夢はろう映画祭がなくなること！～映画界のバリアフリーって？（3/4）

課題は人材育成と製作費の捻出

今井：ろう映画祭は、聴者にとってもろう文化やろう者の生活を知ることになりますので、視野が広がる良い機会だと思います。一方で、さまざまな課題も生まれているかと思います。今後の見通しと合わせてお話いただけますか？

ルカ：わたしたちの最終的な夢は、CINEDEAFがなくなり、ろう映画祭そのものもなくなることです。それはどういうことかと申しますと、ろう映画が普通の映画と全く同じように扱われ、ろう映画祭を開催しなくてもいいように、ということを意味しています。そしてわたしたちがあえてろうの監督を応援しなくても、作品が製作でき、ろう者が普通の映画館で映画を楽しめるようになることです。

では、具体的にわれわれが何をすべきか。今行っているスタイルを変えるつもりはありません。もっと大きくしたい、もっとプログラムを豊かにしたい、資金も安定すればいいなと思いますけど。さらに、さまざまな国のろう映画祭のネットワークができたらと思います。わたしたちは欧州で一番大きなろう映画祭ですが、今ここにいらっしゃるアメリカや日本のろう映画祭とのネットワークの必要性を感じます。

わたしたちは、上映作品を選ぶためにリサーチをしますが、日本をはじめアジア諸国の作品をわたしたちだけでカバーすることはできません。またわたしたちが日本や中国の作品を選ぶ時、西洋人の目線で選んでしまうのですが、もしかしたらそれは、日本人が思う良い映画と違うかもしれません。やはり、現地の人が評価する作品を紹介したいと思っています。つまりネットワークを使って、お互いに助け合いながらろう映画が世界的な現象になっていくことを願っています。

マイケル：わたしたちの課題は、製作支援ですね。まず、どのように製作費を捻出するか。製作者の負担が少なくなるように、指導をしていかなければなりません。そうして実績を重ね、力のある制作者を育成していきたい。彼らの技術が社会で認められていけば、質の良い映画作りへとつながっていくと思います。

牧原：特に今、聴者、ろう者関係なく、映画祭はどこも赤字という問題を抱えています。日本では先ごろ、熱海国際映画祭の赤字（昨年開催された第１回の赤字が1,465万円だったことが発覚）が話題になりましたが、聴者の映画祭も非常に資金繰りに苦労しているようです。どうやって継続するのか。それにはお客さんをたくさん呼ぶこと、そのためには作品の質を上げることが一番の得策です。つまり、育成に力を入れるということになります。

日本の場合はその前に、“どうやってろう者が聴者の世界に入っていくか”という課題もあるかと思います。たまたまわたしたちの場合は運がいいのか、聴者にも協力いただいてこうして映画祭を開催することができているわけですが、さらに世界を広げ、人材の育成方法についても話し合っていければと思っています。

その中の一つとして今考えているのは、Netflixのような動画配信サイトで、脳性麻痺の役者などマイノリティーの人たちと一緒になって作品を作って、発表していく。お互い助け合っていけば、新しい未知なる表現も生まれるのではないかと期待しています。インターネットにはそうしたチャンスも広がってるのではないかと思っています。

今井：課題はたくさんありますね。人材育成の話もありましたが、ろう者が映画制作を学ぶ場がないという問題もあります。

牧原：映画祭を通して、制作者同士だったり、聴者とろう者をつなげていくのは大事ですね。聴者の映画祭があまりにも技術的にも上に行き過ぎているので、差を縮めなければと思っています。ろう映画を聴者の映画と同じ舞台に乗せる。そしてステップアップをさせる。いつかは聴者の映画祭と対等になるようにしなければなりません。

ルカ：わたしたちが経験していることが、TDFでも起こるようになるかもしれませんよ。というのも何回か映画祭を開催していると、『何か作品を紹介してくれないか？』と他の映画祭から連絡が来るようになりました。

CINEDEAFではLGBTQをはじめさまざまなマイノリティーの映画をセレクションしているので、テーマを絞った映画祭はもちろん、普通の映画祭にも作品をつないでいます。将来的には、ローマ国際映画祭でわたしたちが推薦した映画が上映されるかもしれません。

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