ギレルモ・デル・トロ監督『フランケンシュタイン』に込めた愛のメッセージと「不死」への嫌悪

　名匠ギレルモ・デル・トロ監督の最新作『フランケンシュタイン』のNetflix独占配信がスタート。幼いころから「フランケンシュタイン」の物語と怪物に魅了され、本作を「私の自伝」と語るデル・トロ監督が、本作に込めた思いや、盟友であるゲームクリエイター・小島秀夫との関係なども語った。（ネタバレあり。以下、映画の内容に触れています）

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　本作は、作家メアリー・シェリーが1818年に発表したゴシック小説を映像化。科学者ヴィクター・フランケンシュタイン（オスカー・アイザック）と、彼が禁断の実験で生み出した“怪物”（ジェイコブ・エロルディ）の愛憎劇が、デル・トロ監督ならではの映像美でつづられる。

　アカデミー賞に輝く『シェイプ・オブ・ウォーター』など、常に異形への愛を貫いてきたデル・トロ監督。さらに、そのフィルモグラフィーのなかでしばし作品で言及されるテーマが“不死”だという。本作で怪物は自身が不死であることに苦悩する。それは、デル・トロ監督が「不死」を嫌い「死」を愛するからだ。

　「“不死”というものが大嫌いなんです。“死”は大好きですね（笑）。私の長編デビュー作『クロノス』でも“不死”を悪いものとして描きました。死の存在を、私は幸せだとさえ思います。子供の頃から“死”について考えてばかりいました。当時は恐れていましたが、今は考えるとハッピーな気持ちになるんです。まだ60歳ですが、自分の寿命が尽きた日にきっと、“もうこれ以上悩むことはないんだ”という風に受け止められると思います」

似た者同士、創造の共通点

　そんなデル・トロ監督は、盟友であるゲームクリエイター・小島秀夫監督の大ヒットゲーム「DEATH STRANDING」シリーズに登場するキャラクター、“デッドマン”のモデルを務めている。そのことにデル・トロ監督は「本当に嬉しかったです。デッドマンの頭には、フランケンシュタインの怪物のような傷もありますから！」と満面の笑み。『フランケンシュタイン』に「DEATH STRANDING」を想起させるシーンがあったと尋ねると「それは偶然です。しかし、偶然以上のものだとも言えるしょう」と語り、小島監督とのつながりについて語った。

　「私も驚いたのですが、『Death Stranding 2: On the Beach』に登場する“レッドサムライ”というキャラクターが（映画に登場する）“闇の天使”を思わせるんです。でも、小島さんと、このことについて話したことはなかった。そうなった理由は、私と小島さんが深いところで似た者同士だからだと思います。そうした者同士というのは、創造するものも、似てくるのではないかと思うのです。そしてそれは、日本文化と（監督の出身）メキシコの文化にも言えると考えています」

　「日本文化とメキシコ文化はとても異なりますが、とても似ていると感じる点が多いんです。それは、“わび・さび”の概念や、“不完全さ”や”死”に対する考え方、不完全なものに美を見出したりする部分などです」

　「黒澤明監督の『生きる』を観た時に感じた、死に向き合いながら生きる感覚……。日本ではそれをとても優美で繊細に表現し、メキシコではもう少しワイルドに扱います。でも、侍の文化やふるまいには、とてもワイルドな一面もある。私たちは、内面に荒々しい一面を秘めながらも、それを抑えて生きているという部分は似ていると思うのです。さらに本作では、“怪物”を演じたエロルディの動きに、日本の舞踏を参考にしています。

“凍った船”の意味

　そんな本作のメインテーマとなるのは、ヴィクターと怪物、“父と子”の関係をめぐる物語。デル・トロ監督は「私にとっての自伝です。私と父だけではなく、私と子供たちの物語でもあります」と明かす。“息子”でありながら“父親”のヴィクターから憎悪を向けられる怪物の悲哀は、数々の異形を愛情をもって描いてきた、デル・トロ監督の真骨頂ともいえる。

　「この映画の怪物は、“息子”としてあらゆる物事に対して“反応”をしているんです。憎悪を向けられると、彼は憎悪で返します。そして、愛を受けると愛を返すんです。そして、劇中に出てくる“凍った船”は、そうした憎しみや盲目さを象徴しています。だから、彼が初めて彼が“人間”になった時……憎悪を向けられて同じ反応を返すのではなく、自分の意思で“あなたを愛します”という意思を示した時に船が動く。あれは怪物にとって、深い部分の解放を意味しているんです」（編集部・入倉功一）

Netflix映画『フランケンシュタイン』世界独占配信中