを減らすため、全スタッフの了承を得たうえでケータリングを植物由来のヴィーガン食に変更した。ピザなど定番からタイ料理、メキシコ料理までバラエティー豊かなメニューが用意されたが、強制ではないため肉が食べたい人は近くのレストランに通っていたという。ちなみにキャメロン監督の妻は『タイタニック』でローズの孫娘リジーを演じたスージー・エイミス・キャメロンで、もともと環境保護運動に熱心でヴィーガンだった彼女の影響もあったのかもしれない。
10:頼れる相棒と最後のタッグ
『ファイヤー・アンド・アッシュ』製作中の2024年7月5日、『アバター』シリーズのプロデューサーでキャメロン監督の制作会社ライトストームの中心的存在だったジョン・ランドーが63歳で死去した。20世紀フォックスの製作担当副社長として『トゥルーライズ』の頃からキャメロン監督と仕事をしてきたランドーは、その後ライトストームに移り『タイタニック』以降はプロデューサーとしてキャメロン監督を支えてきたまさに相棒。妥協を知らないキャメロン監督とスタッフのパイプ役も務めた功労者でもある。『ウェイ・オブ・ウォーター』ではパンデミックの影響で世界中のスタジオが機能不全に陥る中、ニュージーランド政府と交渉し撮影許可を取り付けたり、水中撮影のシステム構築、子役たちのフォローなどを先頭に立って行った。キャメロン監督も「彼と共に私は心の一部を失った」と親友でもあったランドーの早すぎる死を悼んだ。『ウェイ・オブ・ウォーター』は、キャメロン監督がランドーと完成させた最後の作品。それを頭の片隅に観ると、本作の味わいもより深まるだろう。


