ノー・アザー・ランド 故郷は他にない (2024):映画短評
ノー・アザー・ランド 故郷は他にない (2024)
ライター4人の平均評価: 4.8
観たら、知ってしまったら、自問自答は始まる
パレスチナ⼈の⻘年とイスラエル⼈ジャーナリストが“タッグ”を組む。これはフィクションではきっと、実現できない設定だろう。と、こんな戯言を考え、ここに書き連ねることさえ不謹慎に思えるほどに、このドキュメンタリーは苛烈である。世の不文律、対立軸を乗り越えて、一緒に戦地で行動する二人。
しかし、第三者的な立場にいる我々が、果たして出来ることとは? かたや破壊される故郷を撮影し続け、それをサポートする若者がいる。目を背けたくなる事態が次々と起こる。「彼らへの無視が一番の罪」なんて偉そうなことは言えない。でも観たら、知ってしまったら、自問自答は始まる。私は誰と、何と“タッグ”を組むべきなのかと。
イスラエルによるパレスチナ人迫害の実態を記録した力作
イスラエル支配下にあるヨルダン川西岸のパレスチナ人居住区。先祖代々の土地を奪おうとする軍に命がけで抵抗する住民たちの姿を、地元出身の青年バーセル・アドラーやイスラエルの人権派記者ユヴァル・アブラハームらが記録したドキュメンタリー映画である。撮影されたのはガザへの攻撃が始まる前。イスラエルによるパレスチナ人への迫害は想像以上に過酷で非情だ。人を人とも思わぬとはまさにこのこと。しかしそれ以上に恐ろしいのは、覆面武装して攻撃を仕掛けてくるユダヤ人入植者たちである。そうした状況下で、パレスチナ人に寄り添うユヴァルのような存在は一筋の希望の光。世界中で分断と対立が深まる今だからこそ見るべき一本だ。
映画で世界を変えたい。そのわずかな希望が痛いほど伝わる
不法に暮らしているわけではない土地から強制的に追い出される。その根拠は…追い出す側の一方的な法律。パレスチナ人の切実な問題に当事者がカメラも持って闘う姿は「決死」という言葉すら生ぬるい。目の前で愛着ある建物が無惨に崩されるほか、何度もショッキングな瞬間が収められ呆然とするばかり。
重要なのは、本作がパレスチナ2人、イスラエル2人の共同監督という点。描かれるのは基本的に「イスラエル批判」なので、イスラエル側の監督が“裏切り者”扱いもされる。それでも映画で世界を変えようという作り手の真摯な姿勢。そこが貫かれ素直に心を揺さぶられた。
ユダヤ系とは無縁でないアカデミー賞で受賞すれば歴史も変えることに。
複雑なトピックに一般人の視点から迫る傑作映画
パレスチナ/イスラエル問題は、重大とはわかっていても複雑で、外部にいる者には身近に感じづらかったトピック。この映画は観客をイスラエル占領下のパレスチナ居住地区に連れて行き、現地の普通の人の目線から状況を直視させる。監督のひとりバーセルは、父もアクティビストで、子供の頃から映像を記録してきた青年。もうひとりの監督ユヴァルは、相手側の真実に興味を持ったイスラエル人記者。現地の人たちは長い間、非情な扱いを受けてきた。それでもなぜこの土地から動かないのか。タイトルにもあるその単純な疑問は、映画を見るうちに理解でき、共感できていく。辛く、重いが、感動もあり、考えさせる、今絶対に見るべき映画。