ドイツ生まれのミヒャエル・ハネケ監督は、4年間ドイツの国営放送局でプロデューサーとして活躍した後、映画『セブンス・コンチネント』で長編デビューを飾る。この作品はドイツのテレビ局から放映拒否されたことで、劇場公開されたという経緯がある。オーストラリアへ移住を夢見る家族の悲劇の死を描いた内容なのだが、長回しや、説明されない登場人物たちの背景、明確に提示されない原因とあいまいな結末など、ハネケ監督独特の作風がすでに確立されている作品だ。タイトルは「第7の大陸」という意味で、地球上には6大陸までしか存在せず、作品のテーマを暗に物語っている点が素晴らしい。続く『ベニーズ・ビデオ』『71フラグメンツ』と合わせ、“感情の氷河化3部作”と呼ばれている。
ハネケ監督の名を世界に知らしめたのは、後に自らハリウッドリメイクすることになる映画『ファニー・ゲーム』。とある家族のもとに卵をもらいにきた少年二人が、その家族を侮辱し、死に至らしめるという異色ドラマで、カンヌ国際映画祭上映の際は、ヴィム・ヴェンダース監督が途中退場したという逸話がある。ハネケ監督いわく、『ファニーゲーム』は暴力映画をエンターテインメントととらえるアメリカの観客のために製作した映画で、暴力に対して警鐘をならしているとのこと。「暴力で暴力を制する」とはこの映画を表すのにぴったりの言葉だろう。
そして2005年。ジュリエット・ビノシュとダニエル・オートゥイユといったフランスを代表する演技派を迎え、カンヌ映画祭で監督賞を受賞した作品が映画『隠された記憶』だ。夫婦のもとに送りつけられた、夫婦の家を監視するかのような映像の入ったビデオテープとグロテスクな絵。単なる陰湿な嫌がらせのように思えたが、その映像には夫ジョルジュの消し去りたい過去との共通点があった……。誰がビデオを撮ったのかという最大の謎を描かない異質なミステリー作品で、ロン・ハワード監督によるハリウッド・リメイクも決定している。
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