アメリカンドリームはこう作られた!50年代舞台の映画にみる現在

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アメリカンドリーム
Visions of America/UIG via Getty Images

 近年、スティーヴン・スピルバーグコーエン兄弟ウディ・アレンなどの監督が1950年代を舞台とした作品を手掛けています。それらの多くでは、単なる古き良き時代へのノスタルジーではなく、現代にも通じるようなさまざまな問題が描かれているのです。50年代を通して、現代に顕在化しつつあるアメリカの問題を描く映画の数々を紹介していきます。(編集部・大内啓輔)

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アメリカンドリームはこう作られた!

 第二次世界大戦が終わり、誰もがアメリカンドリームを夢見ながら「豊かなアメリカ」を体現する消費文化を謳歌していた50年代のアメリカ。この時代は、ローマ帝国の支配時代にならって「パックス・アメリカーナ(アメリカによる平和)」とも呼ばれるような繁栄をきわめた時代でした。そんな50年代は、退役軍人となった第二次世界大戦の帰還兵たちの多くが大学へと進んだり、郊外に家を持ったりしながら生活水準を向上させていくことになります。そして、ベビーブームを迎えることでアメリカは成長を続けていき、一人当たりの国内総生産(GDP)は50年代を通してトップに立つことになるのです。

 そんな現代の映画に描かれる古き良きアメリカとしての“フィフティーズ”の文化は、クラシカルな街並みや自動車、女性たちの気品のあるエレガントなファッションなど、目に楽しい要素にあふれています。上流階級のオートクチュール(高級仕立て服)にしか許されていなかったようなモードが中流階級にまで広がり、ファッションに投資して自身を彩ることがステータスとなっていった時代といえるでしょう。

本当は暗い50年代?夢の裏側

 しかし、そんな表の顔とは裏腹に、映画のなかに描かれる50年代というのは、光と影の両面を持つ時代だったということができます。たとえばジョージ・クルーニーがメガホンを取り、マット・デイモンジュリアン・ムーアらが出演した『サバービコン 仮面を被った街』(2017)は、この時代の闇にスポットライトを当てています。郊外に開発されたユートピアのような架空の住宅街「サバービコン」を舞台に、ある一家に降りかかる悲劇を描いた作品です。白人しか生活していなかったサバービコンに、一組の黒人家族が引っ越してきたことによって状況は一変していくことになります。

サバービコン 仮面を被った街
『サバービコン 仮面を被った街』発売・販売元:TCエンタテインメント 発売日:2019年3月6日(水)- (C) 2017 SUBURBICON BLACK, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

 映画の冒頭でも「理想の生活」と宣伝されるサバービコンには、まさに1950年代的な世界が広がっていますが、実際にニューヨークに存在した郊外都市・レヴィットタウンを連想させます。格安で家を購入できたレヴィットタウンの住民たちは、夫は都心に時間をかけて通勤し、妻は専業主婦になるというのが典型的なスタイルでした。まさに『サバービコン』に描かれたような、どこか排他的な空気が漂う、画一的な住宅が並ぶ大量消費時代にふさわしい光景が実現していたのでした。

サバービコン 仮面を被った街
画一的な住居な並ぶニューヨークのレヴィットタウン - Bettmann/Getty Images

 その閉鎖的な郊外で浮き彫りになる人種をめぐる問題が社会風刺や殺人ミステリーとともに展開していきます。50年代アメリカの豊かさは、現在では消費文化という点において認められはするものの、『サバービコン』で描かれたように、現在からみると本質的には“豊かな”時代ではなかったようです。こうした人種問題は、第45代アメリカ合衆国大統領のドナルド・トランプが「白人至上主義」とも批判される現在、ますます現実的な問題として捉えられることになるはずです。

サバービコン 仮面を被った街
『サバービコン 仮面を被った街』発売・販売元:TCエンタテインメント 発売日:2019年3月6日(水)- (C) 2017 SUBURBICON BLACK, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

 こうした郊外の情景を同様に映し出したのが、『タイタニック』(1997)のレオナルド・ディカプリオケイト・ウィンスレットが夫婦役で再共演を果たした『レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで』(2008)です。彼ら夫婦が暮らすレボリューショナリー・ロードも同様に、どこか閉鎖的な雰囲気をたたえています。ほかにもテレンス・マリックが監督と脚本を手掛けた『ツリー・オブ・ライフ』(2011)でも清閑な郊外の様子が印象的に登場しました。

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いろいろな問題が山積みだった50年代

 人種問題をテーマにしているという点では、2016年の『フェンス』も同様です。黒人の血をひく親子3代にわたる葛藤が描かれる同作では、2010年にブロードウェイで上演された同名舞台の主演を務めた経験をもつ名優デンゼル・ワシントンが監督・製作・主演の三役を務めています。第89回アカデミー賞で作品賞を含む4部門にノミネートされるなど高い評価を集め、ヴィオラ・デイヴィスが助演女優賞を受賞しました。ピッツバーグの一角を舞台にした同作では、アメリカンドリームに邁進する50年代アメリカが語られるときには、決して表舞台には登場しない人々の姿をリアルに描き出したのです。

 「黒人のシェイクスピア」と謳われ、ピュリッツァー賞受賞作家でもあるオーガスト・ウィルソンの原作を映像化した同作は、50年代のペンシルベニア州ピッツバーグの黒人居住区に住むトロイ・マクソン(ワシントン)が主人公。家の庭に作るフェンスがさまざまな象徴的な意味を持ち、人種問題と同時に、親子や夫婦といった家族についても考えさせられる物語となっています。

レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで
『レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで』より- Richard Corkery/NY Daily News Archive via Getty Images

 ほかにもテイストは異なりますが、シアーシャ・ローナンを主演に迎えた、アイルランドからニューヨークへとやって来た移民女性を主人公にした『ブルックリン』(2015)も随所に歴史的な人種問題をほのめかしています。アメリカという国が多くの移民によって作られてきたことがわかるとともに、トランプ大統領の移民をめぐる政策を思うと、さまざまなことを思わせる作品です。そして、2017年の『レディ・バード』『追想』でも主演を務めたローナンの演技や、いろいろな意味が込められた色彩豊かなファッションなども見どころです。

 そして、人種とともにセクシュアリティーの問題も、トッド・ヘインズがメガホンを取った『キャロル』(2015)では取り上げられることになります。「太陽がいっぱい」などで知られるパトリシア・ハイスミスの小説をもとにしたラブロマンスですが、同性ながらもお互いに惹かれ合うテレーズ(ルーニー・マーラ)とキャロル(ケイト・ブランシェット)の運命を描いた物語です。まずは美しい恋愛映画であるとともに、現代でも困難さがつきまとう同性愛やLGBTの問題について考える契機をあたえてくれる作品です。ヘインズ監督は『エデンより彼方に』(2002)でも50年代を舞台にしましたが、ダグラス・サーク監督が得意としたメロドラマを見事に現代へと蘇らせ、同性愛と人種の問題を描き出していました。

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冷戦と赤狩りの恐怖

ブリッジ・オブ・スパイ
『ブリッジ・オブ・スパイ』より- (C) 2015 DREAMWORKS II DISTRIBUTION CO., LLC and TWENTIETH CENTURY FOX FILM CORPORATION.

 そんな栄華をきわめた50年代のアメリカは、政治的に大きな不安を抱えた時代でもありました。それが冷戦と赤狩り(レッド・パージ)です。米ソ間の“スパイの交換”を描くスピルバーグによる『ブリッジ・オブ・スパイ』(2015)は、冷戦中の1957年に物語は始まります。トム・ハンクス演じる弁護士のジム・ドノヴァンは、ソ連のスパイの弁護を引き受けたことをきっかけに、スパイ交換という重大な任務に挑むことに。徹底したリアリズムに裏打ちされ、現代にも通じる「すべての人間は、法律の下、平等な裁判を受ける権利がある」という普遍的な価値観が問われています。

ブリッジ・オブ・スパイ
『ブリッジ・オブ・スパイ』より- (C) 2015 DREAMWORKS II DISTRIBUTION CO., LLC and TWENTIETH CENTURY FOX FILM CORPORATION.

 あるいは、アカデミー賞作品賞を受賞したギレルモ・デル・トロ監督の『シェイプ・オブ・ウォーター』は、ヒロインと怪物によるラブストーリーに「他者」への共感というメッセージを込めたファンタジーのような作品です。キューバ危機により米ソの関係にもっとも緊張が走っていた1962年、アメリカ政府の極秘研究所の清掃員として働く孤独なイライザ(サリー・ホーキンス)が、同僚のゼルダ(オクタヴィア・スペンサー)と共に秘密の実験を目撃したことから、ストーリーが動き出します。半魚人と一人の女性との恋模様を描くなかで、マイノリティーへの圧力という点で現代にも通じる問題を扱っているのです。

シェイプ・オブ・ウォーター
『シェイプ・オブ・ウォーター』より- (C) 2017 Twentieth Century Fox Film Corporation

 冷戦のさなかにあって「マッカーシズム旋風」とも呼ばれた動きのなかで、50年代の米ソの緊張関係は、アメリカ国内に共産主義廃絶の動きを加速させることとなっていたのです。赤狩りもさまざまな作品で繰り返し描かれてきたテーマですが、最近では『ローマの休日』(1953)、『ジョニーは戦場へ行った』(1971)などの名作を手掛けてきた脚本家ダルトン・トランボの半生を題材にした『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』(2015)が話題になりました。

シェイプ・オブ・ウォーター
『シェイプ・オブ・ウォーター』より- (C) 2017 Twentieth Century Fox Film Corporation

 トランボのように、赤狩りの標的となり、共産主義者のレッテルを貼られたら最後、ハリウッドでの仕事ができなくなることを余儀なくされたのでした。ほかにもクルーニーが監督を務め、アカデミー賞にもノミネートを果たした『グッドナイト&グッドラック』(2005)でも赤狩りがテーマとなっていました。さらにはウディ・アレンが主人公を演じた『ウディ・アレンのザ・フロント』(1976)や、『ショーシャンクの空に』(1994)、『グリーンマイル』(1999)などのフランク・ダラボンが監督を務めた『マジェスティック』(2001)では、ハリウッドを震撼させた赤狩りの恐怖が着想の源となっています。

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宇宙開発競争(スペースレース)の裏側で

ドリーム
『ドリーム』より- (C) 2017 Twentieth Century Fox Film Corporation

 冷戦期において国際社会を巻き込んで展開されたのが、アメリカとソ連による宇宙開発競争(スペースレース)でした。この両国のせめぎ合いの様子を背景にした『ライトスタッフ』(1983)は、アメリカが有人宇宙飛行計画「マーキュリー計画」に従事した7人の宇宙飛行士たちの雄姿を描いた大作です。今でも高い人気を誇る、色あせないロマンと興奮が詰まっています。

ドリーム
『ドリーム』より- (C) 2017 Twentieth Century Fox Film Corporation

 そんな“男たちの映画”ともいえる『ライトスタッフ』では、宇宙飛行士の夫たちの安否を絶えず気にかけている妻たちは彼らをただ見守る存在として描かれましたが、2016年の『ドリーム』では、初の有人宇宙飛行計画の陰に実在したNASAの黒人女性スタッフ3人の知られざる功績が描かれることになります。50年代から60年代へと至るこの時代のなか、宇宙飛行において重要な役割を果たしていた女性たちや有色人種の人々にあらためて光が当てられることになったといえます。

50年代のさまざまな顔

 そして、映画史においても50年代はテレビの台頭などにより転換期といえる状況でした。映画産業も衰退の兆しを見せていた時代のなか、製作者たちは映画でしか体感できないようなスケールの物語を提供する大作主義へと傾いていくことになります。この当時ヒットを飛ばしたのは、『地上最大のショウ』(1952)、『聖衣』(1953)、『十戒』(1956)などの長尺で絢爛豪華な大作たちでした。1952年には『これがシネラマだ』という、当時最先端だった大型スクリーン技術「シネラマ」を大々的に喧伝するような作品が登場しました。

 そんな当時のハリウッドの世界を描くコーエン兄弟による『ヘイル、シーザー!』(2016)は、ハリウッド黄金期を舞台に、超大作映画の撮影中に誘拐された大スターを奪還すべく、スタジオに雇われた何でも屋による捜査の模様を追ったコメディー作品です。商業主義に突き進むハリウッドスタジオを戯画的に描きながら、どこか現在にまで続くビッグバジェットの大作映画へのシニカルな視線があるようにも感じられます。

 また、ウディ・アレンが手掛けた『女と男の観覧車』(2017)は、アレン自身にとって馴染み深いブルックリンのコニーアイランドが印象的に登場します。遊園地産業が斜陽となっていたこの時代、ウェイトレスとして働くジニー(ケイト・ウィンスレット)のもとに、音信不通だった夫の娘(ジュノー・テンプル)が訪れることから始まる人間模様の行方が哀しく描かれています。

バック・トゥ・ザ・フューチャー
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』より - Universal/Getty Images

 50年代を描いた作品としては古くは『スタンド・バイ・ミー』(1986)、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985)、『ドライビング Miss デイジー』(1989)などがありますが、これらの作品では80年代からみた50年代のアメリカがノスタルジックに描かれていました。80年代のロナルド・レーガン大統領は、50年代的な「強いアメリカ」への回帰を旗印としていましたが、トランプ大統領はそのレーガンを目指すと指摘されることもあります。この3つの時代には共通する要素があるという見方もできます。

 現代にも通じる問題がさまざまなかたちで現われてきた50年代ですが、これらの映画のなかでは、当時の社会環境や政治体制を背景に、前向きに生きる登場人物たちの姿がささやかな希望とともに描かれていることも重要です。物語のなかに描かれる彼らの境遇が、困難を見つめ直すための方法を示唆してくれているといえます。

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