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夢はろう映画祭がなくなること!~映画界のバリアフリーって?

映画で何ができるのか

今井ミカ、ルカ・デス・ドリデス、牧原依里、マイケル・アンソニー
シンポジウムを行った(写真左から)司会の今井ミカ監督、ルカ・デス・ドリデス、牧原依里、マイケル・アンソニー(写真:中山治美)

LGBTQや環境など1つのテーマに絞った映画祭が注目を集める中、耳が不自由で手話を母語やコミュニケーション手段としている“ろう”にまつわる作品を集めた映画祭が2000年以降、各地で行われるようになった。日本では2017年に障害や言葉の壁を超えて誰でも映画を楽しめるアプリケーション「UDCast(ユーディーキャスト)」が多くの映画館で導入され情報保障が進んでいるように見えるが、あえて、ろうに特化した映画祭が開催されるに至ったのには理由が。そこで、第2回東京国際ろう映画祭(5月31日~6月3日)で行われたシンポジウム「日本・アメリカ・イタリアのろう映画祭からみる現在と未来」から、当事者たちの思いを探ると同時に、日本および海外の映画界のバリアフリーの現状を考えたい。(取材・文・写真:中山治美、写真:東京国際ろう映画祭)

※ろう映画とは? “ろう映画”の確固たる定義はまだなく、東京国際ろう映画祭では「ろう視点、またはろうにアプローチした映像作品」と捉え、他の映画祭ではさらに「製作者や役者にろう者がいること」を条件としているところが多い。

出席者:(順不同)

シアトルろう映画祭(SDFF)フェスティバル・ディレクター:マイケル・アンソニー
ローマ国際ろう映画祭(CINEDEAF)創設者メンバー:ルカ・デス・ドリデス
東京国際ろう映画祭(TDF)代表:牧原依里

司会:映画監督今井ミカ

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東京、シアトル、ローマのろう映画祭って?

シンポジウム「日本・アメリカ・イタリアのろう映画祭からみる現在と未来」
シンポジウム「日本・アメリカ・イタリアのろう映画祭からみる現在と未来」の様子。日本手話とアメリカ手話、国際手話の通訳に加え、イタリア語通訳も登壇。ステージ前には、日本語音声通訳や壇上の手話通訳に登壇者の手話をリレー伝達する手話通訳者もいる。そしてスクリーンはUDトークを使った日本語と英語文字通訳も表記。(写真:中山治美)

今井ミカ(以下今井):今日のテーマは2つあります。各ろう映画祭の紹介とディスカッションとなります。ではTDFからお願いします。

牧原依里(以下牧原):TDFは隔年開催です。作品は、ろう者のスタッフがセレクトしており、運営スタッフには聴者もろう者もいます。上映作品のほとんどはわたしと(プログラマーの)諸星春那が選んでいますが、試写を行い、スタッフの意見も取り入れています。

作品は中・長編がメインで、必ず関連企画も行います。第1回は上映内容に合わせた写真展とアート展。今回はシンポジウムとワークショップを行いました。開催の目的は、ろう芸術の振興、クリエーターの育成、さらに、ろう者と聴者が出会うことで化学反応を起こしたい、そういった場所を作っていきたいと思っています。

活動内容は3つあります。まずは映画祭。また2つ目は夏に、ろうの学生のためのワークショップを実施しています。3つ目はシンポジウム。内容としては、海外の映画祭に参加した時の報告などで、情報共有の場としていきたいと思っています。また、他団体・組織とのコラボレーションも実施しています。文化庁の障害者による文化芸術活動推進事業の助成を受け、社会福祉法人トット基金(理事長:黒柳徹子)が演劇、美術、映画分野のろう者の育成を行っており、わたしは映画部門の代表として参加しています。昨年も『淵に立つ』(2016)でカンヌ国際映画祭ある視点部門で審査員賞を受賞した深田晃司監督を招いてワークショップを行いました。

カンヌ国際映画祭のウラ祭りとして毎年ゴールデンウイークに開催されているシズオカ×カンヌウィークから提案を受けて、2017年からコラボ企画も行っています。TDFの作品の上映や、手話による絵本の読み聞かせを行ってきました。今後も続けていきたいと思っています。

マイケル・アンソニー(以下マイケル):わたしは SDFFを主催しています。また、デフ・スポットライトという団体の理事長も務めています。SDFFの開催は金・土・日の3日間。部門は大きく分けるとドラマ、ドキュメンタリー、コメディー、アニメーション、アクション or スリラーの5つ。上映だけではなくパネルディスカッションも行い、知識の共有の場にもなっています。

SDFFがスタートした経緯ですが、上部団体としてまずデフ・スポットライトが2010年に設立されました。目的は、ろう文化とアメリカ手話を広く伝えること。4人のメンバーで始まり、映画以外にも視覚芸術、演劇、新鋭アーティストのためのワークショップなど少しずつ企画が増え、それに伴いメンバーも増えつつあります。

映画『勝利のボイス』
6人のデフアスリートに密着した『勝利のボイス』(2016)。CINEDEAFがサポートして製作・配給された。

ルカ・デス・ドリデス(以下ルカ):わたしは国際手話を知らないので、イタリア語音声を使わせていただきます。それを日本語に訳して、さらに手話に訳すという手順になります。まず、イタリアのろう文化について説明させてください。イタリアは欧州の中で唯一手話が認知されていない国です。また映画の上映は全部吹き替えになっていて字幕はないので、ろう者にはなかなか難しい社会です。

CINEDEAFの特徴は、イタリアで唯一、ろう者に特化した映画祭で、運営しているのはろう者と聴者からによる自主運営グループです。2010年に始まり、隔年開催。ローマで行っていますが、会場は毎回変わります 。映画祭のディレクターもいなければ恒久的な資金もなく、その都度、資金とスポンサーを探さなければなりません。パートナー団体や文化関係の機関に協力を仰いでおり、その中で最も協力的なのはローマ日本文化会館で、この8年間、サポートしていただきました。

映画祭を開催していくうちに、さまざまな問題に気がつきました。先ほども述べたように、イタリアでは(映画もテレビも)字幕が使われていません。また映画やテレビでは、ろう者があまり描かれません。描かれたとしても、苦しみの中にあったり、助けを必要としている人など、困難な側面ばかりが強調されます。ろう者の役者が活躍できるよう応援することも重要でしょう。とにかく、映画祭を通して、俳優、製作者、観客の皆に成長してほしいと願っています。ですので、目的は3つあります。

1.ろう映画のための観客を増やすしていくこと。観客とはろう者と聴者の両方を意味します。観客が成長すれば、作る側も質の良い映画を作らなければなりません。

2.アドボカシー(権利の擁護)。わたしたちは行政機関などに働きかけて、ろう者がさまざまな場所で活動できるように主張していきます。

3.エンパワーメント。映画の製作において、ろう者が活動できるようにサポートし、応援していきます。3回目のCINEDEAFが開かれた機会に、仲間が協同組合を作り、ろう映画の製作と配給ができるようにしました。その会社の作品が、第2回のTDFで上映されたドキュメンタリー映画『勝利のボイス』(2016) です。

>次ページは「映画祭が聴者とろう者を結ぶ」

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