是枝裕和監督がiPhone 16 Proで映画撮影！プロをうならせる機能が
是枝裕和監督が全編 iPhone 16 Pro で撮影した短編映画『ラストシーン』の撮影現場の様子が公開され、撮影の合間に是枝監督、そしてシネマトグラファーの瀧本幹也が取材に応じた。
「未来に何が残り、何が消えるのか」をテーマとする本作は、是枝監督にとって初となるタイムトラベル・ラブストーリー。仲野太賀演じる脚本家・倉田のもとに、50年後の未来からタイムトラベルをしてきたという由比（福地桃子）が突如現れる。彼女は倉田が脚本を手がけたドラマの主演女優（福地が二役）の孫であること、そして倉田が、そのドラマのラストシーンを意に沿わない形ながらも改定してしまったことで、未来の世界からテレビドラマが消えてしまったことなどを告げる。そこで倉田は、未来のドラマを救うため、由比と共に脚本を書き直そうとするが……という物語だ。主演の仲野をはじめ、福地、黒田大輔、リリー・フランキーら実力派が出演する。
報道陣に公開されたのは、脚本家の倉田（仲野）が、自分が未来からやってきたと語る由比（福地）と一緒にドラマの撮影を行っている海岸の砂浜にやってくるシーン。くしくも日没前の、空が茜色に染まる“マジックアワー”と呼ばれる時間帯。是枝監督自身も撮影した画面を見ながら「すばらしい！」「完璧だね」と満足げな表情を見せていた。
本作の撮影スタイルは、基本的には通常の映画撮影を踏襲したものだが、カメラは iPhone 16 Pro を使用しているということもあり、ところどころでその特性を活かした撮影が敢行された。倉田と由比のファミレスでのシーンでは「シネマティックモード」が、由比の観覧車のシーンでは「シネマティックスローモーション」が、由比の祖母・琴乃の砂浜での撮影風景を引きで写すシーンでは「5倍光学ズーム」など、iPhone 16 Pro に搭載された機能を使って撮影された。
そしてこの日は、海辺で話し合っていたふたりが、ふと思いついたように遊園地に駆け出していくシーンが撮影された。ここでは、ふたりが駆け出した後に、iPhone 16 Pro を手にした撮影監督の瀧本も後ろから追いかけていって撮影を行っていた。そんな動きのあるシーンを振り返った瀧本は「本気で走りながら撮った。撮っている最中はiPhoneもそこそこ揺れているし、ブレているだろうなと感じていたんですけど、再生するとお世辞抜きでピタッと止まって見えた。これは本当にすごいこと」と舌を巻いた。
従来の映画撮影では、まずiPhoneを使って画角を決めて、そこから大きなカメラを設置するという瀧本だが「今回はそのまま本番に臨むことができた。たまにiPhoneで撮影していることを忘れてしまうぐらい、すごくやりやすかった」。また普段の大型のカメラとは違い、普段では入れないような狭い場所や、地面すれすれのローアングルや、あるいは高い位置からのハイアングルにもフットワーク軽く対応できたといい、「可能性がすごく広がった」と満足げに語った瀧本。ほかにも、夕陽を入れ込んだアングルなども柔軟に対応することができたとのことで、「技術的なことを言うと、普通はラチチュード（フィルムが捉えることができる明暗の幅）が広くないと難しいんですけど、ちゃんとハイからローまでの階調も残っていた。そこは信頼できる。いい画が撮れたと思います」と手応えを感じていた様子。そしてそれは是枝監督も同感だったようで、「撮影した素材を75インチのモニタで見ましたが、安定感のある画面だった。それは本当に驚きだった」と振り返った。
是枝監督は今回のチャレンジについて「素直に面白そうだなと思った」と語った。「瀧本さんなら面白がってくれるだろうなと思ったし、実際に面白がってくれた」と笑った。参考のために、過去にiPhoneで撮影された作品をいくつか鑑賞したというが、その中でもピーター・チャンが中国で撮った短編に感銘を受けたという。「駅のホームだけでできあがっているような、ドキュメントタッチの作品だった。携帯の小ささを活かしている作品で、こういうコンセプトは面白いと感じた」と明かした。
これまで『そして父になる』『海街diary』『三度目の殺人』などでタッグを組んだ是枝と瀧本コンビだが、くしくも本作では『海街diary』と同じ鎌倉が舞台となっている。「今回は意図的に鎌倉にしたわけではないのですが、鎌倉は定期的に撮りたくなる場所。やはりここには、江ノ電が走っていたり、海が近かったり、トンネルがあったりと、東京が失ったものがまだたくさん残っている。だから時々来たくなります」とその思いを語った是枝監督。本作の撮影は終始、天気にも恵まれ、手応えを感じている様子だった。（取材・文：壬生智裕）
短編映画『ラストシーン』は5月9日11：00より Apple Japan 公式YouTubeチャンネル、Apple TV アプリで配信予定