『踊る大捜査線』甲本雅裕、緒方薫を演じて30年 湾岸署時代からブレない立ち位置「緒方は1ミリも変わらない」

1997年放送の連続ドラマ「踊る大捜査線」から主要キャラクター・緒方薫役を務め、シリーズ最新作『踊る大捜査線 N.E.W. メトロポリスを駆け抜けろ!』(全国公開中)にも出演している俳優・甲本雅裕。湾岸署の立ち番警官だった29年前の連続ドラマ時代から、警視庁刑事部捜査第一課で活躍する最新作まで、多くの『踊る』作品に出演してきた甲本が、30年の付き合いになる緒方との向き合い方、主人公・青島俊作として帰ってきた織田裕二との再タッグについて語った。
【画像】みんな変わらない!「踊る大捜査線」青島ら湾岸署メンバー
スタッフ間にある「緒方だから」という共通認識
『踊る』への出演オファーは、いつも「何となく」なのだと甲本は語る。「やるらしいという噂が流れてきて、ザワザワしはじめて、やるのかな、どうなのかなと思っているうちに、気づいたら事務所から台本を渡される。劇場版に関しては、だいたいそんな流れです。噂が煙のうちは『まだ踊っちゃいけない』と自分に言い聞かせて考えないようにして、しっかりと火が見えてからワクワクします」とレギュラーキャストならではのドキドキ感を明かした。
今作での緒方は、警視庁刑事部捜査第一課の刑事。冒頭では、誘拐事案に対処する青島を同僚としてサポートしており、その後起きる拳銃使用都内ホテル連続殺人事件の捜査にも共にあたっている。湾岸署時代からの数少ない馴染みの顔だ。本広克行監督や亀山千広プロデューサーからも、もはや役についての話はなかった。
「緒方だからよろしく、って(笑)。衣裳合わせでも、衣装着なくても終わっちゃうんじゃないかというくらい、スタッフみんなの中で『緒方だから』という共通認識があります。少しビックリさせようというような思いもあるにはありますが、結局『まんまじゃん』という結果に。地域課だろうと捜一だろうと、緒方は1ミリも変わらないです」
さらに甲本は、完成版を観ながら「ほぼずっと驚いていました」と明かす。「こうなるんだ、ああなったんだという、いい意味での衝撃がずっとありました」。映画を観終わった時には「『踊る』は『踊る』だった。何も変わってないって安心しました」と安堵したという。
所属の変化はサプライズとして楽しむ
緒方を演じる際、役のことを考えてスイッチが切り替わったりはしないという。「『踊る』の現場に入れば、もうそれしかないんです。細かいことを言えば『この台詞はこういうことだな』と考えることはありますが、そこに行けばもう緒方になっています。現場で自然に生まれてくる台本じゃない台詞があった時、口に出してみたらそのまま作品に残ったりもします。そういった自由度は、連ドラ時代からありました」
そんな緒方の在り方は、ほかの作品での演じ方とは感覚が違うようだ。「おそらく、別の意識を巡らせていると思います。30年近く同じ役をやっていますからね。そんな経験は、ほかにはない。あくまでも僕は、緒方を演じる一役者であるのは変りないんですけど、密接度が違って来ているんでしょうね。知らない間に生まれてしまった緒方の歴史みたいなものが身についているのかもしれません」
確かに、落ち着いた会社員や温かみのある上司役など、他の作品で見かける甲本は、当たり前だが緒方とは全く違う。「そう言っていただけると嬉しいです。それが役者としての醍醐味なのかなと思います」
緒方は、スピンオフ映画やドラマなど、青島が登場しない作品にも多数出演している。近年では、赤ペン瀧川主演のスピンオフドラマ「警視庁捜査資料管理室」シリーズで主人公の上司という確固たる地位を得ており、『室井慎次 敗れざる者』(2024)では警察を辞めた室井慎次(柳葉敏郎)と秋田で会話もしている。そのたびに階級や所属が違う緒方の現在を知る時は、常にドキドキしているという。
「サプライズ的な感覚で、毎回楽しんでいます。だから、次に繋げて発展させていこうとか、何かを網羅しようとかいう気持ちはまったくない。その都度、緒方が存在していることが奇跡なんです」と笑う。実際、連ドラの頃は次の回に出番があるのかないのかもわからないまま続けていたと、『室井慎次 敗れざる者』公開時に実施したシネマトゥディとの単独インタビューで答えている。
「だから、どこでどんなふうになっていても、何も変わらないなと言われるのが緒方だと思うんです。関わり方として、僕はそれでいいと思う。いきなり重鎮な感じで登場して物語の芯に絡んで引っ張っていく、なんてことになったら、それは緒方じゃないだろって(笑)」と物語の中での緒方の立ち位置を説明した。
『踊る』の撮影現場は「初めまして」という感覚がない
撮影現場では、レギュラーメンバーも初参加キャストも「すべてにおいて違和感ゼロでした」と甲本は振り返り、「中にいるからかもしれませんけど、『初めまして』という感覚を誰にも抱かなかった。そういうことを気にしないのが『踊る』なんです」と断言。主演の織田に対しても「変わっていなかったです。僕の感覚ですけど、人の根本ってそうそう変わらないと思うんです。年を経て当たりが柔らかくなったり、逆に偏屈になったりしても、その人はその人。そういう意味でも『青島さんだ!』と思えました」
撮影の合間で織田と話す時は、芝居の話ばかりになるといい「芝居論でも演技論でもなく、世間話なんです。それによって煮詰まることも、肩が凝ることもない。織田くんとは当たり前に話しているとそうなっちゃうんです」と楽屋での様子を明かす。織田が、甲本は芝居オタクだと話していたことを伝えると「それ、そっくりそのまま返すよ(笑)」と大きく破顔した。
甲本自身はもはや、“この先”は考えていない。「今までもそうですが、どんな部署にいて、どういう描かれ方をされているのか、その時になってみないとわからない。でも緒方という血が濃すぎて(笑)、どうなっても緒方は緒方なんです」と力説。そして、自身の『踊る』への思いを口にした。
「ヒラの劇団員みたいなものです。劇団の次の公演があるか知らなかったけど、ある日急に呼び出されて『え、やるんですか?』と驚いて。『でも劇団員だし、出ないと』って思いつつ、出られることがすごく嬉しい、みたいな(笑)。そういうふうに居られる作品があること、そういう役を与え続けてくださっていることに、ただただ感謝しています」(取材・文:早川あゆみ)



