「べらぼう」脚本・森下佳子が驚いたキャストは?「負けました」

横浜流星主演の大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」(毎週日曜NHK総合よる8時~ほか)が間もなく最終回(12月14日)を迎える。脚本を手掛けた森下佳子が、劇中、特に驚きが大きかったというキャストについて語った。
大河ドラマ第64作「べらぼう」は、江戸時代中期、貸本屋から身を興して書籍の編集・出版業を開始し、のちに江戸のメディア王として時代の寵児となった蔦屋重三郎(横浜流星)の物語。脚本を大河ドラマ「おんな城主 直虎」やドラマ「大奥」シリーズ(NHK)などの森下佳子、語りを綾瀬はるかが務める。
本作は、喜多川歌麿(染谷将太)、北尾重政(橋本淳)らをはじめとする絵師や、戯作者の朋誠堂喜三二(尾美としのり)、北尾政演(山東京伝/古川雄大)、狂歌師の太田南畝(桐谷健太)ら江戸の文化を作り上げた名だたる顔ぶれも話題を呼んだ。なかでも森下が「びっくりした」というのが岡山天音演じる恋川春町。小島松平家に仕える武士で、挿絵も文章も書ける戯作者。「金々先生栄花夢」が大ヒットし、黄表紙の先駆けとなった存在だ。
森下は「春町先生(演じる岡山)がかなり口調とかを昔の映画みたいなセリフの言い回しをされていたと思うんです。それによってオタクっぽさが表れてきたのですが、とはいえ春町先生は真面目なところもあるので、初め観た時にはこのままの調子で行って大丈夫なのかなと。本当に岡山天音に負けました、という感じです」と話す。
森下にとって特に印象深かったシーンが、第22回(6月8日)の宴会の場で、春町がフンドシ姿で放屁芸を披露する場面。「もう少し照れたりしそうですけど、岡山さんはものすごく真面目にやるんですよね(笑)。でも根が武士だったらこうなるのか、とも。わたしが想像していなかったけど納得もできるっていうシーンをたくさん出してくださったと思います」
その春町は蔦重と次々に作品を出していくが、田沼意次(渡辺謙)に代わって松平定信(井上祐貴)が老中となってから運命が一変。春町が、定信の文武奨励の策が空回りしていくさまを描いた「鸚鵡返文武二道」は定信の逆鱗に触れ、絶版となり、追い詰められた春町は自害してしまう。切腹したのち自ら「豆腐の角に頭をぶつけて死ぬ」を演出した奇想天外な死にざまが大いに話題を呼んだが、そうした経緯を森下はこう振り返る。
「初めはふんどし一丁で死ぬ予定だったんです。でも春町先生って戯作者の自分と、武士としての自分と、身の中に2つ立てている人で、ふんどし姿だと武士の春町はどこへ行った? っていうことになってしまうと気づいて。どうしようとなったときに、(制作統括の)藤並(英樹)さんが“じゃあ豆腐の角に頭をぶつけたらいいんじゃないですか”と提案してくださった。それで武士の部分は切腹で、戯作者の方は豆腐の角というハイブリッドになりました」
春町の死を知り、人知れず布団部屋で慟哭した松平定信。春町は死してもなお、ことあるごとに蔦重や絵師たち、戯作者たちの会話に登場し、その存在の大きさが伺えた。現在進行中の“写楽でっちあげプロジェクト”も春町の供養の一環として展開されており、その行方が注目される。(取材・文:編集部・石井百合子)


