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井川遥、デビューから27年経て「今が1番ニュートラル」

井川遥
井川遥 - 写真:高野広美

 50歳男女の等身大の恋愛小説として話題を呼んだ、人気作家・朝倉かすみの第32回山本周五郎賞受賞作「平場の月」が30社以上からの映像化オファーを経て、堺雅人を主演に迎えて映画化された。ヒロインを演じたのは実際に役柄と同年代である井川遥(49)。「今こうして自分が年齢や経験を重ねたタイミングで本作のお話をいただけたことがとても嬉しかった」と語る彼女が、役への想いと共に、自身のデビュー時から現在までの30年間の変化を振り返った。

美しすぎる…井川遥、透明感あふれる撮りおろし<6枚>

 映画『平場の月』(公開中)は、映画『花束みたいな恋をした』(2021)の土井裕泰監督と『ある男』(2022)の脚本・向井康介がタッグを組んだ作品。主人公の青砥健将は、これまでに井川とドラマ「孤独の賭け~愛しき人よ~」(2007)、「半沢直樹」(※第2期・2020)など、何度か共演の経験がある堺雅人が演じている。妻と離婚後、親の介護のため地元に戻って再就職し、慎ましく平穏に暮らす青砥(堺雅人)と、夫と死別し、今はパートで生計を立てている須藤葉子(井川遥)。中学時代の初恋の相手同士だった2人はある日、偶然再会し、35年の時を超えて意気投合。“互助会”と称して、時々飲み会をする間柄になり、離れていた時間を埋めるように心を通わせ、自然に惹かれ合っていく。

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50代の慎ましい恋に共感

35年ぶりに再会した須藤(井川遥)と青砥(堺雅人)(C) 2025映画「平場の月」製作委員会

 優しくて穏やかな母親役や、色香漂う女性の役を数多く演じてきた井川。だが、本作のヒロイン・須藤はこれまでのイメージとはかなり違う。中学の同級生たちに“太い”と評されてきた須藤は、どんなときでも落ち着いている堂々とした女性だ。その一方で、幼少期からずっと両親の不和に心を痛めてきたという悲しい過去も背負っている。井川は須藤のキャラクターについて「多感な学生時代、周囲から奇異の目で見られるのはつらいですし、早く地元を離れたかったと思うんです。青砥は優しいから気遣ってくれるけれど、須藤にしてみれば、そういうことは望んでいなくて。自分の感情を抑えこむように生きてきて、人に寄り掛かることをよしとしない、そこには彼女にしかわからない孤独があるのかな」と分析する。

 「地元を離れてからの月日を須藤は淡々と自虐的に語っていますが、愛に枯渇してきた淋しさの表れというか、屈折した恋愛だったように思います。そういう自分の煩わしさ、ややこしさみたいなものとやっと折り合いがついたから地元に帰ってこられた、そう思います」

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 須藤の芯の強い性格は、キッパリとした話し方にも表れている。「女性的な柔らかさがないんです。意思表示をするときにも曖昧さが一切なくて。すんとしている。青砥と過ごす中で少しずつ関係が深まっていってもホワッと溶ける瞬間を、須藤はあえて見せない。現場で土井監督は須藤について、“究極のツンデレな人”と仰って(笑)。シーンごとに監督とイメージを擦り合わせながら一筋縄ではいかない須藤像を作っていきました」

懐メロで盛り上がる居酒屋のシーンも印象的 (C) 2025映画「平場の月」製作委員会

 劇中、須藤が口にする「青砥はちょうどいい」「ちょうどいい幸せ」といったセリフに対し、井川は「多くを望まず、慎ましくとも自分にとってそれが一番心地いいという感覚は、ある程度、経験や年齢を重ねてわかること」と共感を寄せる。「さまざまな人生経験を積んでお互いに独り身になってからの再会。過去があるのはもちろん承知の上で、とりつくろわず、ありのままの自分を見せて、“こんなわたしですけど、僕ですけど……という感じで。それで惹かれ合えたら、十分というか。それがこの年代ならではの恋愛だと思います」

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 1999年に芸能界デビューし、俳優になって20年以上。今年公開される映画は『ショウタイムセブン』『アフター・ザ・クエイク』『見はらし世代』に続いて、本作で4本目になる。2009年に第1子を出産後、一時期活動を制限しながらも人気が衰えない背景には、ふんわりした癒やし系のイメージをくつがえす、とことん真面目でストイックな姿勢がある。

 「20代で仕事を始めた頃から、芝居のレッスンに通って直すべきことを細かく指導していただいていました。その教えが今もベースにあります。少しでも期待に応えられるようになって責任を果たしたいという気持ちと、それができないことへの葛藤がずっとありました。台本をいただくとシーンを自分なりに書き起こしてチェックをつけて、というような確認作業を毎回するのですが、必ず気づきがありますし、何かの手掛かりになればという感じです。自分の中で用意したものを持ちつつ、まっさらな気持ちで現場に立ちたい」という井川。それでも「やっぱり満足することはないですね。わたしは時間が掛かかりますし、時間を掛けて取り組みもしたい。もっと経験を積まないと、まだまだです」とタフでプロフェッショナルな顔をのぞかせた。

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人生の折り返し地点でやっと力が抜けてきた

写真:高野広美

 本作の劇中で描かれるのは中学時代と現在だけ。しかし、その間に35年の喜びや辛苦の月日があったからこそ、今の須藤、青砥がいるのだと確かに感じられる物語だ。井川自身は30歳で結婚し、一男一女の母に。「30代は家庭の基盤をつくるため、また新たな道のりの始まりでした。子育てに奔走してその環境に順応することに精一杯でしたが、人生の大きな転機だったと思います」と回顧。そして現在は40代最後の年。

 「子育ては続いていますが、大きくなってくると、それぞれ個性の異なる1人の人間として、また子ども同士の世界が広がって新しい心配が出てきたりして。子育ての大変さは形を変えていくものですね。親もこうして育ててくれたんだなと最近よく思います。それに、ここ1~2年は自分の体力の衰えを感じることが増え、ここが痛いとかも出てきましたし(笑)。子どもたちは思春期を迎え、わたしは揺らぎの世代に入り、親の健康も……自分だけではコントロールできない、いろんなことが起こる中で、じゃあ、どうすればいいだろう? って、試行錯誤です。そういう意味では少し力が抜けて、今が1番ニュートラルかもしれません」

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 須藤のセリフにあった「ちょうどいい幸せ」を、自身について尋ねると、「丁寧さや実直さ、日々の心掛けにあるものですね。家族がわたしの作った料理を喜んで食べてくれたときとか、思いやりに触れたときに幸せを感じる」という言葉が返ってきた。「積み重ねてきたものがいつしか糧になって自分の背中を押してくれたらいいですね」とも。

 愛情深く、小さな日常に丁寧に向き合ってきた生活ぶりは、彼女が演じる血の通ったリアルなキャラクター像ともつながっている。(取材・文:石塚圭子)

ヘア:藤原一毅 メイク: 佐々木貞江 スタイリスト:青木千加子

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