生見愛瑠の底知れぬ魅力 『君歌』三木孝浩監督が見た、俳優としての可能性

道枝駿佑(なにわ男子)が主演、『今夜、世界からこの恋が消えても』(2022/以下『セカコイ』)チームが再集結した映画『君が最後に遺した歌』。歌を奏でる男女の10年にわたる恋模様を描く同作のメガホンを取った三木孝浩監督がインタビューに応じ、同作でヒロインを務めた生見愛瑠と、彼女が歌唱する楽曲について語った。
綾音の心境と楽曲のバランス
『セカコイ』に大きな手ごたえを感じたという三木監督。同じ座組なので主人公・水嶋春人(みずしま・はると)を道枝が演じることは決まっていたが、彼に作詞を依頼し、自身は曲を作って歌うヒロインの遠坂綾音(とおさか・あやね)は未知数だった。これまで音楽的活動には縁がなかった生見のキャスティングは、第一報からファンを驚かせた。
「歌を歌う役ではありますが、この物語で一番大事なのは、春人と綾音がどうお互いの思いを寄せ合い、どうお互いを補い合って、どう感情が動いていくのかというところです。ですから、(歌手の方と限定せず)歌の伸び代があってお芝居が確かな方にお願いするべきだと思いました」と三木監督はキャスティングの方向性を明かす。
「この世代で、アーティスト“Ayane”としての説得力を出せる方は誰だろうと考えました。そして、何人かリストアップしていただいた中に、生見さんがいらっしゃいました。歌う動画を拝見したのですが、正直、僕にはアーティストとして説得力のあるAyaneになれるかわからなかった。太鼓判を押してくれたのは亀田誠治さんです」
音楽プロデュースの亀田誠治は「生見さんなら大丈夫です」と断言したという。「周囲も生見さんご自身も、その言葉がスイッチになったんじゃないかなと思います。亀田さんは魔法使いです」と三木監督は感嘆を漏らした。
生見は出演決定後、寸暇を惜しんでボーカルとギターの練習に明け暮れた。「約1年以上、ものすごく努力してくださいました」と三木監督は感謝をささげる。その甲斐あって、生見は「発達性ディスレクシア」という文字の認識が難しい症状を抱えながらも、作曲と歌唱の才能を持ち、やがて多くのファンから支持されるアーティストの“Ayane”という難しいキャラクターを見事に作りあげた。劇中では、美しい歌声だけではなく、ギターの弾き語りまで披露している。
劇中で綾音が披露する楽曲は、その時々の彼女の心境に寄り添っている。三木監督が音楽面で一番こだわったのもそこだった。「どんなに曲がよくても、それがないとバランスが崩れてしまう。そのバランス感が一番難しかったです」と三木監督。そのために、脚本の吉田智子と亀田との間で、何度もキャッチボールが繰り返されたという。
「パズルのピースのように、曲がぴったりはまってこそ映画も生きるという作品なので、亀田さんにも脚本を相当読み込んで理解していただき、綾音の感情が乗る楽曲を作っていただきました。すごく密にコミュニケーションをとりました。生見さんが歌ってどう聞こえるか、キーの選び方なども含めて、一歩ずつ確認しながら一緒に作っていきました」
それは、多くの音楽映画に携わる三木監督と亀田にとっても、初めてのスタイルだったという。三木監督は「手探りでした。あえていえば映画『ソラニン』(2010)は音楽と脚本が密接という意味では近かったかもしれませんが、あれは原作の漫画に歌詞があったので、それを元にできました。今回は(参考元が)なかったし、曲数も多かったので、亀田さんは本当に大変だっただろうなと思います。僕はもう、祈るしかなかった(笑)。でも亀田さんは、見事にクリアしてくださいました」
アドリブに近い自由な演技
生見はモデルやバラエティー番組の印象も強いが、映画『モエカレはオレンジ色』(2022)のヒロインはもちろん、ドラマ「日曜の夜ぐらいは…」(2023)や「くるり~誰が私と恋をした?~」(2024)などの演技で高い評価を得ている。それでも「綾音になるのは難しかった」と正直に吐露していた生見。三木監督は「彼女は本当に真面目で優しいので、求められることに一生懸命応えようとしてくれるんです。でも、生見さんご自身の中に『これやりたい』『こんなふうにしたらどうだろう』という部分があって、それが実は綾音に近いんじゃないかなと思いました。彼女のお芝居の魅力はそこかなって気がして。ですから、綾音を演じるうえでは、アドリブに近いくらい、やりたいようにやってほしいとお話しました。そこを彼女が掴んでから、お芝居が格段によくなった気がします。生見さんにとっても、それは気づきのポイントだったと思います」
初顔合わせとなった生見と次にタッグを組むとしたら、どんな役がいいのだろうか。「歌とギターにチャレンジしてここまで仕上げてくださった生見さんですから、まだまだ底知れないものをお持ちだと思います。もっと力を発揮できる方だから、たくさんの作品で生見さんのお芝居を見てみたい。もちろん、僕もご一緒したいです」と希望を語る三木監督。「今回彼女には、自分の内側から表現する楽しさや面白さ、喜びに気づいてもらえたんじゃないかと思います。ご本人に確認してないから、わからないのですが(笑)」と笑いながらも、「この先、キャラクターとして生きるお芝居をもっと表現できると思います。本当に楽しみです」
若者が希望を持てないといわれるこの時代、三木監督は心温まるラブストーリーを世に送り出す意義をどう感じているのか。「この映画は、2人が出会うことで自分の存在価値に気づく物語だと思います。今は、楽しいものも調べものも、何でも1人で完結しがちな時代ですが、それだけだとなかなか見つけられない部分がある。いろいろな人と出会い、そこから力を得て、客観的に自分の価値に気づくことは、コミュニケーションからしか生まれない気がします」と胸の内を明かす。「自分の生きている意味は何か、みたいな根源的な疑問は、他との関わり合いで見つけていくものですよね。そういう意味で、この2人がお互いに答えを与えあえる存在だというのは、今作の大きな魅力だと思います。ぜひ若い方を含め、たくさんの方に観ていただきたいです」とアピールした。(取材・文:早川あゆみ)


