リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界 (2023):映画短評
リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界 (2023)
ライター2人の平均評価: 4.5
体裁を気にせず、衝動と本能、使命感に突き動かされる主人公
主人公と同じく、映画の作り手も「戦争の悲劇から決して目をそらさない」姿勢を徹底。後半に頻出する衝撃シーンの数々は、それをカメラで撮ろうとするリー・ミラーの悲壮な覚悟とともに映画を観るわれわれも動揺させる。戦争映画としてまず必見。
全編に散りばめられるのは、女性として背負わされたハンデをリーがどう乗り越えていくかの苦闘。描き方によっては説教臭くくなりそうなフェミニズム的要素を、ストーリーに自然に馴染ませているのが、本作の巧妙さ。リーと恋人、ジャーナリスト仲間の三角関係も、脚本と演技で美しく絡められた印象。
リーが受ける「まず真実を書き、あとから磨けばいい」は、あらゆる仕事への助言として心に響く。
“ミューズ”から脱却した女性=アーティストの闘い
リー・ミラーを演じるケイト・ウィンスレットの熱量が真摯に伝わる。男性に見られる存在から、クリエイター的主体へと展開した女性として共感の対象であり、偉大なロールモデルなのだろう。旧来の写真史ではマン・レイとの関係性で語られがちなミラーだが、彼への言及は皮肉なひと言のみ。『シビル・ウォー』でK・ダンストが演じた役名「リー・スミス」のオマージュが示すように、女性のまなざしで戦争を捉えた報道写真家の原型としての再評価が物語の軸にある。
本作が回想形式で描くのはミラーの転換期に当たる約10年。英国版VOGUEの編集部で彼女とセシル・ビートンが交差する光景など、彼らの歩みの違いを象徴している様で面白い。