行定勲監督×松永大司監督スペシャル対談 「アジア三面鏡」を語る

第31回東京国際映画祭

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行定勲 松永大司

外の世界を知らないままいることが怖い

取材・文:中山治美

アジアの気鋭監督3人が一つのテーマのもとにオムニバス映画を共同制作するプロジェクト「アジア三面鏡」。2016年の第1弾『アジア三面鏡2016:リフレクションズ』に参加した行定勲監督と、今年の第2弾『アジア三面鏡2018:Journey』に参加の松永大司監督のスペシャル対談が実現。映画祭企画ならではの舞台裏と今後を語った。

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現地で体感した今しか撮れないモノ

松永大司

Q:行定監督はマレーシアで『鳩 Pigeon』のロケを行いましたが、松永監督は『碧朱』でミャンマーへ。その場所を選んだ理由は?

松永大司監督(以下、松永):ミャンマー、ラオス、カンボジアのいずれかで撮りたいと思っていました。中でもミャンマーは、事前調査で移動遊園地と移動劇団があると聞いて面白そうと思い、現地視察に行きました。ただ移動での撮影は明らかに大変そう。他に探していた時に出会ったのが、ヤンゴンの環状線でした。電車に乗って、ずっとぐるぐる回ってました。

Q:絵になる場所だと?

松永:体感的に良かったですね。窓がない、ドアがない、人が寝てる(笑)。生活がそこに根付いてました。ところが現地の人いわく、数年後は列車の速さが倍になると。劇中で長谷川博己さんが乗客に言われる言葉として使いましたが、リニューアル計画があるというんです(日本の支援を得て2020年運行開始予定)。果たして、ここに住んでいる人たちはそれを望んでいるのだろうかと考えさせられました。ただ若者は、日本のような進化を望んでいるというんです。日本から来た人間がそれをジャッジするようなことは出来ませんが、そこには今しか撮れないモノがあるなと。僕のベースがドキュメンタリーだとするならば、フィクションをなかばドキュメンタリー的に撮るというのも挑戦だなと思いました。しかも車両はJRからのお下がりなんですよ。ビルマ時代からの親日的なものも含めて、ここで撮る意味も感じました。

碧朱
『碧朱』より - (C)2018 The Japan Foundation, All Rights Reserved.

行定勲監督(以下、行定):松永監督の『碧朱』はいろんな“含み”があって面白かったな。ミャンマーというこれからどんどん進化していく街で、鉄道整備事業で加担する日本人が、本来の人の営みで必要なもの、無くしてはいけないものに触れる。そこに出会った少女とのほのかな恋情もあって、海外に出たからこそ気付いた人間の本質みたいなものを捉えた作品だなと思いました。本当はもっと饒舌に描くことも出来ただろうけど、それをしなかったことで非常に品のある映画になったと思います。

松永:ありがとうございます。

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映画祭の企画で成長させてもらっている

行定勲

Q:『アジア三面鏡2016:リフレクションズ』では『Beyond The Bridge』のソト・クォーリーカー監督だけ自国のカンボジアで撮影し、今回も『海』のデグナー監督だけやはり自国の中国で撮影と企画の趣旨からずれているようにも。

行定:自国で撮ってしまうと越境というテーマから少し離れてしまう。もったいないなと思います。異国での撮影は、多かれ少なかれ自分の作品に変化をもたらします。僕らも生身の人間なので思い通りに行かないこともあるんですけど、逆にそれが味方することもあるんです。彼女たちはまだその面白さに辿り着いていないのかな。

松永:このプロジェクトの良さは(商業的な)無責任さを逆手に取って、外国に飛びこみ、知らないクルーと組んでみることにあると思うんです。その環境で自分がどこまで出来るのか。甘えかもしれないけれど、映画祭のこういう企画で成長させてもらっているという意識があります。なので、デグナー監督が自国で撮るのはどうなの? という思いはありましたけど、それはプロデューサーの判断の範疇(はんちゅう)かなとも。

鳩 Pigeon
『鳩 Pigeon』より - (C) 2016 The Japan Foundation, All Rights Reserved.

行定:僕は映画祭のこうした企画に関わるのは、釜山国際映画祭の『カメリア』(3監督によるオムニバスで行定監督は『Kamome』を制作)に続いて2回目だったんだけど、題材と出会って制作をスタートさせる監督と、そもそも撮りたい理想があってこの企画に合わせてくる監督のいずれかに分かれる。そう考えると不思議と「リフレクションズ」と「Journey」は韻を踏んでるんですよ。松永くんは『SHINIUMA Dead Horse』のブリランテ・メンドーサ監督と似た感じ。彼も北海道にフィリピンから出稼ぎに行って、何十年も帰って来ない人がいるという情報と、「雪を撮ってみたい」ぐらいの感覚で北海道へ行った。そうしたらばんえい競馬の馬が迫力があったのでそれも撮りたいと。彼の作品はもともとドキュメンタリータッチだけど、そこに自分の感情を重ね合わせて、作品の中で自然と表現している。

松永:まさにそうですね。

行定勲 松永大司

行定:僕は『第三の変数』のエドウィン監督と近いかな。彼に日本で撮ることの意図があったように、僕もマレーシアで撮ることの意図があったから。「マレーシアへ行きたい」というのは祖父の遺言だったんです。年の離れた兄がマレー沖海戦で亡くなっていて、どんな場所で死んだのか見たかったようで。越境するのであれば、爺さんの願いを映画で叶えてあげたかったんですよね。ところで、スタッフに日本人はいたの?

松永:助監督一人だけ連れて行きました。あとは中国とミャンマーのスタッフです。

行定:カメラマンは知り合い?

松永:じゃないんです。

行定:違うんだ。誰かに紹介されたの?

松永:伏見朋子プロデューサーから。台湾のリー・ピンビンさんや木村大作さんの弟子だという高(詩燿)くん。日本語も話せます。リーさんには『ノルウェイの森』(2010)の時に可愛がってもらったと言ってました。

Q:日本で学んだ人たちが自国に戻って成長している様子がうかがえるのは嬉しいですね。

行定:そうだね。『碧朱』は撮影が良かったし。

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日本人は閉鎖的に思われている?

松永大司

Q:ミャンマーでは、映画製作時に脚本の検閲があり、現場にも監視が立ち会うと聞きました。

松永:それが、なかったんです。もしかしたら外務省のオフィシャル・レターがあって撮っているということで、大目に見てもらえたのかもしれないのですが。なので結構大々的に撮っています。電車の中も全部ゲリラ撮影。びっくりするくらい誰もカメラを気にしない(笑)。

行定:駅の辺りとか『僕の帰る場所』(藤元明緒監督の日本・ミャンマー合作映画)と同じ場所で撮影していたね。

松永:藤元監督もゲリラだったそうです。僕の作品を見た人からは「仕込みですか?」と聞かれたほどです。日本だとなかなか許可が下りないような場所を撮らせてもらえたので、面白かったです。苦労はありましたけど。

行定:それがこのプロジェクトの意義じゃないかな。僕たちは、このプロジェクトのホスト国の人間じゃないですか。ホストは他のアジアの才能を迎えた時に、彼らがまず自由でないといけない。彼らがやりたいと思うものの次に、僕が後付けすればいいかと思っていました。

行定勲

Q:二人の作品に共通しているものを感じます。日本の現代社会の中で失ったものを越境先で探しているかのようです。

松永:僕自身、ミャンマーで感じたのは日本の懐かしい感じ。国民性もそうですが、子供が路上で遊んでいたり、時間を気にせず過ごせるところが日本ではなかなか味わえない感覚だったのでうらやましかった。日本みたいになりたいと言っている若者も、田舎の風景はこのまま残したいと言ってましたからね。それを聞いて心の中では「それは無理なんだよなぁ」と思ってましたけど(笑)。

行定:すぐに日本のようになりますよ。

松永:だから映画が一つの記録メディアであるとするならば、この映画を10年後、ミャンマーの人たちが見て何を思うのか、興味深いですね。

行定:アジアへ行くと一番びっくりするのは、日本語を話せる人がこんなにいるんだなと。マレーシアで「なんで話せるの?」と聞いたらアニメだというんです。それで喋れるようになるのだから勤勉だし、自国にいて越境している感覚なんでしょうね。世界でも日本人だけじゃないかな、自分たちを中心で見ているのは。きっと政治もそういう風に見えるのでしょうね。だから相手国に距離感を持たれるし、(歴史問題にしても)「あなたたちだけで自己完結しようとしているんでしょ?」と見られてしまう。

松永:閉鎖的に思われているでしょうね。

行定:映画も同じで、「リフレクションズ」に携わる前から思っていたけど、越境しないで外の世界を知らないままいることが怖いなと。僕の場合はだいたいアジアへ行くと『GO』(2001)か『きょうのできごと a day on the planet』(2003)が好きなんですと言われますが、それでいいやと思っていたら、この先の自分はないなと思って。

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引き継いで、やり続けていくことが重要

行定勲 松永大司

Q:松永監督は文化庁の平成30年度新進芸術家海外研修制度で、2019年にはアメリカ・ロサンゼルスへ行かれますね。

行定:俺も60代になったら使いたい。

松永:1年の長期研修は45歳未満と年齢制限がありますけど、半年の短期研修なら行けますよ。

行定:韓国がいいな。その半年で準備をして映画が撮れる。それで行こう(笑)。

Q:「アジア三面鏡」は2016年、2018年と隔年で製作され次は2020年となります。製作は国際交流基金アジアセンターとユニジャパン(東京国際映画祭)が担当していますが、アジアセンターは2020年までの事業ですので3回目はどうなるのか。プロジェクトに参加した監督として望むことはありますか?

行定:東京国際映画祭としてきちんと引き継いで、やり続けていくことが重要だと思います。僕らは映画を作る時に残るものだからとそこにいろいろなことを込めるけど、アジアの監督たちは瞬きするように撮ってしまう。映画を撮ることの根源が違うなと感じます。でも、それに触れるのも大事。また違った何かが生まれるから。

松永:映画祭が監督を育てていく場とするなら、こういう機会は僕らの世代にはありがたいことです。でも何かしら結果を残していかないと、「これ、やる意味があるの?」と問われてしまう。そういう意味においても「リフレクションズ」と「Journey」で出来なかったことを次に生かしつつ、続けて欲しいです。

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アジア三面鏡 上映・イベントスケジュール

アジア三面鏡2018:Journey
(C)2018 The Japan Foundation, All Rights Reserved.

『アジア三面鏡2018:Journey』
10月26日(金) 18:00~
会場:TOHOシネマズ六本木ヒルズ SCREEN 7

11月3日(土・祝) 11:45~
会場:TOHOシネマズ六本木ヒルズ SCREEN 1

11月9日(金)~11月15日(木)
東京・新宿ピカデリーほか 一週間限定ロードショー
オフィシャルサイト

「アジア三面鏡」シンポジウム
10月27日(土) 13:00開場/13:30開演
入場料:無料(※要事前申し込み)
会場:六本木アカデミーヒルズ タワーホール

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