ADVERTISEMENT

ピクサーで活躍する日本人アーティスト!手を加えれば加えるほど良くなるライティングの面白さとは

ピクサー・アニメーション・スタジオの自室で取材に応じた奥村裕子
ピクサー・アニメーション・スタジオの自室で取材に応じた奥村裕子

 ピクサー・アニメーション・スタジオでライティングアーティストとして活躍する奥村裕子がインタビューに応じ、“終わりがない”というCGアニメーションにおけるライティング(照明)の奥深さを語った。

【動画】ライティングにも注目!『星つなぎのエリオ』冒頭3分本編映像

 奥村は「ライティングの一般的な役割には、キャラクターをきれいに見せたり、観客の視点を見てほしいところへ誘導したりというものがありますが、ピクサーの良さは、ライティングでストーリー性を作っているところなんです。自分が担当するショット一つ一つで、キャラクターの心理状態や、そのショットがストーリー上どう大切かを説明された上で、画作りをしています」と明かす。現在公開中の『星つなぎのエリオ』のオープニングシークエンスでも、そんなストーリー性を持ったライティングが光っている。

ADVERTISEMENT

 「最初のシーンも、航空宇宙博物館そのものはウェルカムな感じの温かいライティングなんですが、エリオは心を閉ざしているから、彼が机の下に隠れている時は色味を落として、寒色系にし、対照的にしています。そんなライティングからも、この子は孤独で、幸せじゃないんだということがわかると思います」

 エリオの肌は温かみのある質感なため、それに寒色の光を当ててベースの色が変わってしまわないように工夫も凝らした。「もともとの色をなるべく崩さないように演出の色を付けてあげるというのが大変で」と苦労を明かす。キャラクターの瞳に入っている光も、ライティングアーティストが一つ一つ手作業で入れていく。「最初は“実写っぽく”という話だったので、瞳にはすごくリアルなハイライトを付けていたんです。ですが、ストーリーが発展するにつれてコミカルな楽しい部分が加わっていき、“もうちょっとかわいい、アニメっぽい目にしましょう”という監督たちの意向があり、エリオの瞳には二つのハイライトを入れることになりました。それはすべてのショットで守られています」

 「CGの面白さは、手を加えれば加えるほど自然になっていくところ」と奥村は言う。「実写とは違ってすべてをゼロから作るので、間引くのではなく、足していかないといけないという作業なんです。実写が写真だとしたら、CGアニメーションは油絵で、ライティングではその色も全部自分たちで選べます。陰影も実写だと真っ暗になっちゃうところを、CGアニメーションでは逆に光を当ててあげて、陰影にディテールを付けるというのが重要です。そうすることで、キーライトが目立ち、浮かび上がってくるんです」

ADVERTISEMENT

 色とライトでストーリー演出までできるのがライティングの醍醐味だ。「本当に終わりがないというか、無限にできるんですよね。“ここまでやったらいいかな”というところまでやって撮影監督に見せると、『ここもうちょっとこうして』とか『ちょっと色味変えて』と言われたりするのですが、そうすると本当に良くなるんです」

 「もちろんテクニカルにツールをこなしたり、計算したりという部分もあるのですが、最終的には数字だけじゃなく、目の匙加減になったりもするんです。何かを少し変えるだけで“急に視点がそこに定まる”みたいな、微妙な数値があって、それを最後まで変えて、変えて、って感じです。ピクサーのすごいところは、そういったこだわりを最後までやらせてくれる予算があり、本当に最後の最後まできれいに作ろうという空気があるところ。やはりライティングアーティストとしては一番やりがいのある会社だと思います。そこが一番楽しいところですね。『もうちょっとやりたいのに……』となることも多い中で、本当にやりたいだけやってみたいな感じで、そういうところが素晴らしいと思います」とアーティストの終わりなき挑戦を可能にする、ピクサーならではの風土を明かしていた。(編集部・市川遥)

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • ツイート
  • シェア
ADVERTISEMENT