監督マギー・ギレンホール、その演出センスは熟練の域

一人でバカンスを楽しむ主人公が、出会った家族に自分を重ね、つらい記憶が呼び戻されるドラマは特に目新しくはない。主人公は常軌を逸した行動にも出るが、あくまでも淡々とつづられることで、逆にその闇の深さがしみてくる。このあたり、観る者の心にさざ波を立てる絶妙な匙加減で、M・ギレンホールの初監督作らしからぬセンスが光る。
過去と現在の行き来はともかく、その場のシーンを微妙に時間をシャッフルさせる高等テクは、鼻につくというより、感情を伝えるうえで効果的。
一人バカンスの悦楽から、寂しさと恐怖、正義感、人生の疵(きず)、自己弁護の本能など、一切大げさにならず表現するO・コールマン。これこそ演技の最上見本。